表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハイスペ佐藤くん、この恋だけはポンコツです〜五月雨式に失礼いたします〜  作者: もふおのしっぽ
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/112

第4話:【会議】ブレストという名の公開処刑

今日は凛の最も苦手とする、本部との定例Webミーティングの日だ。



 狭い小会議室に集まったのは三人。



 それぞれがノートパソコンを開き、開戦の刻を待つ。



(「榎木さん、ミュートにしてますか? この間、鼻歌が本部まで筒抜けで大恥かいたの忘れないでくださいよ」)



 凛の必死の囁きに、もはや自分が「ミュート」なのかも判別できていない榎木が、力強く親指を立ててOKサインを出した。



 不安しかない。



 いつまでも操作を覚えない榎木を見かねた佐藤が、溜め息混じりに画面を覗き込み、設定を直していく。



 定刻。



 無慈悲にミーティングの幕が開いた。



 画面共有された資料の最上段、凛の目に飛び込んできたのは「本日のアジェンダ」という四文字だった。



(アジェンダ……?)



 凛の指が電光石火で別タブを叩く。



 『アジェンダ 意味』。

(……やっぱり。「議題」のことね。わざわざ横文字にする必要ある!?)



 喉元までせり上がるアレルギー反応を飲み込む。隣の榎木のノートには、震える字で『アジェンダ(アジの開き?)』と書き殴られていた。



 違う、榎木。今日の昼飯の話じゃない。

(ダメだ、この上司は戦力外だ。)



「――今日はブレスト式で進めます。佐藤さん、ファシリテーションを」



 画面越しの担当者が爽やかに爆弾を投げた。



「了解です。では、どんどんアウトプットしていきましょう」



 ぶ、ブレス……? 凛は再び検索する。



『ブレスト 自由に意見を出すこと』。

(よし、それならいける……!)



 そう思った瞬間、対面に座る佐藤の「呪文」が放たれた。



「今回はBtoC向けなので、まずはペルソナの設定からブラッシュアップしましょう。榎木さん、ユーザーインサイトから何かありますか?」



「えっ!? あ、は、はい! ……えーっと……」



 榎木が石化した。

 凛も検索が追いつかない。



 榎木のノートを盗み見れば、そこにはもはや解読不能なミミズの這った跡が。



『びーとーしー(?)』

『ぺるそな(仮面?)』

『ぶらっしゅ……たわし?』


「佐倉さん、一番若い視点からどう?」



 本部の担当者に振られ、凛の思考が止まる。



(言わなきゃ。私が毎日SNSで動画を配信して、アンケートで『若い夫婦の本音』を集めてること。回答者にデジタルギフトを贈って顧客リストを作ってること……!)



 しかし、いざ口を開こうとすると「インサイト」や「ペルソナ」という壁に阻まれ、言葉が出てこない。



(か、賢そうな横文字が思い浮かばない)



「ええと、その……今やってる動画のアンケートで、若い奥さんたちが……」



 凛が言いかけた時、佐藤がよく通る声で割って入った。



「ああ、すいません。今、佐倉さんが言おうとしたのは、彼女が運用しているSNSの『ユーザーインサイト』を深掘りして、『ペルソナ』の本音……いわば『仮面の下の真実』を暴くべき、という意味ですよね? 加えて、アンケート回答者に『インセンティブ』を付与し、『顧客獲得』までをワンストップで行う……さすがですね、佐倉さん。僕も同感です」



「……えっ? あ、は、はい……!」



 凛は猛烈に首を縦に振った。



 助かった安堵より、自分の地道な努力が佐藤の口を通った瞬間に「キラキラしたビジネス用語」へ横取りされていく不快感が勝る。


(……今の、全部私がやったことなのに。横文字乱発のせいで先輩の手柄みたいになってるぅ……!)



「……ですよね! そうですよね、榎木さん!」



 佐藤が獲物を追い詰める笑顔で榎木に矛先を向ける。



「榎木さんも仰ってましたよね。今回の販促には『スキームのブラッシュアップ』だけでなく、既存の『リソース』を最大化する『ソリューション』が必要だって。……ですよね?」



 榎木にとって「りそーす」も「そりゅーしょん」も、もはや異世界の魔法詠唱だった。



 しかし、榎木は三十年の社畜生活で培った究極の護身術を繰り出した。



「う、……うん、うん! そう、まさに! それだよ、佐藤くん! うん、うん、うん!!」



 驚異のピッチで首を振る榎木。



 それに同調して、凛も「うん、うん!」と激しく頷く。



 もはや二人は、高速で「お辞儀するこけし」の群れだった。



「なるほど、現場のリソースを活かしたソリューション。本質を突いた視点です。じゃあ、その具体的な『アクションプラン』の作成は、お二人に任せていいですね?」



「……うん。……うん」



 頷く以外の全機能を喪失した二人は、自分たちが何を約束したのかも分からぬまま、魂の抜けた笑顔で首を振り続けた。



 会議が終了した瞬間。小会議室には重苦しい静寂が漂った。



「……ねえ、榎木さん。私たち、何をすることになったんでしょうか」



 榎木がゆっくりとノートを開く。



 そこには、最後に特大の文字でこう書き記されていた。



『あくしょんぷらん(必殺技?)』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