宿屋の日常6
やってしまった……。
今回はチー宿である意味一番やりたかった内容です。
受けがいいのか悪いのかは分かりませんが……。
まぁ、見てください。
「今日の夜部屋にこいよ」
ニヤニヤにやけた顔で目の前の男達は言った。
「……はい? おっしゃっている意味がよく分かりませんが?」
(まぁ、本当は分かっているけどな)
「とぼけなくてもいいぜぇ、こんな宿がなりったてるんだ。それなりのことをしてんだろ? それに俺たちも付き合ってやろうってんだ、悪い話じゃないはずだぜ?」
「まぁあんたはいつものように俺たちを楽しませてくれればそれでいいんだよ、他の客がいるってんならそいつらの後でもいいからよ」
(あほだ、こいつら……)
見ると周りの客達もあきれた顔で男達を見ていた。
「あの~何をおっしゃっているんでしょうか?」
「あぁん、わからねぇアマだな、こんなボロい宿が王都で一位二位を争う宿だって言うじゃネエか、しかも女一人が切り盛りしてるってよぉ」
「てことは当然サービスがいいんだよなって話だ、とぼけちゃってまぁ……、分かったら今日の夜に俺たちの部屋に来いってんだ」
やはりこの手のゲス野郎たちであった。
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古びた宿が最近急に繁盛しだした。
女が一人で立て直した。
女が一人で宿を切り盛りしている。
商人からは女神の宿なんて呼ばれているらしい。
それぐらい美しい女が経営している。
この単語だけを拾い出して、妄想と欲望で塗り固めると、男の出す結論なんて皆同じになるのではないだろうか?
そう、
『【十八歳未満には見せられないよ!!!】なサービスが楽しめる宿』 という結論に。
今回来たこの二人組みもその妄想を膨らませてきたのであろう。
宿に入ってきた瞬間から何か『当たりを引いたぞ!!』的な空気を醸し出していた。
私はこの二人の好みに合致してしまったようだ……、はぁ~気色悪。
今日の服装もいけなかったかも知れない。
肩が大きく出るぐらい胸元から開いた扇情的なトップスに、健康的な太ももを晒すショートパンツを組み合わせてみたのだが……。失敗したか?
いつもはもっとおとなしめの服装なのだが、今日はちょっと気分を変えてみようかと思ったもので……。なぜ、こんな日に限ってこんなやつらが……。
まぁお客様なので対応に出たわけだが、宿の部屋が空いていることを伝えた瞬間、冒頭のセリフを吐いてきたのだ。
「申し訳ございません。当宿ではそのようなサービスは行っておりませんので……。
その手のサービスをお望みでしたら、商業区裏大通りにあります【迷える子羊の聖域】という宿に行かれたほうがいいかと思いますが?」
そうだ、そうだぁっと周りの客達からも声が飛ぶ。
とりあえず、帰っていただこう。
「ですのd……「ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇぞ!!! 今ここで犯してやろうか!!? あぁ!?」
この手のやつの怒り方は皆これなのだろうか?
声を荒げ、力づくで従わせる。
そういえば盗賊三人衆も同じことを言ってたような……。セリフのテンプレでもあるのかねぇ?
