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チートだけど宿屋はじめました。  作者: nyonnyon
第四章:宿はじめました。
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閑話 男の独白

どうも


閑話です。


どうぞ・・・

 毎日が退屈だった。


 貴族と言う檻の中で生活していた俺は、日々行われる勢力争いや、自己の強大さを見せ付けるためだけの舞踏会などを嫌い、冒険者となった。


 親は反対しなかった。 むしろ俺と言う権力を奪う存在が家を出たことにホッとしてさえいた。


 そうして数年冒険者として生活していた俺は、あるとき国王に担ぎ上げられた。


 唯一神『クラン』による導きで国王に選ばれたらしい。

 権力を嫌い冒険者となった俺が国の最高権力者になるとはなんと皮肉なことだろう。 神が本当にいるなら今頃天上で大笑いしているのではないだろうか?


 それからは退屈な日々が続いた。


 毎日毎日顔を合わせるたびに美辞麗句を並べ立てるもの、何とか取り入ろうと擦り寄ってくるもの、果ては娘を差し出してくるものまで居た。


 俺は媚びる女が嫌いだった。

 裏では何を言っているか解らないあの態度に虫唾が走るのである。

 なので当然娘を差し出されても全て断ってやった。


 そんな腐った貴族どもと毎日顔を合わせるのも疲れた頃、一人の貴族が献上してきたものに目を見張ることになる。


 それは一つの『パン』であった。


 謁見中に差し出された『パン』は献上品として控え室に運び込まれた。

 その後、小腹が空いたためそのパンを食べることにしたのだが……。


----


「誰かいないか!」

「は、ここに。 いかがなさいましたか?」


 俺の呼びかけに反応し、執事長のセバスは音も無く現れた。


「ああ、少し小腹が空いてな。 献上品の中にパンがあっただろう? あれを食べようかと思うのだが……」

「なるほど、毒見ですね。 少々お待ち下さい」


 俺は全然気にしないが、王が毒見もなしに貴族からの差し入れを食べるのは危険だとセバスに止められてからは、毎回毒見を呼んでいる。

 この毒見には心が痛む。 今回は年のころ十五といった幼い少女であった。

 今回の毒見でこの少女が死んだらと思うと、いつも胸が締め付けられる思いだ。


「では、食べてみてくれ」


 そう言って、パンを一つ差し出すセバス。


 受け取った少女は、悲壮感漂う顔で恐る恐るパンに口を付けた。


 ……。


 ……。


 少女の様子がおかしいことに気づいたのは果たしてどちらが先であっただろうか?


 恐る恐るパンに口を付けた少女は少しの沈黙の後顔を輝かせ、そのまますごい勢いでパンを貪りだした。


「どうやら毒は入っていないようだが……。 これはどういうことだ?」

「私も分かりかねます。 この娘はもう帰しますがよろしいですか?」

「あぁ、毒見も済んだことだし問題ない。 と言うか他のパンまで食べてしまいそうな勢いだぞ?」

「そうですね、では」


 パンを全て食べきり、なおかつ物欲しそうな目を向けている少女を引きずりながらセバスは去っていった。


「あの反応、気になるな。 まぁ食べてみるか」


 ぱくっと気軽に口に放り込んだのだが、そのときの俺は余りにも無防備すぎた。


「ふおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!! 美味い、美味すぎる!!!!!!」


 一(かじ)りしただけで、あの少女の反応が分かった。


 まず、"柔らかい"

 パンなんてものはどんなに腕の良い職人が焼いてもカチカチに硬いものだと思っていた。 事実、パンはスープに浸して柔らかくして食べるのが一般的であり、そのまま食べるときは少し小腹が減ったときなど、少量ですむときだけだ。

 さらに、冷えるとその硬さはまさに鉄の如くになるパンが、冷めてもこの柔らかさは今までのパンの概念を変えてしまうだろう。


 そして、"ほのかに甘い"

 何も付けていないはずのパンだが、なんだか甘い味がする。

 柔らかいためそんなにかむ必要も無いはずだが、今までのパンの感覚でかんでしまう。 その一かみ一かみごとに味に深みが増していく感じさえするのだ。

 何処までいっても小麦の味しかしない既存のパンとは一線を画すパンであろう。


 口の中に広がった新世界は今までのパンをただの石ころに変えてしまうほどであった。


「このパンを作ったのは誰だ!!!! ぜひ城に来て欲しい!!!」

「ど、どうかなされましたか!?」


 いきなりの俺の大声に、近くにいた衛兵が慌てた様子で駆け込んできた。


「このパンを献上した貴族を呼べ!!! 今すぐにだ!!!!」

「はいぃ!!! かしこまりました!!」


 そう言ってかけていく衛兵を見送りながら俺は残りのパンを平らげるのであった。


----


 謁見の間は重苦しい雰囲気に包まれていた。


 パンを献上した貴族をもう一度謁見に呼び問い詰めてみたのだが、あのパンは貴族の家の職人が作ったものではなく商人から買ったものであったことが分かった。


 仕入れのルートも明かせないとのことらしく貴族も何処から流れているものかは解らないらしかった。

ただ、国内で作られていることだけは把握できたらしい。


「どうするか……」

「別にたかがパンでしょう? そんなに目くじらを立てるほどですか?」


 俺の呟きを聞いた大臣はそんなことをいった。


「バカを言うな! あのパンを食べた後で他のパンなんぞ食ってられるか!!! なんとしても職人を探しださねぇと……」


 ここに建国至上最大の珍命令が、王の名のもと勅命で下された。


----


「なに!? パンの製作者が分かっただと!? 誰だ!? 早く言わないか!」

「王よ、落ち着いてください」

「これが落ち着いていられるか!!! 捜索を開始して、半月もの間尻尾も見せなかった"あのパンの職人"だぞ!!? すぐにでも俺がその場に行って城に勧誘したいぐらいだ!!」


 興奮する俺にあたふたする大臣共。


 そんなことはいいから早く教えないか!!!


「では、僭越ながら私が報告いたします」


 そう言って前に進み出たのは騎士団長であった。


「パンの製作者の名前は『カーラ・グライス』 最近、噂になってきている宿、『竜帝の宿木』を一人で切り盛りする女性です」

はい、こんな感じです。


誰の独白かは分かっていただけたと思います。


もう少し続きますがよろしくお願いいたします。

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