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チートだけど宿屋はじめました。  作者: nyonnyon
第五章:宿での出会いは一期一会編
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冒険者の男 後編

どうも作者でございます。


タイトルから分かるようにこのお話のラストになります。


どうぞ。

 バンッ!!!とドアを吹き飛ばしかねない勢いで飛び込んできた男。


「来たぞ~。おっ? 今日はリリカとアイカもいるのか、華やかでいいな。

 ん? なんだこの男は? カーラはやらんぞ?」


 飛び込んできた途端いきなり言われた言葉に驚く俺。というかこいつどこかで見たような?


「相変わらずですね国王様」

「こくお~だっこ」

「お? いいぞいいぞ、アイカは甘えんぼさんだなぁ。俺とカーラに娘が出来たら友達になってやってくれよ?」


 そんなことを言いながらアイカちゃんを抱き上げる国王。


 ……。


 ……え?


(国王だって!? 確かによく見ればカイル王だ!!? なぜこんなところに!? というかカーラ殿と娘を作るって……。恋人なのか!?)


 もう何度目になるか分からない衝撃の事実にビックリする俺。しかしそれはいい意味で裏切られた。


「何馬鹿なこと言ってるのよカイル。そんな予定どころか付き合いもしてないでしょ」

「ッち、今日も脈はなしか……。まぁいい、カーラ今日も飯をくれ~。ついでに結婚して」

「結婚はしないわよ。それよりそこのお客様も一緒に食べるから同じ席についてね。

 ばらばらに食べられると後片付けが大変なの」


(なんだこの夫婦漫才は、これで恋人じゃないって誰が信じられるんだ? というか国王と同席!? そんな恐れ多い)


 辞退しようと立ち上がりかけた俺を誰かが抑えた。




 ……リリカ殿だ。


「カーラちゃんのご飯をしかもこの時間に食べられるなんて本当は無いことだからね、ゆっくりしていくといいよ」


 そうまぶしい笑顔でいうリリカ殿。

 いや、国王と同席ってだけで落ち着けないんですが……。


 この国王だって俺たち冒険者からすれば憧れの存在であった。

 元冒険者の国王は、それまでのただ名乗るだけで食い詰め物と同じ扱いであった冒険者に、ギルドというものを作ることによって、地位を与え、市民とほぼ同一レベルまで生活環境を整えることに成功した天才の一人である。

