冒険者の男 前編
いつもお世話になっております。
作者でございます。
この話から、視点がカーラではなくなることが多々出てきます。
そのことにつきましてはあとがきで書かせていただきますが、
それでもいいよと言っていただける方は、
どうぞお読み下さい。
では、どうぞ
『竜帝の宿木』と言う宿屋をご存知だろうか?
何でも、オークラン王国随一の宿屋で、天上の料理を出すことで有名だと言う話だ。
一部では女将が女神の如く美しいなんて話もあるが、宿屋の主人なんて皆"恰幅のいいおばちゃん"が相場と決まっている。
少し細いだけで、先入観に囚われたやつらの目から見れば女神にでも見えたんだろう。
というか大半のこういった話は行き着く先が勘違いである。
そうだな~、むさくるしい男達の中に女が一人いるだけでとても可愛く見えることがあるだろう? あの理論と同じだ。
俺は主人についての噂にはまったく関心を抱いていなかった。
今回、依頼の都合で王都に行く機会が出来た。
何でも一日滞在が必要だということなので、ギルドが宿を手配してくれるそうだ。
その際「泊まる宿は何処がいいか要望はあるか?」と聞かれたので、『竜帝の宿木』と答えておいた。職員からは人気の宿なので予約が取れるかは分からないといわれたが、今噂になっている宿らしいので仕方ないだろう。
俺が『竜帝の宿木』に宿泊したい目的はその宿の飯にある。
大陸一発展しているであろうオークラン王国の王宮ですら食べることが不可能で、唯一宿に泊まった客のみ食べることが出来るとされている『らいす』と言う食材を使った料理。
その料理を食べることが何よりの楽しみなのである。
ギルドからの通達で、宿の予約が完了したと聞いたときは胸が高鳴ってしまった。
俺はワクワクと逸る気持ちを抑えながら王都への道を急いだ。
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「は~い。ありがとうございま~す。依頼の品ですね? 本日はギルドマスターがいませんので、明日改めてと言うことになりますがよろしかったでしょうか?」
そう軽い調子で話しかけてきたのは王都冒険者ギルドの受付嬢『リリカ』殿だ。
リリカ殿は我々冒険者の間では知らぬものがいないほどの有名人である。
若くしてA級まで上り詰めた元A級冒険者で、レベルも50を超える強さを持ち、さらにはその美貌を持って当時の冒険者達に多大な影響を与えた人物である。
男なら誰もがリリカ殿と付き合う夢を見たものだ……。かく言う俺もその一人なのだが。
このまま行けばS級も目前と言ったところでリリカ殿は突然冒険者を引退すると、その後数ヶ月ほど行方をくらませた……。当時は彼女を探すためにそれこそ冒険者を総動員したのではないかといえるほどの捜査網が敷かれたが、彼女の影も形も捉えることができなかった。流石は『変幻自在なリリカ』である。
数ヶ月の捜索が結局意味を成さなく捜査も打ち切りになろうかと言う頃、ひょっこりと戻ってきたかと思えばギルドの職員をしている。
俺たちの受けた衝撃は計り知れないものだった。
事実かどうか確認したかったが、王都のギルドなどよほどのことが無い限り俺たちのような地方ギルド出身者が入ることは出来ない。
いや、ギルドには誰でも立ち入りOKなのだが……。
しかし、これはいい機会だ、ここでリリカ殿と仲良くなって帰ってから冒険者仲間達に自慢してやろう。
少しの下心と共に俺はリリカ殿に話しかけた。
「もしかしてリリカ殿ではありませんか? 元A級の……」
「あ、そうですよ。まだ覚えている人がいたんですねぇ。もう随分前に辞めたはずなんですが。今は受付ですよ」
「いえいえ、貴方は有名でしたから。どうです今度食z「ママァ~。おしごとおわった~?」……?」
食事に誘おうとしたが何者かの声に止められた。見ると3~4歳ぐらいの女の子がトコトコと歩いてくる。
フリルをあしらった愛らしいワンピースを纏うその少女はかわいらしい笑顔を向けながらこちらに歩いてくる。ほっぺたがぷにぷにやわらかそうである。
(か、かわいい。……いや、待て待て、俺はロリコンではない、断じて違う!!!!)
