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チートだけど宿屋はじめました。  作者: nyonnyon
第四章:宿はじめました。
11/61

宿屋の日常1

いきなり時間が飛びます。


それでもいいと言う方はどうぞ。

 宿屋『竜帝(りゅうてい)宿木(やどりぎ)


 王都クランクランの商業区にひっそりと佇む一軒の宿屋である。

 商業区第一大通りから一本外れた、街の喧騒から少し遠いこの場所が今や世界から注目される地域になったのはつい最近のことである。


 昼の書き入れ時も落ち着き、普段の静けさを帯び始めたその宿屋に近づく一人の男の姿があった。


----


 宿屋のカウンターで物思いに(ふけ)る美女が一人いる。


(……本当にいろいろあったなぁ)


 異世界トリップして、学生やって、冒険者もやった。

十分に楽しんでいるんじゃないだろうか。ウシンには感謝しないとな。


 今ここには居ない最高神に感謝の念を送る宿屋の女主人『カーラ・グライス』


 そんな彼女のゆったりとした午後の時間は、一人の男の登場によって唐突に終わりを告げた。


 ――ッバン!


「カーラきたぞ~。御夢来州オムライスを作ってくれ。それと是非嫁にきてほしい!」

「いらっしゃい、カイル。……注文は了解したけどお嫁には行かないわよ? それとドアを壊さないでね」


 扉が壊れそうになるほどの勢いで宿屋に入るなり、カーラに詰め寄る男性。


 名前を聞いてお気づきの方もいるかも知れないがこの緑色の髪をしたイケメンが、


 オークラン王国の国王 『カイル・オークラン』である。


 弱冠18歳にして王位に選ばれ、それから8年国王の座に就いている現在26歳の好青年だ。


 国王の座に就いてから、各貴族があの手この手で娘を王妃にしようと送り込んだが、その全てに反応を示すことは無く、終には男色家の汚名まであったほど女の気配が一切無かった国王だが、カーラに出会いその人物像は180度ガラリと変わった。


「おぉ。すまんすまん。毎日来てるんだからいい加減少しぐらい脈があってもいいと思うのだが……」


 扉を来た時とは逆に静かに閉めながら、カイルは呟く。


 そう、毎日カーラの元を訪れるのである。


 カイル自身、女に興味が無い訳では無かったが、貴族の息子として晩餐会に出席していたとき、所々で繰り広げられる女達の美に対する(さげす)みあいが嫌いであった。

 どれだけ美しく着飾っても……いや、美しく着飾ったからこそ内面の汚らわしさがにじみ出てしまったのであろう。


 そのため、どんなに美しく着飾った女が来ようとも反応を示さなかったのである。


 それは、カーラとあった時も同じであった。


「それは無いわね、……っと出来たわよ、御夢来州(オムライス)。早く食べて政務に戻りなさい」


 唯一カーラの美貌に反応を示さなかった男(と言うよりは反応はしたが内面の汚らわしさを見るのが嫌だったと言った方が正しい)である彼がカーラに毎日結婚を申し込む様になったのは、とても単純な理由であった。それは……。




 カーラの作る飯が途轍(とてつ)もなく美味かったからに他ならない。



「おぅ。いつ見ても美味そうだな」


 カイルが初めてカーラの料理を知ったのは、貴族から献上されたパンであった。

それまでのパンと異なり、やわらかくフワフワモチモチとしており、冷めている筈だが一切硬くなっていないパンにカイルは(とりこ)となってしまったのである。

 すぐさま献上した貴族を呼びつけ職人を城お抱えの料理人として仕えさせようとしたところ、呼びつけた貴族の家の職人ではないと分かった。

 フワフワモチモチのパンが忘れられなかったカイルは徹底的に職人を調べ上げ、カーラの宿へとたどり着いたのである。


「お世辞はいいから早く食べなさい。もうお昼の時間も終わりでしょ? それとも暇なの?」


 カーラがパンの職人だと分かった後のカイルの行動は素早かった。直接宿に乗り込み、カーラと交渉を始めたのだ。

 初めこそ職人として城仕えを要求していたカイルであったが、カーラの着飾らない美しさと料理の上手さにすっかり心を鷲掴みにされてしまったのである。


 中々城仕えを認めないカーラにカイルが放った一言が、


「分かった。城仕えは嫌なのだな。ならばそれはあきらめよう。……では、結婚してくれ! いや、結婚しよう!!」


 ……である。


 まさに国王の胃袋をガッチリキャッチしたカーラであった。


 カーラにはにべも無く断られたがその後も「俺は諦めんぞ~」と捨て台詞を残し、それから毎日現れてはカーラに告白していくのである。……本当に暇人か?


「ふぉいふぉいふぉい。ひふぁふぁふぁふぇ(おいおいおい、暇なわけ)……


「ちゃんと飲み込んでから喋りなさい」


 ……ング……無いだろう」


 前半がまったく何を言っているのか分からなかったが、大体あっているだろう。


「ここで飯食うためにいちいち王城を抜け出して来てるんだぜ。ちょっとは労ってくれよ」


 これもいつものやり取りである。


「それはありがたいけど、お嫁には行かないからね」


 今日も玉砕する国王であった……。


 王がカーラと結ばれる日は来るのであろうか……。

いかがでしたでしょうか。


今回から『チー宿』はちゃんと宿を始めています。

急に時間が飛んで驚かれる方も多いかと思いますが、


1、作者が早く宿での日常が書きたくなった。

2、外伝的な感じで学生編などを書こうかと思った。


などなどの理由により、一気に宿を始めています。


学生編を期待された方は申し訳ありませんでした。


別枠でちゃんと学生編も作りますのでよろしくお願いします。


あと作者はこのたびこの小説を『チー宿』と呼ぶことにいたしました。

もっと良い呼び名があればよろしくお願いします。


1/26 上手そう→美味そう に修正いたしました。

ガラムマサラ様ありがとうございました。


1/27 あとがきの一部を修正。

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