冒険者の男 中編
どうも。
作者です。
皆様から感想にて『別視点でも全然かまわない』と頂きましたので、
これからはこのスタイルをとらせていただきます。
一次的主人公の裏でこちょこちょやってるカーラの存在を楽しんでいただけたらと思います。
では、どうぞ。
宿に着いたのはそれからしばらくしてだった。
よくよく考えてみれば宿の場所をよく知らない俺が真っ直ぐ宿につけるはずも無いのである。
幸いにも有名な宿だったため、街の人に聞けばすぐに場所はわかった。なのでそれほど時間はかからなかったが……。
(それにしてもあんなサプライズがあるなんてな。まぁいいか、やっと宿にも着いたし、今日の飯に思いを馳せるとしよう)
俺は今日出会えるであろう『らいす』に思いを馳せながら、宿の扉に手をかけゆっくりと押す。
――カランカランッ
来客を知らせるためのベルであろうか? そのベルが小気味良い音を立てるのと時を同じくして宿の扉が開く。
そのドアの向こうには、先ほどを超える衝撃の出会いが待っていた。
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「いらっしゃいませ、『竜帝の宿木』へ」
「いらっしゃいませ~、あっ、さっきのおじちゃんだ~」
そんな声と共に現れたのは、まさに女神と見間違わんばかりの美しさを持つ白髪の女性と、つい先ほど見かけたかわいらしい少女、リリカ殿の娘『アイカ』ちゃんの姿があった。
(何故ここに!? よく見るとリリカ殿まで!!? 今一番会いたくなかった……)
「? どうかされましたか?」
「……? うわ!!」
自分の考えに囚われていた俺は、近づいてきた女性にも気がつかなかったらしい。顔を上げると間近に女神の様に整った無表情の顔があった。
驚くなと言う方が無理である。
「? あの~本日はどういったご用件でしょうか?」
「あ、そうだ。本日この宿に予約を入れているものですが……。宿のご主人はおられますか?」
とりあえず今はこの美人のことよりも宿に泊まることが先決である。
「あの、宿の主人は一応私になりますが……、
(なに? この人が宿の主人だって!? 宿の女主人=恰幅のいいおばちゃん説は何処に行った!?)
お客様のご予約はありませんよね? 今日始めてお会いしましたし」
「恰幅のいいおばちゃn…………え?」
宿の予約が取れたと聞いていたのですぐに泊まれるものだと思っていたが、予想外の言葉で裏切られた。
「本日は他のご予約客の方で宿がいっぱいですし……」
「……え? でも、ギルドの職員からは予約が取れたと聞きましたよ?」
確かにギルドの職員は言っていたはずだ、「宿が取れた」と。
「えっと、申し訳ございません。当宿はお客様との信頼関係の上で成り立っていますのでご予約は全て当宿に来て頂いたお客様に限り受付させていただいております。
代理の方での受付は行っておりませんので……」
なんでも、泊まるのを楽しみにきて泊まれなかったやつらのために予約用の一回使いきりの伝送魔導具『はるか遠き声』を渡し、それで次の訪問を予約する制度をとっているらしい。
予約は前後三日以内なら連続で取ることが出来、その期間中はいくら部屋が空いていようとも誰も泊まることが出来ないらしい。なんと皇帝陛下さえも泊まることが不可能だったと言うのだから驚きだ。
(なん……だと? 俺の今日の宿、いや飯が……)
「あぁ~、そうだった、今問題になってる偽予約詐欺集団にギルド職員が引っかかったので、予約は取れていませんよって伝えようとしてたのよ。なのに貴方が勝手に叫びながらギルドを出て行くから……。
とりあえず、『歓喜の庭園亭』に予約はしなおしてあるので今日の宿はそっちになるよ?」
リリカ殿がギルド内とは違いフランクに話しかけてきた。
がっくりと膝を突く俺。
(そんな……、天上の料理が……、『らいす』を使った料理が~)
「らいす~」
――ツンツン
「…………♪」
うなだれながら百面相をする俺が面白かったのかアイカちゃんがほっぺたを突っついてきた。実にいい笑顔だ。
(うぉぉぉぉぉぉ。辞めてくれぇぇぇぇぇぇ。そんなに可愛い笑顔でほっぺをつんつんしないでぇぇぇぇぇ。おじちゃんもアイカちゃんのほっぺをつんつんしたくなっちゃうでしょうがぁぁぁぁぁ)
断じて言うが俺はロリコンではない。
そんな俺の頭上では大人達の会話が行われていた。
