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チートだけど宿屋はじめました。  作者: nyonnyon
第六章:宿拡充編
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従業員増やします。 第8話

 ざわざわとしていたどよめきが徐々に引いていき、落ち着きを取り戻した宿屋前。


 何人かは受からなかったことに呆然としているし、別の場所では受かったのが女性ということで驚いている人たちがいる。

 一体なんだというのだろう?


「ちょっとまてくれ! 納得がいかない!!」


 落ちたのなら仕方ないと、名前を呼ばれなかった人たちが帰ろうとするなか、一人の男性が声を張り上げた。


「? 受験番号2822番、『リオン・アークダイン』さん、何かありましたか? それと、説明はちゃんと行いますよ?」

「説明は、まぁいい。 しかし、おかしいだろ!? なぜ俺が受かっていない!? 受け答えも完璧だったはずだ!!」


 彼はそんなことを叫びだしました。 何を言っているんでしょう彼は?


「『受け答えも完璧だった』、ですか? 本当に? あなたは私の最後の質問に、なんと答えたか覚えていますか?」

「ああ、覚えているとも! 「お客様はなんですか?」という質問だっただろう!? だから、女将であるあなたが掲げる言葉、『お客様は神様です』と答えたんだ! なにも間違っていないだろう!? それが答えられるかどうかの試験だろ!? ただの伴侶探しなら、あの受け答えでなにも間違いじゃないじゃないか!!!」


 リオンさんはそう言って怒りをあらわにしています。 というより、『伴侶探し』ですか? さらに何を言っているのかわからなくなってきましたね?


「……リオンさん、あなたが一体どんな気持ちで、この試験を受けたのかはわかりません。 しかし、勝手に『従業員の募集試験』を『伴侶探し』にすげ替えられては困ります。 そして、もう一つ……、私のした最後の質問は『あなたにとってお客様とは?』です、私の掲げる言葉を聞いた訳ではありません。 ちゃんと、しっかり、貴方の考えでのお客様についてをお聞かせいただかないと……。 貴方の意見でないと、試験にならないでしょう?」

「うっ……。 しかしだな、私にとってもお客様は神様なのだ。 だったら問題無いだろう!?」


 必死に食い下がってくるリオン。 流石に面倒くさい。 この際はっきり選ばなかった理由を説明しておこう。 他の方たちにも説明は必要だし。


「ふぅ、リオンさん、あなたが落ちた理由を説明しましょう。 周りの皆様にも不合格になった理由と、合格された方の理由をご説明させていただきます。 よくご理解していただければと思います。 私の一方的な意見かもしれませんが、それも宿のことを考えてのことですので……。 もし納得できず宿へ何かしらの被害を与えるような行動に出た場合は……」


 ここで言葉を切り、少し周りを見回す。 遠くのほうでリリカさんがちょっと青くなっているのが見えた。


「まぁ、いいでしょう。 では、不合格になった方の理由から」


(言わないのかよ!!!)


 その瞬間、宿屋前に集まっていた者たちの心は複数人を除き一致した。



◇◆◇◆◇



「不合格になった方の主な理由は、『冒険者からの引退』を考えている方です。

 冒険者が辛くなった、レベルが上がらなくなった、むいてないと思い始めた、理由は様々あるでしょう。 しかし、自分が始めたことに対して責任を持たず、『辛くなったからやめたい』などと考える方たちに、宿での業務が務まるでしょうか?


 ……答えは【否】と言わざるを得ません。


 宿などの接客業は、"忍耐"がとても重要になってきます。 子供のわがままに耐え、大人の嫌な視線に耐え、誹謗中傷、罵詈雑言に耐え、毎日、同じことを繰り返す作業に耐え、そんな日々で疲れた精神を表すことにさえ耐えなければなりません。

 そんな"忍耐"が必要な仕事に、『冒険者からの引退』を考えている人、特に『辛い』からやめたいと思っている方は到底ついてこれないでしょう」


 不合格になったものの半数以上が目を伏せた。 皆、図星をさされたのである。


「さらに言わせてもらうなら、自分の能力も考えず、冒険者になり、『むいていないと思い始めた』などと言う理由で引退を考えた方も同様です。

 この方たちはさらに忍耐力に難があるといってもいいでしょう。 むいていなくても続けようとしているならまだ一考の余地はありますが、やめようと考えている方は、『むいていないから』という理由でやめられてしまいそうで、怖くて雇うこともできません。

 また、そういった方は、仕事を投げ出す危険性が大いにあります。 お客様との信頼関係で成り立つ宿の経営に、仕事を投げ出す危険性のある人を就けるわけにはいきません」


 何人かは"確かに"と頷いている。


「次に、『お客様は神様です』と答えた方。 この方々も今回の選考から外れていただきました。

 本当に悩んだ末に、『お客様は神様です』と答えた方が一体何人いたでしょうか? 私の目には大半、『この質問の答えはこれでいいだろぉ』とか、『宿の方針にも書いてあるし、女将()の口癖だもんな』なんて考えで、一切考えずに発言しているように見受けられました。 先ほども少しお話しましたが、私の意見をそのまま言っても、合格になるはずがありませんよ?

 そもそも私がこの言葉を使うのは、

『お客様が当宿に泊まってくださるから、今日の私がある。 泊まってくださるお客様は、無数にある宿から私の宿を選んでくださった。 それは神様が、私に命を与えてくれた奇跡に等しい。 ならば私は、自身の持つ最大限の能力を使い、神様へ感謝を返す気持ちで接客に当たらせていただこう』

と、いう意識を簡潔に表すために使っています。 しかし、あくまでこれは私の考えであり、皆様に押し付けようと思うわけではありません。

 なにごともそうですが、押し付けられたルールでは、納得できない部分も多く、強制されれば嫌にもなるでしょう。 特に仕事ともなれば顕著に現れるのではないでしょうか? ですが、自分で作ったルールを元に仕事を行えば、最低限守ろうとする気持ちも出てきます。 自然にちゃんと仕事をこなすようになるわけです。

 なので、自分なりのお客様へ対する意識を、今回は確認させていただきました。 当然、そこに私の作った私のルールを持ち込んで来ても採用するはずがありません」


 この言葉には、さらに何人かがうなだれてしまった。


「最後に、『本気度が伺えない』方が多数いらっしゃいました。

 『受かろうが落ちようがどうとでもなる』、『別に落ちても冒険者を続ければいいだけだし』といったように一切の本気度が伺えませんでした。

 冒険者が辛くなってきたという方も、冒険者の依頼は別にランク制限があるわけではないですし、採取依頼など簡単で意外に収入のみこめる依頼も多数ありますので、当宿の採用試験に落ちても別に構わないといった感情が見え隠れしていました。

 募集をかける側は、意外とそんなところに目を向けています。 明らかにやる気の無い方を採用することはありません」


 図星をさされまくった受験者たちは、

「もうやめて!! 僕(俺または私)のHPはもう0よ!!」と、どこかの千年キングに停止を求める少女のようなことを思っていた。

はい、抗議及び解説の回ですね。


どこからか不満は出てくる予感はしていましたが、

やはり出てきてしまいました。


次回は、合格した方の理由を書いていきます。

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