男、ふたり 前編
どうも、作者です。
ここまでやりたい放題させてくれる小説も珍しいと思います。
作者好みの話ばかり書いていますので皆さんの反応が怖い限りです。
では、どうぞ。
それは夕方頃突然現れた。
――カランッカランッ
「いらっしゃいませ、『竜帝の宿木』へ。 ご宿泊ですか? それともお食事でしょうか?」
私はいつもより少し客の入りが早いな~と思いながらも接客にでた。 入ってきたお客様を見てみると二人組みの男性であった。
一人は私に向かってきてそのまま喋りだし、もう一人は下を向いて何か考えているようだ。
「いや~ごめんね~。 他の宿がいっぱいだと言うものでギルドで聞いてみたところ、こちらの宿は今日はすいてると聞いたものでね。
それにしても女将さん綺麗な人だね~。 こんな寂れた宿じゃなくて他の大きな宿に行けばいいのに」
喋りかけてきた男はいきなり失礼なことを言い出した。 もう一人はまだ何かを考えているようだ。
「いえ、私にはこの宿の方が合っていますし……。 それよりもご宿泊ですか? 他の宿がいっぱいだったと言っておられましたが……」
「そうなんですよ、他の宿がね、なのでこちらの宿に……何?」
泊まるのか確認したところどうも泊まるようである。 喋りかけてきた男が後ろのもう一人に何か言われて振り向いたのを確認した私は、宿の台帳に記入してもらおうと台帳とペンを用意していた。
……何? 台帳なんて初耳だって? 今までもありましたよ? と言うよりこれがないとお客様の管理が出来ませんし……。
「いや~それにしても女将さんは綺麗ですね~、いやほんと。 女神のようですね~。 この宿は『女神の宿』!! なんちゃって……。 でもほんとに綺麗ですね~。 どうです? 僕とお付き合いでもいたしませんか?」
「申し訳ございません、そういったお誘いは受けないことにしておりますので……。 あのぉ、お客様? お泊りにならないのでしたら申し訳ございませんがお帰り下さい。 それともお食事ですか? それなら少し待っていただければすぐにご用意いたしますが?」
「いえいえ、少し相方の方が渋ってましてね、それで……何?」
また相方とやらに呼ばれたのか後ろを向く男。
(こいつもいきなり軟派してきやがった、イタリア人なんかは女性に会ったらまず口説くと聞くが異世界人も同じなのか? まぁ泊まるみたいだし台帳も用意したし……)
男達が会話しているのを横目に台帳のページを開いていく私。 この台帳もすでに3冊目が終わろうとしている。 そろそろ新しい台帳を用意しなければ……。
と言うより、イタリア人はそんなにすぐ声をかける人ばかりなのだろうか? 間違っていたら確実にテレビの影響だな……。
などと馬鹿なことを考えていたそのとき……。
「ちょっといいかな?」
「……? はい?」
先ほど話しかけてきた男が呼んだのでそちらを向いたのだが……。
――スッ
目の前に鈍く銀に輝く物体があった。
「これが何か分かるかな? その美しい顔に傷を付けられたくなければ売り上げ全てを出してもらおうか」
「……え?」
「おや? 聞こえなかったのかい? 店の有り金を出してもらおうか。 おっと抵抗しようとしても無駄だよ、僕はこう見えてレベル43の冒険者をやっていたこともあるからね、それに後ろの彼が魔法をいつでも打てる体勢を整えているし」
私にナイフを突きつけた状態で勝利を確信した顔に変わるお客様改め強盗二人。 ほぼ丸腰の私に武器を突きつけているので勝利を確信しているようだ。
まぁ私の装備が台帳とペンなので仕方ないと言えば仕方ないか……。
「あの~? お泊りでは?」
「はッこの状況で何を言ってるんだい? 馬鹿なのか? 早く金を出せば痛い思いをしなくて済むんだからさ。 言っておくけどこのナイフは脅しじゃないよ、れっきとした本物さ。 さぁ分かったら早く金を出すんだ、後ろの彼は僕ほど気が長くないからね……いつ魔法をぶっ放すか解らないよ? それとも何かい? 僕の女になる気になったかい? それならそれで僕はかまわないのだけれど」
(あ~何と言うか少し分かってはいたのだが、本当にこの様にテンプレな手段で強盗に来るとは思わなかった。
……ん? なぜ分かったのかって?
話しかけてきた男が「他の宿がいっぱいだったのでこちらの宿を紹介されてきた」って言ってただろ? まぁどう見ても余り繁盛している宿には見えないから仕方ないといえるか……。
しかしこれでも王都で一位二位を争う評判の宿屋なのだ。 最近では私の宿に泊まれないから仕方なく他の宿に泊まるお客様もいるのが現状だ。 これに当てはまらないのは『歓喜の庭園亭』ぐらいのものだろう。
どうしようか……。 やはり宿を増築でもするか? それでは私の負担が増えるしなぁ。 睡眠時間はウシンが勝手に増やしていくスキルで何とかなりそうだし……。
しかしなぁ、やっぱり自分の時間も欲しいしなぁ。
よし、やっぱり従業員を増やそう!
あっ、それとナイフくらいでは私は傷一つ付かないんだが……。 同様に魔法でも)
はっきり言って驚異でもなんでもない強盗の対処よりもこれからの宿経営のことで悩んでいると、私が急なことに頭が追いついていないと思っているのかもう一人が話し出した。
「まだか? 俺はこの新装備を試したくてたまらないんだ、ごねるようならぶっ放してもいいんだぞ?」
見ると男の指には不釣合いなほど細かく細工の施された指輪が装備されていた。
その指輪はどこか見覚えのあるものだった……。
微妙な位置で区切りました。
大体2000~3000文字をめどに書いています。
次回は多少の戦闘シーンがあるかも……。
では、次話で。




