従業員増やします。 第7話
試験を受けに来た人たちはいかがだっただろうか?
紹介させていただいた方以外にも、
『産業スパイ』、
『世界を救う勇者を夢見た男』、
『世界で一番かっこいいと思っている勘違い野郎』、
『世界の終焉を見た邪竜』、
『自称 生き別れの母』、
『七つの海を制覇した海賊王(自称)』、
『女神を見守ろうの会 会長』、
『某国 国王』、
『一般人 A』、
『唯一神』、
などなど話題に事欠かない奴らも大勢来ていたが、ほとんど問題もなく試験は終了した。 ……一日で。
では、試験日と今日を除くもう一日は何をしていたかというと、ずっと誰を採用するかを悩み続けていたのである。
悩むこと丸一日、ようやく結論が出た時には朝日が顔を覗かせていたのであった。
◇◆◇◆◇
「ふぅ、皆さんいい人材ばかりで、誰にするか迷ってしまいましたよ……」
宿の外がにわかに活気づいてきたので身だしなみを整え宿の外に出る。 そこには前回とは違いしっかり整列した受験者たちがいた。
なんだか若干数が少ないような気もするが……。
……。
……。
あぁ、強制退場になった方とか、陛下ご一行様とかが抜けたからだな。 強制退場した人を抜くと、まさか人数が1500人ちょっとまで減るとは思わなかったなぁ。 かなり誤算かも……。
「おはようございます。 皆さんお早いですね。 お城の兵士のみなさんも朝早くからご苦労様です。 ギルドの方は……あぁ、後ろのほうで整列を促していただいてますね、どうもありがとうございます」
やはり二日前の大混乱はまずかったようだ。 当初、ギルド側としても、ある一定の応募を予想して一応人数を用意してくれてはいたのだが、その人数で対処できる領域を超えてしまっていた。 リリカさんが人に埋もれていたのを見てもわかっていただけるだろう。
今回は城から騎士団を借りてきて対処にあたっているようだ。 さすがギルドマスターさん、仕事っぷりが半端じゃない。
「さて、時間もいい感じになてきましたので、そろそろ発表いたしましょうか」
コホンッと一つ咳払いをして、
「皆様、お待たせいたしました。 この度は当宿の従業員採用試験を受けていただきありがとうございます。 では、今回採用させていただく方を発表したいと思います!!」
ゆっくりと話し始めた。
◇◆◇◆◇
宿の主人である『カーラ』殿の前口上が響くと、周りの空気が一変した。 それまではどこかふわふわした雰囲気だったはずの宿屋前の一角が、今では巨大な魔物を相手取っているかのような、緊迫した空気が流れている。
「では、今回従業員として採用させていただくのは……、
受験番号1250番、『カーマイン・シルブス』さん」
どぉっ!! っとどよめきが起こった。
『カーマイン・シルブス』だって!? その名前には流石の俺でも驚いた。 まさかあの『カーマイン
・シルブス』が試験を受けているとは……。
あたりで騒いでいる連中もきっと俺と同じ気持ちなのだろう。 何人かは「シルブスだって!?」と、驚いたような声を上げている。 それもそうだろう……、
――『カーマイン・シルブス』、帝国領最北端の街、『エレンシア』出身の冒険者。 剣も魔法も使え、そのどちらも威力、精度ともに高レベルでまとまっているにもかかわらず、決して一流までには届かずで、ついたあだ名が【器用貧乏】。 パーティに一人いればそれなりに使えるが、クランリードなど魔物が強い場所に行くとなると、途端に人気のなくなる可哀想な人である。
ちなみにB級冒険者。(ここでも一流になれない感が出ているだろう)
まぁ、クランリードなどに行くことを考えなければ、年齢も25と若く、容姿も端麗なため密かに人気の高い女性冒険者である。――
「えっ!? え!?」
まぁ選ばれた張本人は急に集まった注目にあたふたしてるがな。
数メートル先であたふたする女性を見ながら、内心彼女に対する評価を上げる俺だった。
◇◆◇◆◇
発表の後、受からなかったからか、帰ろうとするもの、合格者の分析を行うもの、それぞれに意見をぶつけ合うもの、不合格の理由を聞こうとするものなどで、ざわめきはなかなか収まらなかった。 なかには暴れたのだろう、詳しいことはわからないが、騎士に取り押さえられている者までいた。
そんな中、
「皆さん、お静かにお願いします。 まだ発表は終わっていませんよ?」
カーラ殿が告げた言葉に緊張感が戻った。 ざわめきが嘘のように静まり、今なら数百メートル先で地面に落ちた針の音さえ聞こえそうな程である。
そう、ざわめいていた者たち皆、勝手に思っていたのだ、募集されたのは一人だと……。 しかし、実際は違った。
カーラ殿の言葉で、諦めていた者たちの瞳にも活力が戻っている。
「では、あと二人の採用者を発表させていただきます」
あと二人……。 その言葉は、静けさの中に一瞬の波紋を広げた。 自信のあるものは笑顔を、ないものは絶望を顔に浮かべ、次に呼ばれるであろう名前に耳を傾けた。
さて、あと二人、そこに俺の名前はあるのか? 急に不安になってきた。
「まずは……、
受験番号586番、『リキュア・アドルフ・バークソン・ミルレディア・キャスベン』さん、
そして、
受験番号2番、『ルカ・ツークンフト』さん、以上の方を採用させていただきます」
瞬間、先ほど以上のざわめきが、爆発した。
採用者発表。
~場合シリーズはもともとそんなに長くやる予定じゃなかったので。
発表させていただきました。
いや~三人もキャラを増やしてしまいましたね~。 どうなるんでしょうか?
では、次話で。
6/24 自身→自信 に修正いたしました。
東海青龍王敖広様 ご指摘ありがとうございます。
6/24 文章構成を少し変更しました。
きつねこ様 ご指摘ありがとうございます。