表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チートだけど宿屋はじめました。  作者: nyonnyon
第六章:宿拡充編
45/61

従業員増やします。 第9話

約一年ぶりぐらいの更新になろうかと思います。


いや~話がまとまらなくて申し訳ない。


とりあえず一気に書き上げたので、

おかしいところもあろうかと思いますが、温かい目で見ていただけると……。


では、どうぞ。

 半数以上が抗議の声も上げることができなくなった宿屋前で、なおもカーラの説明は続いていた。


「次は、受かった方の理由ですね。 今回落ちた理由に当てはまらない方は、『自分には落ちる理由が当てはまっていない』と、感じている方が多いかと思います。

 そういった方は、今回採用させていただいた方の理由で納得して頂ければと思います」


 それは最もな意見であった。 今回試験を受けたもののなかには、本気で宿の従業員を目指していたものもいたのだ。 そんな彼らには、採用しなかった理由が当てはまらない。

 説明をしてもらいたい気持ちは、不採用の理由を知ったことにより、むしろ増大したと言っていいだろう。


「それではこちらの三名を採用した理由ですが、今回私が重要視させていただいた項目は3点あります。


 まず"強さ"、次に"覚悟の深さ"、最後に"将来性"です」


 カーラの説明を一言一句逃さず聞こうと、宿屋前は静寂で満ちていた。 お祭りでもあるのではと思われるほど人でひしめき合っているはずなのに、100メートル先の物音まで聞こえそうなほどの静けさである。


 そんな静寂に、カーラの決して大きくはないが、異常によく通る声が響いた。


「まずは、"強さ"についてから説明させていただきましょう。 "強さ"と言っても武力だけではありません。 忍耐強さなど、様々なお客様と接する機会の多いこの職業だからこその"強さ"をもった方を選ばせていただきました。

 お三方とも元冒険者であり、全員B級以上の方たちです。 純粋な武力は言うまでもないでしょう。 それ以外では、

 シルブスさんは、【器用貧乏】などと言う不名誉なあだ名を付けられたにも関わらず、それに文句を言うこともなく、自分を磨き続けておられました。 クランリードに旅立つ仲間たちには置いていかれ、周りの酔っぱらいからはちょっかいをかけられ、それでも冒険者であることをやめず、自分の実力を上げるために努力を惜しまなかったとギルド職員の方から聞きました。 そんな彼女の実力は、私も一目おいています。

 次に、リキュアさんですが、彼女はお名前のとおり貴族です。 しかし、腹の探り合い、権力の拡充、拡大にしか興味を示さない貴族たちに嫌気がさし、冒険者になられた方です。 彼女は、冒険者養成所を主席で卒業、若くしてA級冒険者昇格、クランリード山脈三合目まで制覇と言う偉業も成し遂げられています。

 ですが、彼女はそんな危険に満ちた生活よりも、安全でかつ人に安らぎを与える仕事がしたいと思ったそうです。 魔獣と戦う冒険者家業とは正反対の道を進むことを決めた彼女は、パーティメンバー、ギルド、その他関係部門の全てに挨拶回りを行いました。

 中には、心無い言葉で彼女を傷つける者もいたそうですが、どんな言葉を言われても、自分の行いが起こした事象だということを心に留め、受け入れていたそうです。 彼女の"我慢強さ"が垣間見えてきませんか? それが、彼女を選んだ理由です。

 最後にルカさんですが、一度ではなく、何度もこの宿を訪れています。 訪れるたびに彼女は、従業員への採用交渉を私に直接行いました。 当時は、従業員を増やす予定はなかったので、彼女の言葉に首を縦にふることはありませんでしたが……。 そして今回、実に12回も交渉にきた彼女に私は"粘り強さ"を感じています」


 一気にしゃべり切るカーラ。 強さという理由を語り、それを聞いた受験者はまたさらに半分近くの人間が『納得できない』、『その理由なら私にも当てはまるんじゃないか?』と、いった顔をしている。

 そんな受験者たちの顔を眺めたカーラは、次の理由を語りだす。



◇◆◇◆◇



「次の理由は、"覚悟の深さ"です。 宿にどれほど力を注げるか、また、宿のためにどんな犠牲を払えるか等を見させていただきました。 あぁ、別に宿のために犠牲になれる精神を持っているから受かるというわけではありませんので、そこは注意をお願いします」