 今も発展を続けるオークラン王国に無くてはならない人であろう。


 そんな人物と同席なんてはっきりといえば今すぐ逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。


「おい、お前も飯を食うんだろう? カーラの言うことは聞いとかねえと放り出されるぞ?」


 国王はすでに何回か放り出された経験があるらしい。


 その後対面に座った国王の威圧に押され、横にいるアイカちゃんの可愛さに癒されながら厨房の方を眺める。そこには料理を作るカーラ殿の姿があった。



----



 大量の野菜が切られていく。

 白菜に玉ねぎ、キャベツ……、たけのこやにんじん、ひらひらした黒いもの(きくらげ)の姿も見える。 そのほぼ全てがトントンと小気味良い音を立てながら刻まれていく。


 次に巨大なフライパン(中華なべ)を取り出したカーラはそれを火にかけた。

 十分熱されたのが分かったのだろう、そこに少し香りの良い油(ごま油)をいれる。

 ついでみじん切りにした生姜、ニンニクをフライパンに入れる。炒められていくと共になんともいえない香りを放つ生姜とニンニク、異常に食欲をそそる匂いが宿を満たした。

 よい香りが出たのか、満足したようにカーラは一つ頷くと次に、一口大にきった豚肉、イカ、エビを加えてこれも炒めていく。

 豚肉、イカなどにも火が通ってきたことを確認して、次に野菜を入れていく。

 火の通りにくいものから入れていくのがコツだ。

 最後に小さな卵(ウズラの卵)を数個加え、ほんの少し炒めたあと、

 水、鶏がらのスープ、オイスターソース、酒、醤油を混ぜ合わせ、塩、胡椒で味を調えたスープをフライパンの中に入れて材料を煮ていく。

 白菜の芯の部分が少ししんなりした頃を見計らい絹さやを適量加える。


 そうして出来たスープを小皿に移し、ひとまず味見するカーラ。

 その唇に男達の視線が集中する。

 ぷりぷりの唇が小皿にそっと触れ、スープを啜っていく。

 カーラのような美女に啜られる、実にあの小皿が羨ましい。


 スープが良い出来だったのだろう、満足そうに頷いている。

 心なしかカーラを取り巻く空気が澄んだ気がした。


 次にカーラは、そのスープに白い粉(片栗粉)を水で溶いたものを少しずつ加えていく。

 するとどうだろう、先ほどまでしゃばしゃばだったフライパンの中がとろとろの餡でいっぱいになったではないか!?


 まだまだ料理発展途上世界のこの国でははっきりといって魔法に見えたであろう。


 いったいどんな魔法だろうか? と驚く冒険者の男をよそに料理は進む。


 餡の出来に満足したのか、次に皿を取り出すカーラ。


 すこし深めの皿(丼)に宝石のように白く輝く物(ご飯)を入れ、それに先ほどの餡をかけていく。

 同じことを5度繰り返し(内一つは小さめの丼)その全てを持って国王たちの待つ席にやってきた。



----



「はいどうぞ、中華丼よ」

「待ってました~」

「いつ見てもおいしそうね」

「わ~い」

「……(ほけ~)」


 さっと手際よく作り上げられていく料理に呆然としてしまった。


「どうしました? 貴方の言う『らいす』で作った料理ですよ?」

「……え? これに『らいす』が? あ! あのひらひらした黒いやつですか?」

「ひらひらした黒いやつって……、それはきくらげですね、『らいす』は餡の下に敷いているものですよ」


 それはあの白くてきらきら輝く宝石のようなものだろうか? あれが『らいす』!!! 早く食べてみたいものだ。

 俺は渡された底の深いスプーンのようなもの(レンゲ)を受け取り早速食べようとしたが、


 ジーーーーー


 なんだか周りの視線が痛いです。


「お前なぁ、この宿にはルールてもんがあるんだ、勝手に飯食えると思うなよ?」


 国王からの言葉で何かを悟った俺はスプーンを置いた。


「危なかったわね、あなた」


 そう言って少し体をずらすリリカ殿。 そこには……、


 一、食事の前には感謝の言葉を唱和すべし。

 一、食事の後にも感謝の言葉を唱和すべし。

 一、食事は皆で仲良く取るべし。

 一、食事中の喧嘩は御法度。

 一、微笑ましい喧嘩は不問とする。


 尚、上記の内容を守れないものは強制退場も覚悟すべし。


 この宿の食堂でのルールが、これでもかと、なぜ気づかなかったんだと嘆きたくなるぐらいデカデカと書かれていた。


 え……、俺、こんなデカデカと書いてあるルールにさえ気がつかなかったの? まじヤバじゃね?


「よかったわね陛下が止めてくれて。 せっかく食べにきたライスを一口も食べずに帰ることになっていたわよ?」

「ふん、俺は別にこいつがどうなってもよかったのだがな」


 国王陛下……、ツンデレ?

 てか、ツンデレって使い方合ってるのか? 冒険者仲間がこういう場面では使える言葉だって言ってたけど……。


「ふう、もう少し(スプーンを)近づけていたら問答無用でたたき出すところでしたよ。

 これを張り出す前は皆さん好き勝手食べていましたから……。 張り出してからはみなさん落ち着いて食べてくれるようになったんですけどね。 まぁ、未だに守ろうとしない人はいますけどそういう方はご退場いただいてますし。

 ……。

 ……。

 まぁ、いいでしょう。 では、改めまして、私達の血肉となるため食材となってくれた全ての生命に感謝を持ちまして、頂きます」

「「「いただきま~す」」」

「? いただきます?」


 よく分からなかったが全員が声を揃えて言っていたので俺も真似して言ってみた。 これが感謝の言葉なのかな?