自問自答で葛藤する俺をよそに更に近づいてくる美幼女。そういえば先ほど聞き捨てなら無いセリフを聞いた気がするが?
「アイカちゃん、ちょっと待ってね~。このおじさんの用事が済めばお仕事終わりだからねぇ~。終わったらカーラお姉ちゃんのところにママと行こうね」
「わかったぁ、もうすこしまってる」
ほにゃっとした笑顔でリリカ殿の言葉に頷く美幼女。
「…………え?」
「はい? え~と、何でしたっけ?」
「……あの~、つかぬ事をお伺いいたしますがこの子は?」
「? アイカですか? アイカは私の娘ですが?」
……。
……。
「う……」
「う?」
「嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
「あっ!? ちょっと、まだ宿のことが……って行っちゃった。
なんだったんでしょうねぇ~、アイカちゃん」
「う~ん、わかんない。カーラおねえちゃんのとこにはやくいこ?」
「そうね、それじゃあ皆さんお先に失礼いたしますね」
「「「「「「お疲れ様でした」」」」」」
男の叫び声とは別に、職員の気持ちの良い挨拶がギルド内に響き渡った。
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さて、驚きすぎてギルドを飛び出してしまったが、
(ありえない!? 嘘だろ!? 結婚してたのか!? そんな話一度も聞いたこと無いぞ!? というか子供まで要るってのか!?)
別の意味で冒険者仲間に報告することが出来てしまった……。
(よくよく考えればあの美幼女には何処となくリリカ殿の面影があったような……。何処のどいつだリリカ殿に手を出しやがったやつは!!!?)
俺は沈んだ思いと少しの怒りを抱えながら宿への道を進んでいった。
いかがだったでしょうか?
ではここで言い訳を。
作者の考えではRPGの宿とは某ゲームのように朝起きたら「昨晩はお楽しみでしたね」って声かけて来る主人がいたり、将来結婚するかどうか選択肢に含まれる娘がいたり、父親のことを思い出して最終奥義を覚えたり、後はモブキャラで同じ内容のことしか喋らなかったりと、結局物語のスポットライトが当たることって無いと思うんです。
ですので、このまま宿をずっと続けていくには宿視点ではダメだと思ったんですよ。
このままでは、
朝起きて食事を作り、掃除して食事を作り、談笑して食事を作り、手伝いに来た夫婦と晩酌して寝る。
といった内容のものしかかけなくなりそうだったので……。
そこで視点を宿にやってくる人視点(つまりはRPGでの主人公視点)にしてみたのです。
ゲームをされる方はご存知かも知れませんが、主人公一行は宿に何度も泊まりません。
最初レベル上げをするときぐらいはよく立ち寄りますが、それ以外はほとんど宿に行くことはなくなりますよね?(私だけでしょうか?)
この世界でもそれは同じだと思います。
もっともこの世界では最終的に自分の家をもち、宿に泊まる必要性が無くなるわけですが。
それと、各主人公達にはそれぞれの経験があり、装備も仲間の編成もまったく違う内容になっているはずです。(私のゲームでの主人公と皆様の主人公が同一世界上にいたとして考えてください。 スタートこそは同じですが、何処でどの程度レベルを上げるか、仲間はどの職業にするか、装備はどうするかなどで個性が出てきますよね?)
つまりは、同じ人には二度と会わないかもしれない、といった思いがあります。
そう言った経緯から今回の形をとらせていただきました。
カーラのご活躍をずっと期待してくださった方は申し訳ございません。
先のアンケートでありました従業員を増やす話や、その他色々な場面でカーラ視点での話は書かせていただきますので、感想でのご批判などは出来れば無い方向でお願いいたしたいです。(感想は受け付けていますので、悪い点としてあげていただいてもかまわないですが)
長々と書かせていただきましたが、話の機軸は宿になりますので、皆様これからもよろしくお願いいたします。
では、また次話で。
7/1 脱字修正
伝士 蓮示様 ご報告ありがとうございました。




