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LOVERs GAME

作者: 沙原ソラチ

この話は『嶺と陽』のシリーズです。

楽しんでいただければ幸いです。

恋人同士だからできるゲームがある。





◇◆◇





「たーかーねー?朝だよ、どうしたのー?」


嶺の部屋に向かってキッチンから陽の声が響く。

いつもの陽らしい元気はなく、不思議に満ちた声だった。

理由は朝食の仕度が終わっても嶺が起きだしてこないから。


不思議に思った陽は、直接起こすため、嶺の部屋へと向かった。


この二人、陽と嶺の関係は義兄妹。

そして恋人同士。近隣の県下でも一、二を争う有名な国立大学に二人して通っているのだが、実家から大学へは少し遠いので、2DKのマンションで二人暮しをしていた。


そう広くは無い部屋を早足で歩く。


いつもなら日曜だろうが疲れていようが、後で寝なおすことはあっても必ず7時には一度起きてくるのに、時刻はすでに7時30分になろうとしている。

10分が過ぎたときには、今日は日曜だし、昨日は遅くまで起きてたようなので疲れてるのかと思った陽だったが。


「それでもさすがに30分たっても部屋から何の音もしないのは変だよね・・・。ハッ!!もしかして夜中にあたしの知らない他の女の所とかに走ってまだ帰ってきてないとかッ!?あたしという者がありながら!?ちょっと嶺!!入るよッ!!!」


とんでもない想像をしながら、ノックもせずに部屋の扉を乱暴に開けた。


嶺はちゃんと部屋に居た。

まだパジャマ姿のままでベッドに座っていた。

その姿を見て、自分の考えが外れていた事にとりあえず陽はホッとする。


「もー嶺、居るんなら返事してよ。てか、起きてきてよ〜」


シャッ!とカーテンを開けると朝日が部屋いっぱいに入り込んでくる。


「ほら、いい天気だよ!どこか遊びに行こうよ」  


(なーんて言ってみたりして!なんかコレってあたし奥さんみたいじゃない?寝ている彼を起こしながらカーテンを開ける!もぅ理想的な奥さんね!!おはようのキスなんかもしちゃったりしてぇ!!!)


止まる所を知らない妄想にニヤニヤしながら陽は嶺を振り返る。


「・・・・・・たかね?」


嶺は先ほどと同じようにベッドの上に座ったままだった。

なんだか様子がおかしい。


「嶺!?」


今度は少しきつめに呼んでみるがやはり動かない。

それどころか目線も床に落としたままだった。


「ちょっと!!」


さすがにいつもと違う様子に不安にを感じ、近寄って両肩に手を置き軽く揺さぶると、嶺は何の抵抗もなくグラグラと揺れる。


手を止めると陽の胸に頭を持たれ掛ける形で止まった。


(・・・っ、かわいい!!!!!)


普段の彼からは想像できないあまりに無防備な姿に、陽はもともと弱い母性本能を強く刺激される。

が、今はそんなことを言っている場合ではない。


「嶺、熱があるの!?」


虚ろな目、緩慢な動き、上気した頬、手から伝わるいつもより高い体温。

体温計で測ってみるとかなりの熱があった。


「たたた、たかねーーーーっ!!!」


パニックを起こしそうになりながらも急いで布団に寝かせようとすると、嶺の手にゆるく遮られた。

どうやら意識が半分ほど戻ってきたらしい。

口が動き、何かを言っている。

小さすぎて聞きとりづらい声を聞こうと、陽は口元に耳を近づけた。


「・・・服...きもちワルイ・・・・・・・・・・きがえる.....」

「ああ、それでベッドに座ってたのね」


納得する陽に嶺はコクリとうなずく。


「・・・・・・っっつ!!!」


あまりにかわいすぎる不意打ちの様なコクリ加減に、もう少しで鼻血を出しそうになる。

鼻を押さえて必死にとどめながら、素早く箪笥から代わりのパジャマを取り出す。

それを受け取り、嶺は覚束ない手つきで着ている服のボタンを外そうとするのだが、力の入らない指先ではうまく外せない。

1分ほどしてもまだ一つ目のボタンしか外せていない嶺に痺れを切らして、陽はパジャマの合わせ目をひったくって代わりに外していく。

嶺はされるがまま。


(そういえば、あたし嶺の服を脱がすのって初めて・・・。脱がされる事はしょっちゅうだけど。いやん☆)


やはり顔をニヤつかせながら、するするとボタンを外す。

服を脱がせると、嶺の肌が露になった。

痩せているけどガリガリではなく、ちょうどよい具合に筋肉がついた身体に陽の目は釘付けになる。

自分の顔がだんだんと赤くなっていくのが分かった。


(うわわわわわっ!!!あたし何で照れてんの!?嶺の裸なんて見慣れてるのに!!)


パパパッと代わりの服を着せて、再び嶺をベッドへ寝かせる。

と、それをまた遮られた。

陽はさっきと同様、何かを言っている口元に耳を近づけた。


「・・・シーツ...いや・・・・つめたいぃ・・・・・・」

「−−−−−−−ッ!!!!!!!」


(聞くんじゃなかったっ、襲いたいっ、かわいいっ!!)