 次の理由を語るための前口上を述べるカーラ。 「宿の為なら死ねます!」などと言う輩は逆に信用できないものである。 そこだけは勘違いをして欲しくなかったのだ。


 カーラの説明が始まったので、まだ不満顔のチラホラする受験者たちは、一言一句聞き漏らすまいと、一歩前に出た。


「さて、先ほどとは逆に、ルカさんからですが、彼女が何度も交渉にきたのは、先ほどの理由の際にも語らせていただきました。 しかし、交渉を何度も行った方は他にも何人かおられますし、回数も彼女と同程度されている方もおられます。 そういった方たちは、『なぜ彼女なんだ?』と疑問を持たれたのではないでしょうか?

 では、私がなぜ彼女を採用したのかと言いますと、彼女は交渉に訪れる際、必ず決められた手順を踏んでいるそうです。 一つ目は、"冒険者を辞める"。 もう一つは、"B級以上にランクアップしてから交渉する" この二つが、彼女が自分に課した覚悟です。 これほどの覚悟をして望んで頂いたのです。 ただ、交渉にこられていた方とは当然、扱いが違っても仕方ないことだと思います」


 それを聞いて何人か(特に冒険者たち)は驚愕に包まれた。


 ―――冒険者を"辞める"。


 言葉にすればとても簡単なことである。 しかし、現実的に、『次の稼ぎまでどう生活するのか?』、『身分の保証等はどうするのか?』など、色々な要素が絡まり合うのである。

 冒険者をしている限り、どれだけランクが低くても、ギルドが雇用している扱いになるため、ギルドカードが身分証がわりになるのである。 しかし、辞めるとカードの効力もなくなるので、新たに市民権の発行や、登録等を行う必要があるのだ。 さらに、一度冒険者をやめると、再登録までに最低でもひと月は待たなくてはならない。 簡単にやめて、簡単に冒険者に戻ることなどできようはずもないのである。 そのあたりは、やはり信用や信頼を扱うギルドであるため、最低限うまく考えているのだ。


 さらに、毎回B級以上にランクを上げる。


 こちらも簡単なことではない。

 ギルドランクは、G級から始まり、SSS級が最上段位の10段階ある。(超越者級というものもあるが、人間ではたどり着けないとされている)

 普通に冒険者を始めると、F級から始まり(G級から始まらないのは、G級は最早最低限「冒険者ですよ」と言える程度の人間の集まりだからである。 ある意味、盗賊等になった方が討伐できて世間の皆様に優しいぐらいのレベルである。)、そこから依頼などをこなして徐々にランクを上げていくのだ。 元冒険者が再登録すれば、前回のランクに応じて少しランクをあげて再スタートを切ることができるが、それでも最大でD級からしかスタートしない。 その上、ランクアップには専門の昇級試験も存在する。 B級に上げるのはかなりの難しさを伴うのである。

 そんなB級に毎度昇格してから、周りの静止を振り切り冒険者を辞めて、カーラの元に交渉に行くとは、相当の覚悟が必要だったはずである。 しかも、受かることが確実とは言えない状況で……。 普通なら尻込みしてしまうであろう。 そんなことを12回も続ける。 それは、覚悟の他に思いの強さも一級品だったからであろう。


 冒険者上がりの受験者たちは皆、ルカの覚悟の深さを思い知ったのである。


「リキュアさんは、先ほどご説明いたしました通り、冒険者としても素晴らしい方でした。 Sランクへのランクアップもほぼ確定とされていた方です。 そんな彼女を周りの人間が放って置くでしょうか? また、彼女のご実家はどう思われたでしょうか?