 というか、言わなければたたき出されていたのか……危ねぇぇぇぇぇぇ。


 先ほどの掛け声と共にがっつきだす国王達、アイカちゃんまでもがはぐはぐ言いながら食べている。


 なんともかわいらしい光景だった。


(これは俺の冒険者仲間には見せられないな。あいつらなら間違いなくハッスルしてしまう)


 そんな感想を思いながら『中華丼(だったっけ?)』を口に運んだ。


 口の中に広がるとろとろの餡はしっかり味がついており、野菜も適度にしゃきしゃき感を残している。イカ、エビはぷりぷりとしており、餡がもつ独特の風味とあいまって美味さのレベルが格段に上がっている。さらにその下の少し餡が絡まった『らいす』がまた格別に美味い。

 ほんのりと甘い『らいす』に、塩味の聞いた餡が絡まり、野菜の持つしゃきしゃき感が歯ごたえにも文句を付ける隙をなくしている。

 見た目もにんじんの赤や絹さやの緑とカラフルであり美しい。


 人生でこれほど美味いものを喰ったことが無いと言い切れるほどの美味さであった。


「う~ま~い~ぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」


 ついつい叫んでしまったがこれは本能の雄たけびである。

 自分自身では抑えようが無かった。


 一気に全て平らげた俺をなんだか微笑ましい様なものを見た感じで見てくる国王やリリカ殿。


(なんだか恥ずかしい。アイカちゃんを見て和んでいよう)


 未だにはぐはぐ食べているアイカちゃんをみて癒される俺だった。


 その後、「ご馳走様でした」との掛け声も皆で唱和し、食事を終えるのであった。


(ふ~、『らいす』が喰えるだけでも満足だったが、まさかここまで美味い料理が出てくるとはな)


 そんなことを思いながら『歓喜の庭園亭』に向かおうとする俺に声がかけられた。


「ちょっとよろしいですか? これを」


 そう言ってカーラ殿から差し出されたのは『はるか遠き声(ダリゴーラス)』であった。


「またいつでもお待ちいたしております。次に来られる際はそちらでご予約下さい」

「あ、ありがとうございます。 また必ず来ます」

「はい、お待ちしております」


 そういって頭を下げるカーラ殿。

 必ずまた来ようと心に誓うのであった。



----



 翌日、依頼も無事完了し、『らいす』も食べれたことに満足した俺はなんだか騒がしい王都を後にした。


(いや~よかったよかった。『歓喜の庭園亭』もいい宿だったし、次に来るときはカーラ殿の宿にも確実に泊まれるわけだしな。まさかリリカ殿や国王様と知り合いになるなんて思っても見なかったが……。

 ほんとカーラ殿って何者なんだ? あんな美人なら有名にならないはずが無いけどな~。


 ん? カーラ? カーラ、白髪、美人、抜群のプロポーション、カーラ、カーラ……、


 ……!


 あぁぁぁぁぁぁぁぁ!


 カーラってあれか『魔導幻姫ミステーロマヒア・プリンセッサ』のカーラか! あの伝説の超越者級の!? 伝説の邪龍と戦って死んだって聞いてたけど!?)


 すごい人がやっていた宿だと今更ながらに気づいた俺だった。

 冒険者仲間への報告が格段に増えそうだが……。



----



 その頃王都では、昨日急に消滅した商業区の一角について様々な議論が交わされていた。


(カーラちゃぁぁぁぁぁぁん。乗り込まないって言ってたじゃなぁぁぁぁぁい)


 心の中で叫びつつ支障をきたさない様に微笑みながら仕事をするリリカの姿があった。

はい、どうもありがとうございました。


カーラ……、なんて厨二臭い二つ名なのかしら。


さて次回は懐かしのあの人ネタを出そうかな?


というかもう書いちゃってるんですけどね。


では、次話でお会いしましょう。


2/19追記 中華丼の作り方は調べたものを一部流用して使っています。オイスターソースなんかは似たような代わりのものを作ったとして処理していただければと思います。


2/20 料理の視点を第三者視点へ変更。

他内容を一部変更。


誤字修正 乗り込まないいて⇒乗り込まないって ロメル様

ご指摘ありがとうございました。


6/16 一部内容修正。

一嘉様 ご指摘ありがとうございました。


6/20 保存したと思っていた内容が保存されていなかったので、修正内容をもう一度書き直すハメに……。 めんどくさい。


3/27 少し修正。 内容に変更はありません。

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