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チートだけど宿屋はじめました。  作者: nyonnyon
第五章:宿での出会いは一期一会編
29/61

其は魔法の歌なれば 後編

遅くなりまして申し訳ございません。


少々長くなりましたが後編です。


王道?ネタで突っ走ります。


どうぞ

 夜の部での歌は大成功と言っていいだろう。


 宿泊客や食事に来ていたほかの客全てが拍手をくれたほどであった。

 あの騒がしい食事の時間にあれだけの客が全て聞いてくれたと言う事は、やはり彼女の声は素晴らしかったのだろう。彼女を一目見たときに「この子はすごい」と見抜いた俺の目に間違いはなかったようだ。


 部屋に戻った俺たちは今日の成功を遅くまで語り合った。



----



「今日は大成功だったな!」

「そうね、カーラさんもとてもいい人だったし、まさかこんなに良くしてくれるとは思わなかったわ」

「どうだろう? 少し遅いけど御礼を言いに行かないか?」

「そうね、「お客様が全員お休みになるまでは起きています」って言っていたし、昼間の問いかけの答えも知りたいしね」


 彼女が言っているのはギルタの弾き方のことだろう。

 俺も気になっていたことだがギルタに違う弾き方なんてあるんだろうか?


「よし! じゃあ他の客を起こさないように静かに行くぞ」

「ええ!」


 頷きあった俺たちは静かに部屋を出るのであった。



----



 二階の客室から一階に下りてきた俺たちは、カーラさんのいる部屋に向かって歩いていた。


 そのときカーラさんの部屋から出て行く人影が……。


「誰だろう?」

「あの髪の長さはカーラさんじゃないかしら?」

「暗くてよく分からんが確かにカーラさんポイな」


 何故か廊下の隅に隠れる俺たち。


「持っているのは……ギルタか?」

「そうみたいね、……ねぇこのままついて行ってみようか? もしかしたらギルタの別の弾き方を見られるかも知れないよ?」


 覗き見みたいでなんだか嫌だったが、好奇心には勝てず結局後を付けていくことにした。


 暗い廊下を歩き、カーラさんが扉を開けて外に出て行く。慌てて後を追いかけ俺たちも扉を開けた。


 そこは裏庭だった。果たして裏庭と呼んでいいのかは、はたはた疑問ではあったが……。


 商店が密集するこの商業区でそこだけ現実からぽっかりと切り離されたかのような空間、美しい花が咲き、幻想的な月の明かりがほのかに照らす天上の舞台の真ん中に女神がたたずんでいた。


「綺麗~///」

「ああ……」


 カーラさんは俺たちに背を向けていたがそれでも美しさが損なわれることはなかった。


「お客様、ここは見ての通り裏庭で何もありませんよ。早くお戻りになられた方がいいのではないでしょうか?」


 背を向けたまま問いかけてくるカーラさん。……と言うかバレていたのか。


「あはははぁ、ばれてました?」


 彼女は乾いた笑いと共にカーラさんに微笑んだ。


「はい、しっかりと。それでどうしたのですか? こんな夜更けに」

「良くしていただいたお礼をと思いまして……、後、昼間の問いかけも気になりますし」

「そうですよ! あ、まずはお礼を……、ありがとうございました。

 で、ギルタの別の弾きかたって何なんですか?」


 振り返り問いかけてきたカーラさんに彼女が一気にまくし立てる。おいおい、ほとんど感謝できていないぞそれじゃあ。


「別の弾き方ですか?」

「はい、彼の弾き方を"不思議な弾き方"とおっしゃっていましたし……。どうしても気になるんです」

「はぁ……分かりました、少し弾きましょうか……」


 どこか寂しげにギルタを構えるカーラさん。

 横にギルタを構えたカーラさんに不思議なものを見たかのような目を向ける彼女。失礼とは分かっているが俺も同じ顔をしているだろう。

 あんな持ち方でどうやって弾くのだろうか?