熱とだるさのせいで語尾がのび気味の言葉、掠れて吐息のように弱弱しい声が陽の耳を襲う。

バッ!と嶺から離れて、飛びそうになる理性を死ぬ気で保たせながら、汗で冷たくなったシーツを交換する。

何か一言でも言おうものならたちまち飛び掛っててしまいそうだ。


(頑張れあたし!!コレが終われば外に、理性の世界へ行ける!!!)


抱きしめたい衝動を必死に耐える陽。

何とか交換を終わらせて、今度こそ嶺を横たわらせた。

額にペチッとヒエピタを貼ってやった。

その冷たさに安心したように目を閉じた嶺を確認した後、陽は嶺の部屋から出た。

出て一目散にトイレに駆け込んだ。

鼻を押さえて。


嶺の部屋の前には赤い液体が数滴落ちていた。




◇◆◇




それからも、おかゆを作って食べさせたり、薬を飲ませたり、あるいはヒエピタの交換をしたりと、陽は甲斐甲斐しかった。

いつもは全く甘えることはなく、ましてや弱っているところさえ見せない嶺が、全て陽に任せきりになっている。

その事実に、気を抜くと無くしそうな理性をかき集めて必死に耐えながら、陽は嶺を看病した。


13時を回り、陽がほっと一息ついてトイレに立ったときだった。

嶺の部屋の前を通ると、中から声が聞こえた。

部屋に入れば欲望との葛藤が待っているとすでに学習していた陽は、少しだけ開けた扉から先には入らずにそっと中の様子を伺った。

どうやら、うなされているらしかった。

しばらく見守っていた陽だったが、苦しむのはなかなか止まない。

ふと見ると、布団から出ている片腕が、何かを必死に掴もうとするように動いていた。


「嶺・・・」


陽は無意識にそれに引かれるように部屋に入り、彷徨っている嶺の手をとった。

手は、とても熱かった。

冷たい陽の手に目を覚ましたのか、嶺が陽のほうに顔を向ける。

熱で潤んだ瞳が陽を捉えた。

つながれた嶺の手にわずかな力が入り、陽の手をきゅっと握った。


その瞬間、ほっとしたように、ふわりと、嶺が、微笑んだ。


「!!!!!」


いとも簡単に陽の理性は飛ばされた。

まだ陽を見ている嶺の頬に手を添え、いつもより赤い唇に自分のそれを押し当てた。

すぐに離して、今度は潤んだ瞳に口付けを落とす。


逆の瞳、鼻の頭、額、両頬と、次々にキスを降らせていく。


嶺は目を閉じてそれを受け入れている。

もはや嶺が熱を出していることやいつもと様子が違うことなどは頭の中から消えうせていた。  

陽は顔中にキスをしただけでは飽き足らず、パジャマの襟から見えていた形のよい鎖骨の少し上を吸った。


赤い跡がつく。


うっとりとした表情でそれを指先で撫でた。

その感触に反応したのか、嶺がゆるりと動きだした。

片手が陽の腰に回され、片手は頬に添えられる。


その手は熱かった。

 

引き寄せられて、唇がしっとりと重なる。

口付けを交わしながら、嶺の手は陽の髪の毛を梳き、頭をなでる。


(・・・嶺が・・やさしい・・・?)


嶺の首に腕を絡ませながら、ぼーっとなった頭の中で、ふっと湧いた疑問。

そこで陽は理性を取り戻した。


「はわっ!?・・・っごめん嶺!!」


いつの間にか陽はベッドに乗り上げ、横たわる嶺をまたいでいた。

慌てて降りると、腰に回っていた手が名残惜しそうに離れていった。

それに気付いた陽は嶺の頬にチュッと軽くキスをする。

そのキスに満足したのか、嶺は再び眠りに入っていった。



(何であたし、あそこで理性戻ったんだろう...せっかく嶺優しかったのに...)


嶺が再び寝たのを見届けると、その寝顔を見ながら陽はさっき湧いた疑問について考えた。

いつもの嶺が優しくないワケではないけれど、あそこまで甘い嶺は初めてだった。


いつもより優しいキス。

いつもより優しい手。

いつもより優しいまなざし。


熱の所為だということは分かっている。

分かっているからこそ。


(もっと堪能したかったっ!!!)


理性が戻った今、どんなに悔しがろうがもう遅い。

病人を襲うなんてことは出来ない。


(くうぅ〜〜!!理性のばかーー、あたしのマヌケーーー!!!!)」


さっきの出来事を思い出す。

本当に優しかった。

あんなに素直に嶺からキスしてくれるなんて。

でも。


(それをあたしは物足りないとか思った―――?)


確かに優しい嶺をうれしいと思ったのだが、寂しいとも思ったのだ。

なにが?

何が物足りない?

いつもは考えられないほど優しい嶺に、何を求めているんだろう、自分は?

