従業員増やします。 第4話
お久しぶりです。 書き溜めするとか言って書いてたのが没ネタ集になってしまった作者です。
まぁそっちも見ていただければと思います。
とりあえすこちらは試験を進めます。
「最初の方どうぞぉ」
女将さんの美しい声がドア越しに聞こえた。 ここから俺の人生を変える大一番が始まるんだ!!
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「失礼します」
その言葉と共に最初の受験者が入ってきた。
「よ、よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いいたします。 ではまず受験番号と自己紹介、宿への就職を希望した理由を教えていただけますか?」
面接試験の基本中の基本をやってみた。 この世界にハウツー本なんてないだろうから一体どんなトンチンカンな受け答えをしてくれるのであろうか? 実はそれも密かな楽しみだったりするのである。
なに? 『意外に性格が悪いんですね』って? いま私のことを性格悪いと思った方全員前に来なさい……、少し拳で語り合えば皆さん理解していただけると思いますので……。 まぁそんな冗談は置いておいて、私も就職氷河期を生き抜いてきた強者ですからねぇ、一度面接官として質問する立場に立ってみたいとはずっと思っていたのですよ。
さて、彼は一体どんな人なのかこの自己紹介で少しはわかるでしょうかね?
「はい、え~っと、受験番号2822、『リオン・アークダイン』と申します。 年は34です。 一応冒険者としてはそこそこ名がしれていると自負しています。 就職の理由ですが、まぁ冒険者家業が年齢的にきつくなってきたこともありますのでこちらに就職を期に冒険者から足を洗おうかと思っておりまして」
リオン・アークダインねぇ、聞いたこともない冒険者だな……。 それに34歳で冒険者家業が辛くなってきたってことはあんまり強くはなさそうね……、伸び代もあまりなさそうだし。
「冒険者としてのレベルとランクはどれぐらいですか?」
「はい、レベルは42です。 ランクはC級ですね」
やっぱりその程度ですか……、私よりも年齢が上ですし、ちょっと微妙かもしれませんねぇ。
今回は見送ってもらいましょう。 一応最後の質問だけしておきましょうか。
「簡単ですが時間もありませんので最後の質問です。
宿などのサービス業ではお客様をとても大切にしています。 それにはある理念があるからなのですが……。 まぁそれはおいおいですね。
そこで質問です。 あなたにとってお客様とはなんですか?」
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面接試験という緊張感がついつい俺に現実逃避をさせる。
試験の会場として通されたのは女将さんの部屋であった。 宿に泊まったことのある冒険者仲間から聞いた話だと誰も見たことのない部屋で、ある意味神秘の秘境と言っていいほどの場所らしい。
そんな神秘の秘境に初めて(多分だが)足を踏み入れる男が俺かと思うとなんだか不思議な気持ちになる。
「失礼します」
足を踏み入れた女将さんの部屋は予想に反してとても落ち着いた雰囲気のある部屋だった。 まだ年若い女将さんと聞いていたのでもっとキャピキャピした女性らしい部屋かと勝手に想像していたがそうではなかったようだ。
ベッドと机、それと本棚(これは少し大きめだ)、あとは衣装箪笥だろう。 どれも古いが質の良い作りで、長い年月を経て醸し出される風格が備わっている。
部屋にはホコリやゴミ等一切なく、パッとみでは全く生活感が無いように見える。 だが、不思議と人が、いや女将さんがここで寝泊りしているのだと感じることができた。
女性らしいものが一切ない部屋の中で女将さんが椅子に腰掛けこちらを伺っている。 緊張がかなり高まった。
あ、……いや、女性らしいものが一つだけあった。 ベッドの上にクマのぬいぐるみが置いてある。 首に大きなリボンをつけたクマのぬいぐるみが可愛らしく鎮座する姿は、機能美を追求しまくったこの部屋にどこかほっとさせる印象を与えていた。 女将さんの女性らしい一面を垣間見た気がして少し嬉しい。
裏庭に面するように大きな窓がついており、そこから差し込む光が部屋を柔らかく包んでいる。 壁際に立てかけられているギルタが太陽の光を優しく反射して、部屋全体が柔らかい空気に包まれている。
そういえば女将さんは『悠久の幻想曲』の団長や歌姫とも仲がいいとか……。 本当かなぁ?
そうこうしている間に女将さんからいくつか質問がきた。 どれも難しく考える必要のない質問ばかりなので簡単に答えたのだがよかったのだろうか? まぁどれも嘘は言っていないし大丈夫だろう。
ほとんど女将さんと言葉を交わすことなく最後の質問がきた。 まぁ外にはたくさんの受験者がいたから一人にかけられる時間が短いのだろう。
「お客様とはなんですか?」という質問であったがこれは簡単だ。 女将さんの口癖らしいからな。
「はい、お客様は神様です!!」
多分この言葉は、クラン神と接するような気持ちでお客様に接しますという女将さんの気持ちの表れだろう。 なのでこの言葉を言えるかどうかがこの試験の鍵と言うわけだ、意外に簡単だったな。
「本当にそう思いますか?」
「はい!! お客様は神様ですから!!」
「分かりました。 ありがとうございます。 結果をお待ちください。 結果は二日後にここで発表いたしますので二日後の午前10時に同じように宿屋前に集まるようにお願いいたします」
「はい! ありがとうございました! 失礼します」
無表情だからだろうか厳しい印象を与えている女将さんからフッと威圧感が消えた。 多分好印象だな。 よし! 再就職先も決まったし、冒険者仲間に自慢してやろう。 奴らの羨ましがる顔が目に浮かぶぜ。 なんたって美人女将と俺の二人で宿を経営していくのだから、きっとあんなことやこんなこともあるだろうしな。
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「受験番号2822 冒険者『リオン・アークダイン』 不合格」
女将さんのつぶやきは浮かれて部屋を出て行った俺には一切届かなかった。
はい、最初の挑戦者です。
結果は……。
それよりもカーラの部屋を少し描写しました。
今まで謎に包まれていたカーラの部屋を少し垣間見ていただければと思います。
ではまた次話で。