 ♪~♪、~♪


 カーラさんが六本の糸を(はじ)く、流れる音は俺が弾くのと変わらない音であった。少々期待はずれ感も否めない音に彼女と顔を見合わせていると、カーラさんの左手が動いた。


 六本の糸のうち数本を指で押さえたのである。


 その状態で糸を(はじ)くとそこから流れてきた音は先ほどとはまったく違う音であった。


 ~~♪、♪♪~♪


 何度も糸を押さえる位置を変えたり、押さえる糸を変えたりしながらギルタを弾いていくカーラさん。そこにはギルタだけで作りあげているとは思えない音楽の世界があった。


 俺たちはギルタと言う楽器に六つの音を持たせることで簡単な音楽を奏でることを生業としている。そう、一本の音に一音と言うのが俺たちギルタ弾きには常識である。その常識を軽くぶち破るカーラさんの演奏はまさに青天の霹靂といったところか……。

 彼女も隣で目を丸くしている。相当驚いているようだ、もしこの技術を俺が覚えたなら彼女の歌とあわせてかなりすごいことになるんじゃないだろうか? 具体的に何がすごいことなのかはまだ考えられないが……。


 ――それぐらい圧倒的な演奏だった。


 そうこうしていると、小さく、本当に小さくだがカーラさんが息をすう音が聞こえた。俺がギルタ弾きをしているからこそ聞こえたであろう小さな音。

 だが、この音のおかげで次にカーラさんが何をするのかが少し分かった。


「ra~~♪ rara~♪ ~~~~♪」


 ――――衝撃。


 俺と彼女に走ったのはまさにその二文字であった。


 透き通るような透明感のある高い歌声が耳に心地よく届き、さらに不思議と聞こえるはずのない低い音まで聞こえる。その低い音も決してノイズのように耳障りではなく、高音といい具合に混ざり合い素晴らしい和音を響かせている。そこにギルタの奏でる音が複雑に絡まり……。


 気づくと俺と彼女は訳も分からず涙を流していた。


「ご清聴ありがとうございました」

「……は?! 終わっていたのか……。素晴らしい音色でしたよ!!」

「……」(未だ帰ってこず)


 いつの間にか終わっていた演奏に急に現実に引き戻される。


「今の弾き方は!? 何処で覚えられたのですか!?」

「……」(未だ帰ってこず)


 勢い込んで聞く俺に静かに語りだすカーラさん。彼女は未だに歌の世界から帰ってこれていないようだ。


「これは私の故郷での弾き方です。今はもう帰ることの出来ない場所ではありますが……」


 なんてことだ……。こんな素晴らしいギルタ演奏の技術を持つ一族がいたのか……。しかも帰ることは出来ないだって? まさか……。いや、止めて置こう、この質問は余りにも不躾過ぎる。


 俺が心の中で葛藤しているとようやく彼女も帰ってきたみたいだ。


「……は?! 終わっていたのか……。素晴らしい歌でしたよ!! 不思議な旋律でしたが何処の歌ですか?」


 戻って来かたが俺と同じだが気にしない方向で……。と言うよりも戻ってきてすぐによく質問できるな。


「歌も故郷の歌ですね」

「聞いたことのない言語でしたけど……」

「今はなき太古の文明の言語です。所謂、魔法言語ですね」

「……え?」


 彼女が驚くのも無理はない、実際俺も驚いている。

 魔法言語とは古代の魔法文明が盛んに用いたとされる言語のことだ。この言葉が盛んだった頃は魔法ももっと威力が高かったそうだし、人が空を飛ぶことも簡単に出来たそうだ。

 今では古い文献に少しだけ出てくる貴重なもので、新しい魔法技術の開発のため学者達が必死になって解析しているものだ。


 その魔法言語で綴られた歌だって!? 今どれだけすごいことを言ったか分かっているのだろうかカーラさんは!?


「さて、もう部屋に戻りましょうか。早くお休みになられないと明日に影響いたしますよ?」


 そういい残し宿内に戻っていくカーラさん。

 残された俺たちはしばしその場から動くことが出来なかった。








 ――後に『神域の歌姫』、『幽玄の弦奏者』と呼ばれる二人の始まりの物語。

カーラの歌っている歌は色々考えたのですが、特定のものには決めませんでした。

皆様の頭の中で最適なBGMをつけて頂ければと思います。


後、ギルタの引き方についてですが、ハープのように弾いていると思っていただければどれだけ違うかが分かるかと思います。


次回は「登場!? カーラの元彼」か「武闘会開催」のどちらかを書こうかと思っています。

まぁ予定は未定といいますので、変わるかも知れませんが……。


次話もよろしくお願いいたします。

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