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だりぃ

「あーくそ、シャバの空気はうめぇな」


空は透き通るように綺麗な青空。きらきらと輝く太陽の光に包まれて、幸せをいっぱいに感じる1人の魔法少女がいた。


「っち、10年もやってらんねぇわ。はぁ……世界救ってるのも疲れるわ~。感謝しろ、クソども」


換気扇の前で仁王立ちをしながら、タバコを肺の奥まで届くようにしっかりと吸い込み、吐き出す。それを何度か繰り返していくうちに、どんよりとしていた頭がようやくリフレッシュされていく。


「ふぅ、スッキリ! これで今日も1日頑張れる! みんな、1日がんばろ☆」


今日もまた、アタシが世界を救っちゃう!!

きらんっ☆ 待ってなさい、みんな!

――なんて健気な営業スマイルを浮かべていたのも、今は昔。


「あぁ、しぬぅぅ、もう無理ぃぃ、腰が痛い……。魔法少女助けて……あ、アタシが魔法少女か」


困っている人間を助け、悪人を捕まえる日々。なーんも楽しくない。一応、国から活動資金としての金は貰えるけれど、無駄遣いは厳しく制限されているから贅沢もできない。

うぁあうぃぅ、疲れたぁ。


ご飯は? まま、アタシのご飯はどこ?

あ、お母さんもお父さんも最初から居ないんだった、アタシ。顔もよく知らん叔母さんに適当に育てられてただけでしたわ。

ありがとね、名前も知らん叔母さん。


「はぁ、タヒにたい。……この人のために生きたい、って本気で思えるような奴に出会いてえな。やりがい寄越せよ、馬鹿野郎」


今日も今日とて、そんな不毛な1日が終わろうとしていた。時刻は深夜2時。

あとはお風呂に入って寝るだけなんだけども、外から何やら男女の言い合う声が聞こえてきた。


ぶっちゃけ全力で無視したいところだけど、職務上「困っている人」を無視するわけにはいかない。っち、仕方ないから出勤するか。


騒がしい声のする方へと向かうと、薄暗い路地の手前で揉めている男女の学生を見つけた。


なんだよ、ただの痴話喧嘩かよ。帰っていい?


「ちょっとしつこいってば!! もう帰るの! 遊んであげただけでも感謝して!」


「いやいや、いいじゃん。もう夜中で終電も終わってるよ? 近くでちょっと休憩しようよ、な?」


「馬鹿言わないでよ! 休憩とか言ってホテル連れ込もうとしてるくせに! ヤリチン下心がシースルーで透けて見えるのよ!」


おぉ、結構言うね彼女。

ここからだと暗くて顔はよく見えないけれど、高校生くらいのカップル……いや、ただの友達か。


まあ、当人同士で解決しそうなら割り込まないほうが良さげだよね。


アタシはパンツの隙間に差し込んでいたタバコを器用に手に取り、指先に灯した魔法の火で火をつけ、ゆっくりと肺に煙を吸い込んでいく。

これこれ、うめぇなぁ、五臓六腑に染み込むわ。


さてさて、お二人さんの仲直りは済んだのかね。


「だからしつこいってば!! 帰る!! これ以上離さなかったら、あんたの二つの玉をぐちゃぐちゃに踏み潰すからね!」


いや、言う前にやったれよ!

ほらみろ、言ったから内股になったじゃないか。

あぁ、ダメダメだわ。


「俺の玉はちっせえから当たらねぇよ! おっしゃ、いくぞ!」


男はキモい内股歩きのまま、彼女の手首を力強く引っ張っていく。


いや、姿勢キモ。いいのかそれで? そんな不審者みたいな姿を見せつけたら……ほら、女の子がドン引きしてるって。


はぁ、仕方ない。ここは魔法少女の出番だね。


「二人とも、止まりなさい!! このプリティキューティガールが助けにきたわ!」


……よし、決まった。


男は内股のまま口を大きく開けて、「ガールじゃねぇし、ババアやん、ダサ」と何やらボソボソ呟いた気がしたが、そんなものは綺麗に無視無視。クソガキの負け惜しみは大人の女の耳には届かないのよ、BOY。


しかし、女の方はなぜか瞳をらんらんと輝かせ、掴まれている手を自ら引っ張るような勢いでこちらへと爆走してきた。


こわい、なになに、アタシは君の敵じゃないわよ。


「あの、助けてください! このいかにもなヤリチン野郎が私を襲おうと、今にも下半身を振り上げようとしてます!」


「いや、まだしてないって! さっきの一言で縮んで隠れてるよ! ま、まあ、ホテルまで来てくれたら元気に回復しちゃうかもだけど……」


「きも! 触んな! 1人でシコってろ! このポークピーナッツ!」


女子高生の容赦ない悪口の4連弾がおじぎ草みたいに男に刺さる、刺さる。

これだけ刺されてもなお諦めずに彼女を見つめる男の瞳だけは真っ直ぐで、第三者から見れば純愛のワンシーンに見えなくも……いや、無理か。


「えーっと、とりあえず女の子が嫌がってるんだから、手を離してあげなよ」


「いや、関係ないおばさんに注意されて何で聞かなきゃいけないんすか。若者の恋愛、邪魔しないでくださいよ」


「ん? ババアの次は、おばさん? 目が腐ってんのかお前。仕方ない、ここは魔法でキメちゃうか」


アタシは指先で彼をビシッと指差し、「お前はおっさんを好きになる」と唱える。

さらに、親切心から「1週間だけ」という限定解除の呪文も追加しておいた。


さすがに一生おっさんしか愛せない身体にするのは可哀想だし、1週間なら人生の教訓としてぴったりだろう。

うん、アタシってば底抜けに優しいな。むふふ。


魔法を彼に唱え終わると、男は彼女の手をすんなりと離し、キモい内股もやめて、何かに操られるようにして夜の街の奥へと猛ダッシュで走り去っていった。


その背中は、まるで新たな青春の扉を開けたかのような煌めきを放っていた。


やっぱり、魔法って素晴らしいな。人々に夢と希望(とおっさんへの愛)を与えてくれる、素敵な奇跡なんだよ。


アタシには似合わないしんみりとした雰囲気から逃れるように、その場に背を向け、家へと戻ろうとふわっと宙に浮かんで飛んだ――その瞬間。


背中に、凄まじい圧迫感と重みを感じた。


は?


飛びながら恐る恐る背後へと振り向くと、そこには目をぎゅっと瞑ってアタシの腰に必死にしがみついている、涙目の女子高生がいた。


「おおおお落とさないでぇぇ!! ひっ、怖い、高い、怖い!! でも魔法少女に会えた!! ふふふふ!! あはははは!!」


こわ、情緒がバグっててめちゃくちゃ振り落としたい。でも、アタシは一応これでも魔法少女だから。


とりあえず、家に着いたら即座に床へ振り落とそうと固く心に誓う。

深夜の夜空を、安心安全の我が家へと向かって飛んでいく魔法少女と、その背中で狂喜乱舞する女子高生の二人組。それが、アタシときらりの最悪で最高の出会いだった。

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