 答えは簡単で、彼女が冒険者を辞めることは、はっきり言って妨害されました。 ギルドからは、冒険者登録解除の依頼を遂行しなかったり、あからさまに長期の依頼を入れ、無理に冒険者を続けようとさせたりと言う稚拙な妨害が、ご実家からは急な帰郷要請や無理やりお見合い相手を冒険者パーティに組み込む等、まったくもって不愉快な妨害が続いたそうです。

 そんな妨害や圧力等に屈せず、甘言に惑わされず、この宿に転職するためだけに冒険者をやめてくださいました。 それがどれほどのことか、皆様にお分かりでしょうか?」


 カーラの説明にまた数人が驚いた顔をする。


 S級にランクアップすれば、得られる恩恵は計り知れない。 ギルドと提携する宿では、ランクに応じて値段が安くなったりするが、S級になれば、F級の冒険者が最低ランクの大人数雑魚寝部屋を借りるのと同じ値段で、最高級スイートルームに泊まることが可能である。

 武器や防具等を扱う店でも、S級冒険者の使用した武器を作成、販売したとして有名になれるので、良い武器を格安で売ってくれるようになるのである。

 平均的な冒険者であるC級冒険者が、ギリギリ生活に困らずに買える最高級装備をただの鉄屑に変えてしまえるほどの超高級装備がリーズナブルな値段で買え、メンテナンス等も無料になる。

 仕事も優先的に回ってくるし、なんといっても貴族として認められる。(王としてはそんな制度は作りたくなかったが、ほかの貴族連中から必要だと迫られ、渋々了承したのである)

 まさに、一般庶民から見れば夢のような待遇なのだ。


 そんなS級への道を提示されていて、しかも他にも様々な特典まで付けるなどと甘言まで吹き込まれても、リキュアの心は動かず、宿への転職のために冒険者をやめたと言う。

 『なぜ宿に固執するのか?』などの疑問はあるが、宿への情熱が生半可ではない事はうかがい知れた。


 これも先ほどのルカに匹敵するほど素晴らしい覚悟と言えるだろう。


 先ほどまで不満げだった不合格者達は、二人の理由を聞いて、彼女らの覚悟の深さを知り、そこまでの覚悟を持っていなかった自分を恥じた。

 そして、三人目の覚悟がどれほどのものであるかに興味が湧いた。


 そんな、不合格者達の心理を読んだかのように、カーラの説明は再開される。



◇◆◇◆◇



「最後はシルブスさんですか。 彼女はギルドマスターにまで相談に行って辞めることを決意しています」


 その一言は、会場に今まで以上に波紋を広げた。


「彼女は、クランリードへの挑戦を2度失敗しています。 その当時の彼女の実力がどれほどのものだったかは、現在、うかがい知ることはできませんが、彼女の火力不足が原因であったようです。

 そのせいで、パーティからの解雇、その後の彼女に対する評判落とし、様々なことがあったそうです。

 しかし、彼女はクランリードへ旅立つことを夢見て、ずっと訓練し続けていたそうです。 彼女の現在の実力は、リキュアさんと同等かそれ以上です。 私の見立てですので、正確かどうかは皆様のご想像にお任せしますが。

 ですが、噂というのは厄介なもの。 彼女の噂は最早ギルドが動いてもどうにもできないほどの規模になっていました。

 彼女はずっと迷っていたそうです。 『訓練して、力はついているはずなのに声がかからない』と、『自分に冒険者は向いていないのではないか?』と。

 彼女は迷いに迷った挙句、ギルドマスターへの相談という道を選びました」


 集まった観衆達は、彼女の悩みがどれほどのものだったかを知った。 今まで、【器用貧乏】と言われても特に反論もしなかったシルブスが持つ悩みがそれほど大きいものであったのだと……。


 『ギルドマスターへの相談』

 おとぎ話や、過去の英雄譚等では、よくギルドマスターと『友好的に話すシーン』や、ギルドマスターに『直接依頼を持ちかけられる』なんて部分がよく描かれるが、当然、現実にはありえない。

 民衆たちの意見に答えるギルドであるから当然、相談事を持ち込まれることも多い。 ギルドマスターの仕事とは、依頼された仕事の内容確認、報酬の妥当性チェック、適性ランクの割り出し、依頼内容の実虚確認、各地拠点などの定期点検とそれに赴く人員の確保等々、多岐に渡る。

 それこそ、ギルドマスター自身が動いて解決しなければならないような相談事など、年内でも片手の指で事足りるほどのことで、内容も王自らの依頼等だけで、たかが一冒険者の戯言等、耳を貸さないのが一般的なのである。