「余り大声はおやめ下さい。周りのお客様にご迷惑になりますので」
瞬間、なんともいえない冷気が二人の男を包んだ。
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男二人は多分傭兵だろう、傭兵も賊とほぼ変わらないやつらであるが、金を払い続ける限り裏切らないことが賊とは違うといっておこう。
この二人は傭兵としてそこそこ実力があるのだろう。パッと見た感じでも周りのお客様に比べて8ポイントほど攻撃力が高いように思える。
そのことが彼らを調子付かせているようだ。
(さて、お引取り願いましょうか)
「な? 何だ?」
急に襲った得体の知れない冷気に顔色を悪くする男達。
「少し騒ぎすぎですね。他のお客様もいますので今日のところはお引取り下さい。
代金の方は返金させていただきますので。ではお外へ」
「お、おい! 待てよ! 俺たちは客だぜ!? そんな態度でいいのかよ!?」
丁寧に代金を突き返したにもかかわらずまだ言ってくる男達。
冷気に当てられもう大分顔色が悪いが、未だに虚勢を張っている。
いい加減うっとおしくなってきた。
「代金はすでにあなた方に返金させていただきました。申し訳ありませんがあなた方は『いつまでもカウンター前に陣取る迷惑な人たち』にランクダウンしています。
お客様ではありません。遊びに来た友達? 位のものです。
それでもなお周りの"お客様"に迷惑をかけるようでしたら『いつまでも目の前をうろちょろするゴミ』にランクダウンもさせていただけますがいかがいたしましょう?」
バカにしたような私の言葉に男達はキレた。
「てめぇ、ぶっ殺すぞ!!」
「調子に乗りやがって!!!」
男達が腰に下げている剣に手を伸ばす、
「それと、自分達が強いと勘違いするのはかまいませんが、周りの迷惑にならないところでお願いいたします。
でないと……」
――ガシッ×2
――ゴシャン!×2
「この脆い剣の如く、あなた達もこうなりますよ?」
男達の腰に差していた剣を素早く奪い取り軽く握ったのだが、鞘ごと潰れてしまった。
そのままカラカラと床を転がる剣。
男達は顔面蒼白となり、うわごとの様に、「コーミシュタールの剣が……」と呟いている。
「さて、他のお客様のご迷惑になりますので本日はお引取り下さい」
私は再度男達に願い出たのだが、次の瞬間
「うわぁぁぁぁぁぁぁ。化けもんだぁぁぁぁぁぁ。殺されるぅぅぅぅぅぅぅ」
「何が女神の宿だよぉぉぉぉぉぉぉ」
恥も外聞も無く逃げていきやがりましたよ……。
誰が化け物ですか! 誰が! 失礼な人たちですね! というかこの剣持っていきなさいよ。 邪魔だから。
「おぉぉぉぉぉ。さすがカーラちゃんだなぁ~」
「あの怒りのオーラはいつ見ても迫力があるねぇ」
「というかまだあの手のバカは来てるのかい? もうそろそろここはまともな宿屋だって分かるだろうに」
「それよりカーラちゃん昼飯にしないかい? 早くしないと国王様の来る時間になっちまう」
「あら、それはいけないわねぇ、カーラちゃんと国王様の恋路の邪魔はおばちゃん達したくないからねぇ」
「いえ、あの、別にカイルとは何も無いんですけど……」
「照れなくてもいいんだよぉ、国王様を名前で呼べるような仲なんだろぉ? おばちゃんたち、応援してるからね! 頑張るんだよ!」
――いえ応援とか頑張るとかでなくてほんとにカイルとは何もないんですが~!!?
その後散々いじられ、あたふたする珍しいカーラが見れたとか、見れなかったとか。
あたふたするカーラが見れなかったと落ち込む国王がいたとかいなかったとか……。
これです。
女一人、宿経営。といえばコレ!! といっても過言ではないのではないでしょうか? まさに作者の頭の中ではそんなイメージしかありません。
一人で宿経営が成り立っている? そんな馬鹿な、きっとおいしい思いを出来るに違いない。
男なら一度は通る道ではないでしょうか?
いや~書けてよかった。
最後どうするかで迷いましたが、まさかのカイルが主人公ポジションを確保しそうな勢いですねぇ。
今回も造語が出ています。
【コーミシュタール】・・・滑稽な・鋼という言葉から作りました。両方ドイツ語です。
一応普通の鉄の剣なんかより硬く強い剣という設定です。
鉄の剣:威力8
コーミシュタールの剣:威力20
位の性能の差があります。
あと丁寧に突き返したと表現がありますが、仕草は丁寧なだけでやってることは突き返す行為だということです。
それと、お引取り下さいと連呼していますが、この言葉は丁寧な言葉ではありません。
どちらかといえば帰れ! といっているのと同じだと思ってください。
皆様も気をつけて使うようにしましょう。
ながなが書いて申し訳ございません。
また次話でお会いしましょう。
2/15 ちょこっと修正・追記しました。