其は魔法の歌なれば 前編
どうも、作者です。
大分厨二臭いタイトルを付けてしまいました。
では、どうぞ。
「旅芸人ですか?」
宿のご主人が私達に問いかけてきました。
「一応そうだったんですが最近は旅がつらく……。少し腰を落ち着けられるところで仕事をしようと言うことになりまして。
どうでしょう? 毎日とは言いませんので私達に歌わせてはもらえませんか?」
必死に売り込む私達。ここがダメならもう歌をやめるしかありません。
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私と彼は旅芸人でした。"でした。"と言ってもまだ辞めたわけではありません。
私が歌い、彼が『ギルタ』を弾くコンビのスタイルで続けてきたのですが、最近では両方を一編に行える芸人の方が増えてきて、私達のようなコンビでの芸はコストの面も高く敬遠されがちになってきています。
最初の頃は私が両方行おうかとも思ったのですが、歌に集中しないといい声が出せませんでしたし、彼は彼で歌が壊滅的に下手くそなんです。
そんなコンビの私達はどんどん仕事が減ってきてしまい、このままでは年を越せないのではないかとさえ思うほどでした。
そこで彼と話し合い、旅芸人を辞めて宿で少しの歌を披露する雇用芸人をしようかとなりました。
地方の町から残りのお金をほとんど使い切り、やっとの思いで王都までたどり着き、仕事を貰おうと思ったのですが、何処もソロ活動の芸人さんと契約しており、コンビですがギルタと歌のみしか披露できない私達とは契約すらしてもらえませんでした。
そこでどこかいい宿はないかとギルドに尋ねに行ったら、ここ『竜帝の宿木』を紹介していただけたのです。
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「はあ……。うちは見ての通り余り大きな宿ではないですからねぇ」
「一日だけでもかまいません!! 何とか歌を歌わせていただければ」
「まぁ歌うぐらいならスペースもとらないですしいいのですが、あなた方の実力も解らないですし……。
お二人とも歌うのですか?」
宿の方の反応は妥当でしょう、実力も解らない人を雇い失敗するなんて考えただけで嫌なものです。
「歌は私だけです。彼はギルタを」
「ギルタ……ですか?」
「はい! ギルタです! 実力が解らないということなら今から歌いますので、それでご判断いただければ……」
私達は必死に食い下がりました。
王都にある宿で芸人と契約していない宿はもうここしか残っていないそうです。
「そうですね、一日限りの旅芸人とは違い契約でこの宿に就いていただく芸人さんですので一度見ておきたいですね」
ご主人からはかなりよいのではないかと思えるお返事を頂きました。
私と彼はかなり緊張しながら準備を進めていきます。
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『ギルタ』と言う楽器は中を空洞にした木に六本の糸を取り付けた楽器で、十数年前発掘された古代遺跡の壁画にあった楽器を再現されたものです。
六本の糸の太さや張りの強さを変えることで様々な音色を出すことができ、昨今では貴族のパーティなんかでもよく弾かれるようになった楽器です。
宿のご主人に実力を披露するために準備を終えた私達はいつもとは違う緊張感に包まれていました。私が歌う位置につくと、彼も構えました。
――『ギルタ』を縦に。
その瞬間、宿のご主人からなんともいえない空気が漂ってきましたが緊張している私達はそのことに気づくことが出来ませんでした。
「~♪、~♪♪」
緊張しながらも歌い始める私。
「~♪♪、♪~~♪♪」
比較的短い歌で私たちの得意とする歌を歌いましたが、いつもより緊張していたためか、二度ほど声が裏返り、彼も動揺したのかミスが多くなってしまいました。
これじゃあ、ここも契約出来ないなと彼と顔を見合わせため息をついていると、
「ちょっといいかしら? ギルタはいつもそんな弾き方をしているの?」
宿のご主人からよく解らない質問がきました。
「……え? あ、はい、いつもと言うよりは絶対この弾き方をしてますね。ギルタの弾き方ってこうだ!! って壁画の絵から導き出されていますし……、むしろ違う弾き方ってなんですか?」
ご主人は何を言っているのでしょうか? それよりも合格なのでしょうか?
「そう、まあいいわ、なんだか不思議な弾き方ね……。
今日から歌ってもらうけどいいかしら?」
「……!! ほんとうでしゅか!! ありがとうごじゃいます!!」
答えがもらえなかったですがそんなことはどうでもいいです。
ご主人の言葉の余りの嬉しさにかんでしまいました。
「ええ、声は多少裏返っていたけど透明感のあるいい声だったわ。さて、出演料の交渉など色々行わないとね。
今日はこの宿に泊まっていくといいわ」
「ありがとうございます!!!」
出させていただけるだけでなく泊まる場所まで用意していただきました。
本当にありがとうございます。
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その後行われた出演料交渉も驚くほど高額を提示していただきました。
流石にそんなに貰ったら申し訳が立ちません!
前編と書いてありますが、なんだか終わった雰囲気です。
でも前編です。
続きます。
勘のいい人ならどんなネタか分かってしまうかも知れません。
でも書きます。
次話もよろしくお願いいたします。




