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チートだけど宿屋はじめました。  作者: nyonnyon
第四章:宿はじめました。
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閑話 男の独白2

閑話を連続で投稿してしまいました。


楽しんでいただけたら幸いです。


どうぞ。


「ここか……、なんかシケたところだな」


『竜帝の宿木』と言う宿屋を目の前にした俺の感想はそんなものであった。

 最近有名になってきた宿屋だということだったので最低でも『歓喜の庭園亭』と同規模の宿だろうと中りを付けていたのだが……。


 場所は大通りから外れているし、人の活気にあふれているわけでもない。


 宿の前には一応形として看板が出ているが、これだけ人通りが少なければよっぽどのことでは気づかれないだろう。


 本当に今噂になっている宿屋なのだろうか?


「まぁ、いい。

 美味いパンを作る職人がいるんだ、そいつが城に来てくれるかどうかだな」


 そう言って俺は宿に入っていった。



----



--カランッカランッ


 小気味良いベルの音と共にドアが開く。


「いらっしゃいませ、『竜帝の宿木』へ」


 俺を出迎えたのはとても美しい女だった。


 その女を見た俺は、寂れた場所にある宿屋が最近評判な訳を知ったような気がしていた。


 美しいその女は、客が目の前にいるというのに表情に一切の変化はない、本当に客をとる気はあるのだろうか?

 

「泊まれるかな? 最近噂になっているので気になってね」


 本当は今すぐ城仕えの交渉がしたかったが、本心を隠し話を続けてみた。


「申し訳ありません。

 本日は客室がいっぱいですので……。

 それに国王様でしたら王城にお部屋の一つでもございますでしょう?」

「……何だ、ばれていたのか」

「この宿を開業する際、許可を貰いに伺ったと思いますが? お忙しそうでしたので記憶に無いようですね……、本日ご来訪いただいたご用件は何でしょうか?」


 少し皮肉を交えて言ってきた女に少しムッとしながらも、俺は本来の用件を伝えた。


「では、単刀直入に言おう、城n「お断りします」……まだ喋っている途中なのだがな」

「そこまで言っていただければ大体の察しはつきます。

 大方、 "城に来てパンを作ってくれ!" とかでしょう?」

「! ……ほう、何故分かった?」


 何故パンを作って欲しいということまで先読みできたのか気になった俺は、女に聞いてみた。


「……私に国王様と接点になるようなことはありません。

 そのため、国王様に城へ呼ばれる理由など思いもつきません。

 ですが最近贔屓にしていただいている商人の方から、私のパンについてとても質問されるようになったと伺いました。

 パンを貴族の方に売った後から急に聞かれるようになったそうです。


 そこで話を聞いてみますと、パンを売った貴族の方は国王様への献上品としてお城に持っていくと商人の方におっしゃっていたそうです。


 ――私の作るパンは従来のパンとは違うと私自身も思っておりますし、その製法を他の方に教えたりもしていません。

 おいしい、おいしくないは別として、興味を引かれる事はその程度だと思います。


 ですので、国王様が来られる理由として考えられるのはそれぐらいかな……と」


 女は一気に喋りきった。


「ほう……、すごいな。

 よくあれだけの言葉でここまで推理したもんだ。


 では、改めて……、


 宿屋『竜帝の宿木』の女主人、カーラ・グライスよ……、


 城に仕えてパンを作ってはくれないか?」


 ……。


 ……。


「お断りします」

「……何故だ?」

「この宿にはお客様がおりますし、予約と言う形でご来訪を楽しみにしているお客様もいます。

 私しか従業員がいない現状でお城に仕えたら、ご来訪を楽しみにしているお客様にご迷惑がかかってしまいます。


 よって、申し訳ありませんがそのご要望にお答えすることは出来ません。


 それにパンぐらいでしたら宿に来ていただければいくらでもご用意いたしますが?」


 完全に拒否されてしまった。

 まぁ今日以外に時間もあるし、気長に説得するとしよう。


「この宿は泊まらなくても飯が出るのか?」


 この疑問だけは解消しておこう。


「いつでもと言うわけではありませんが、昼と夕方の少しの時間は食堂のようなこともやっておりますので」

「ならば明日の昼また来る。

 それまでに返事を考えておいてくれ」

「いえ、いつ来られても私の回答は変わらないと思いますが……」

「いや、案外簡単に変わるかもしれんぞ?」


 不適な笑みと言葉を残し、俺は宿を後にした。



----



 結果としてカーラは城仕えを認めなかった。

しかし、少し変化したものもある。


「いらっしゃいカイル。

 今日も食事はここで取るのかしら?」

「当たり前だろ、カーラの作る飯は美味いからな。

 よし、結婚してくれ」


 一つは、毎日昼の時間から少しずれた時間に宿に行くようになったこと。

 一つは、昼食は宿で食べるようになったこと。

 一つは、カーラが俺を名前で呼び、普通に話すようになったこと。

 一つは、俺もカーラを名前で呼んでいること。

 一つは、俺の心境にも変化があったこと。


「ありがとうね。

 料理の腕を褒められるのは素直に嬉しいわ。

 でも、結婚はしないからね」


 この返答も最早いつものことである。


 俺に起こった心境の変化はまさにこれだろう。

 別に、社交辞令や通過儀礼的に結婚を申し込んでいるわけじゃない。


 カーラ。

 彼女の美には嘘が無い。

 塗り固められた化粧と言う仮面が無い。

 人を貶める負の一面が無い。

 純粋に美しい女性であることが分かった。


 別に元々女に興味が無かったわけでは無かった。

 ただ、媚びへつらう女性がその相手以外の前では高圧的な態度をとる。

 そんなことは貴族の間では普通にあった。

 だから俺は女が嫌いになった。


 普通に恋愛をしてみたい、身分など関係なく対等な立場として女と付き合ってみたい、と言う思いは当然持っていた。


 そんな俺がカーラに心惹かれても仕方ないんじゃないだろうか?


「今日は何を作ってくれるんだ? 蜂蜜塗焼麺麭(ハニートースト)か?」


 まぁ、結婚を申し込んでもいつも断られるわけだが。


「今日は少し違うものをにしましょうか」

「まぁ、お前が作ったものなら何でもいいんだけどな」


 本当にいつか俺の家で飯作ってくれねぇかな?



 今では毎日が刺激に満ちている。


 俺は諦めたわけじゃねぇからな!


ここで少し解説を、


カーラといえど人ですので、当然負の感情はあります。

ですが、美への嫉妬など女の見苦しい感情ではないため、カイルの目には負の感情を映さなかっただけです。


意外に節穴及び純情な国王様ですねぇ。


これからカイルとカーラの関係にも変化があるとかないとか。


次話もよろしくお願いいたします。

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