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「ちょっとリリカさん、そんな話は聞いてませんけど? 詐欺集団でしたっけ?」
「いや、ほら、もうアジトも分かってるし、事態を収束させるだけでOKっていうか……」
纏う空気の変わったカーラにしどろもどろになりながらも当たり障りの無い回答を返すリリカ。
「それでも当事者である私に連絡が来ないのはおかしいでしょ? どういう理由ですか?」
「えっと、その~、あ~隠さない方がいいか。……いや~、正直今回の件は、宿に影響を及ぼすものだったでしょ? その犯人のアジトを聞いたカーラちゃんがその区画ごと王都をフッ飛ばさないかと言う話になりまして……。
宿のことや、お客様のことになるとカーラちゃん加減がなくなっちゃうし……」
ギルドでのカーラの扱いはまさに『凝固爆薬の宝石』とでも言うのだろうか、綺麗で美しい外観だが、取り扱いを間違えれば大惨事を招くと言う意味ではその通りであろう。
「失礼ですね……、私がそんなに見境の無い人間だとでも?」
「いや、どっちかって言うと人間超えてるって言うか……ボソッ」
「何かおっしゃいました? それよりアジトが分かっているんですよね? どこですか? いつ向かうのですか? 今日ですか? 明日ですか? 今からですか?」
ズイズイと近づいていくカーラ、その目からはハイライトが消えている。
リリカは涙目になりながら何とか答えを返した。
「場所は、商業区の南、第二裏大通りの中ほどにある二階建ての建物よ~。(泣)
『竜帝への道標』って看板がついてるから分かりやすいのよね~。
いつ向かうかはまだ未定だけど……。
カーラちゃん乗り込むなんて真似はしないでねぇ~」
リリカの返答に目にハイライトを戻したカーラは、一転落ち着いた様子で話し出した。
「しないわよ、宿だってあるんだから……。
それよりもお客様、そんなところにうなだれていないで席に座って下さい」
彼の存在が思い出された瞬間であった。
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「『らいす』と申されましたよね?」
椅子に座った俺の前に立つ宿の主人『カーラ』殿はそう聞いてきた。と言うか『カーラ』? どこかで聞いたことがあったような……。それにしてもアイカちゃんを抱く姿がとても絵になるなぁ。
というかエロい。特にアイカちゃんを抱くことで押しつぶされたやわらかそうなOPPAIがなんともいえないエロさをかもし出している。
「はい、この宿に泊まったものしか食べることの出来ない幻の食材だと聞きましたので、それを楽しみにここに来たのです」
極力OPPAIのことを考えないようにしながら来た目的を話す。
これが意外に難しい作業だった。
「では、もう一つ、『恰幅のいいおばちゃん』とはいったい何のことだったのでしょうか?」
やはりあの呟きも聞かれていたらしい。
「いえ、あの、あれは……」
「あれは?」
「こちらの宿が『女神の宿』だと聞いて、その、宿の女主人なんてものは皆"恰幅のいいおばちゃん"と相場が決まっていますので、少し細いぐらいのおばちゃんが出てくると思っていたのですが……。
こんなに綺麗な人が出てくるとは予想外だったもので」
「まぁカーラちゃんは綺麗だからねぇ」
リリカ殿ナイスフォローありがとうございます。
「そうですか。まぁ私は恰幅のいいおばちゃんにはなれませんねぇ。申し訳ありません。
それと『らいす』ですが、別に泊まらなくても食べることは出来ますよ?」
…………え?
「もう少し待っていただけますか? もうすぐ時間ですので……」
今日受ける衝撃は人生で最大のものになるかも知れない。
最近色々な造語を考えるのが楽しくなってきました。
ちょっと宣伝ですが「クリ○ーターのための○ーミング辞典」という本を読みながら造語を考えています。
色々な言葉の英語、ドイツ語、フランス語、イタリア語、スペイン語、ラテン語、ギリシャ語、ロシア語が書かれています。巻末には付録として中国語、韓国語、アラビア語なんかもあり、それを読むだけでも楽しいです。
さて、宣伝も終わりましたし(やっても良かったんだろうか?)、ここからは小説についてです。まぁ感謝の言葉だけですが。
お気に入り登録3000件突破!!
ありがとうございます。これからもチー宿をよろしくお願いいたします。
それでは次話で。