・・・・・・・。


いつまでたっても答えが見つからない疑問に頭を抱えつつ、いつしか陽も眠りについていった。




◇◆◇




嶺は、自分の身体の違和感で目を覚ました。

腹の辺りが重い。

しかも二箇所にわたって重い・・・。


「.......?」


少しだけ起き上がり、重みの正体を見る。


「...何なんだ...」


それは、陽の腕だった。

横たわる嶺に垂直に、ベッドにうつ伏せるように凭れ掛かる陽が両腕を伸ばしていた。

その両腕が、丁度嶺の腹に重なっていたのだ。


こんな体勢、苦しいに決まっているのに。

顔の大部分を布団に沈ませていて、どうやって呼吸をするのだろうか。


「バカかこいつ......おい、陽、陽」


溜息をひとつついて、陽を揺り起こす。

陽はふむ〜と唸ってはいるが起きる気配はない。


「......(ふむ〜じゃあねえよ)」


嶺はイキナリ陽の頭を押し付けた。


顔の大部分を布団に沈めているとはいえ、それで寝て居られるってコトはどうやってか少しは呼吸が出来てるはずである。

しかし、そんな少しの呼吸が出来るほどしか出ていない顔を押し付けられると、余計布団と密着度が増す。

もちろん、呼吸できるはすが無い。


「どぅはーーーーーっ!!!!」


本格的に呼吸が苦しくなった陽は酸素を求めるべく目を覚まし勢いよく置きあがった。

少しなみだ目。

そんな陽に嶺からの優しい一言が送られた。


「...奇跡の生還...オメデトウ」

「どうもアリガトッ!!って、嶺あたしを殺す気!?」

「変に寝てるお前が悪い」


飄々と言う嶺にもう一言怒鳴ろうとした陽が動きを止める。


「...え?...たかね?」

「お前、今頃何言ってんの?」


バカにしたように言う嶺にむけて、陽はサッと体温計を差し出した。

測ってみるとちゃんと平熱に戻っていた。


「平熱!きゃー、よかった嶺ーーー!!!」

「うわっ、やめろ離れろっ!!」


感激のあまり飛びつく陽に嶺は力の限りで抵抗する。

抱きつかれたりくっついたりすることを極端に嫌う嶺は、いい雰囲気にならないと素直に体を寄せ合わない。

陽はいつもそんな嶺を押し切って抱きつき、場合によっては押し倒している。

このときも例に漏れず、嫌がる嶺に離さないとばかりに力を込めて抱きついた。


その時、陽の中でパズルのピースがカチリと埋まった・・・ような気がした。


優しかった嶺に感じた疑問。

優しい嶺じゃあ物足りない。

抱きつき、そのまま押し倒そうとする陽と抵抗する嶺。

少しずつ弱まってくる抵抗。

その過程。

その気にさせるのが面白い。

逃げるか押し切るかの攻防戦。


「物足りないのはコレだったのね!!!」


いつもと変わらない嶺の抵抗に大満足の陽はますます押し倒す腕に力を込める。

すると、突然嶺が抵抗を止めた。

勢い余って、どさりとベッドに重なり合う。


「?・・・どうしたの?」


いきなり止んだ抵抗に陽が不思議そうに嶺を見下ろす。

嶺も不思議そうに陽を見上げていた。


「陽...お前、看病してくれたんだよな・・・?けど、寝てる間に襲われたような気もするるんだが・・・まさか・・・」


眉間にしわを寄せ、嫌そうに言ってくる嶺に、陽はあっさり「あ、覚えてたんだ」と認めた。

とたん、嶺の顔がさらに引きつる。

それをみて、陽の顔に笑みが広がっていく。

この状態を心底楽しんでいる。

そんな陽が嬉しそうに言葉を発する。


「だぁって、あんまり嶺が無防備にあたしに甘えてくるから〜、理性も吹っ飛ぶって〜!!」

「お、お前...っ」


急いで陽を引き離そうとする嶺に余計離れまいとくっつく。


「大丈夫っ☆ ちゃんと理性戻ってきたから何もしてないのと変わらないって!それに、こうすったもんだやってるほうが好きだし。何かあたし抵抗されるほうが燃えるみたい。嶺の熱のおかげで新事実発見だね☆」

「この変態っ!!!俺は病人だぞ!もう少し安静にさせとけよ!!」

「理性なんてさっきまでで使い切っちゃった。大体嶺、そんなこと言ったって嫌がってないくせに。本気で嫌がったらあたしなんてすぐに押さえつけられるでしょ?」

「うっ・・・・・」


痛いところをつかれ、嶺が言葉につまる。 

嶺にしても多少このやりとりを楽しんでいるところもあるのだ。

そんな嶺を見て、陽はにっこりと微笑む。


「うふ、やっぱりあたし達はこうじゃないとね」


嫌がりながらも流されていく嶺と、押し切っていく陽。

今回はどうやら陽に勝機があるらしい。

今回も次もその次も、共にいる限り終わらないだろう嶺と陽の攻防戦。


二人だけの攻防戦(ゲーム)










いかがでしたでしょうか?

話は繋がっていないのですが、同じ登場人物で、前作に『退屈と寂しさと愛しさと』があります。

よろしければ、そちらも読んで頂けると嬉しいです。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。



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