 そんな多忙なギルドマスターへの相談。 その立場の位置まで食い込んだシルブスの相談事。

 これは彼女の相談事が、かなりの大事(おおごと)であることを雄弁に物語っているのである。


 ギルドマスターから直接シルブスに声をかけることは確実にない。 彼女は特別視される程高ランクの冒険者ではないので、そこに声をかけると、依怙贔屓と思われてしまう可能性が高かったからである。

 来るなら、シルブス側から。 ギルドが提示(非公開だが……)できる最大の譲歩だったのだろう。


 そして、ギルドマスターへの相談を決めたシルブスもかなり大きな覚悟を決めていたはずである。


 ギルドマスターへの相談は、その性質上、『魂の契約書』に記載される。

 魂の契約書に刻まれた、契約内容は、どんなことがあっても必ず履行しなければならない。

 契約が履行されない場合は、即牢獄行きであり、最悪処刑されることになっている。


 シルブスがどのような契約を結んで受験を受けたかは知らないが、『ギルドマスターへの相談』に行くということは、最悪、死を考えなけれいけないほどのことなのである。

 生半可な覚悟では相談に向かえるはずもなく、これも彼女の覚悟の深さを知らしめた。


「これが彼女らを選んだ理由です」


 締めくくるカーラの声は、誰の耳にも優しく届いた。



◇◆◇◆◇



 最早、誰も反論できなくなって静まりかえる宿屋前。


 カーラの説明は最終段階に入っていた。


「最後は"将来性"ですね。 こちらは今までのものと違い、そう複雑ではありません。

 彼女らは、それぞれが自分を磨くことのできる方達です。 年も20代半ばと若く、伸びしろも多い。

 それだけではなく、この宿は将来、私の手から離れることになると思います。 それがいつかはわかりませんが、その時彼女らのような方達がいれば、宿ももっと繁栄し、いずれは大陸各地に拠点を持つ、規模の大きな宿になることでしょう。

 そう、"将来性"とは彼女ら自身のことでもありますが、宿自身のことでもあるのです。

 彼女らのいることで起こる宿の発展、いないことによる衰退。 私は発展を選びました。

 最初、私は自分の生ある内だけこの宿を続けられればいいと思っていました。 そのために、どんな方がこられても、従業員として雇ったりなどしなかったのですが……、今はこの宿を私の代で終わらせたくないものになりました。

 そういった思いも含め、私の持てる技術を全て引き継ぐ事のできる方たちを今回選ばせていただきました」


 そう締めくくったカーラの言葉。


 誰も反論等できようはずもなかった。

 邪な思いを抱いてきたものは、自分の浅はかさをこれでもかと思い知らされ、それなりの覚悟を決めた者たちも、本当に覚悟を決めきれていたのかを再度思い直させられた。


「最後に、私が皆様に行った問いかけ。 あれに正解はありません。

 純粋に本心で『お客様は神様です』と答えていただけたのならなにもいうことはありません。 それも一つの答えなので……」


 彼らには、最早問の答えなどどうでもよかった。

 何が正解であっても覚悟のある人間の言葉にはかなわないのだ。 自分の答えがいかに薄っぺらであったか叩きつけられてしまったのだから……。



◇◆◇◆◇



 宿の前から去っていく人々の群れ。 その表情は皆明るかった。 とても試験に落ちた者たちのする顔ではないが、皆の胸にはそれぞれ活気が溢れていた。



 静かになった宿前で、亭主と新従業員は顔を合わせていた。

「さて、明日からしっかりみっちり宿の業務について覚えてもらうからね。 みんな、よろしくね」


 無表情だが、嬉しそうに微笑んでいることがわかるカーラの声が響いた。


従業員が増えました。


次回からは彼女らの研修の様子を書いていきたいと思います。


あ、それと、改稿版をと来るという話ですが、

これまた申し訳ないですが、かなり先の話になりそうです。


もっと書きたいことを書いて、それなりに納得の行く形までもって行ってから、

エピローグ、完結。

それから改稿版という流れにしようかと。


あと数話とか言っちゃってごめんなさい。


あの時は色々精神的にまいてたんだと思います。


書く楽しさを再度思い出させてくれた数々の名作達。

励ましの言葉をくれたユーザーの皆様。

どうもありがとうございます。


更新ペースはあまり変わらないかもしれませんが、

これからも『チー宿』をよろしくお願いいたします。


では、次話で。


3/25 講義→抗議に修正。

ご指摘ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