↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハイスペ佐藤くん、この恋だけはポンコツです〜五月雨式に失礼いたします〜  作者: サミダレもふ太
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/140

第33話:【残響】不機嫌な林檎色と、一万円の自己嫌悪

 ガタゴトと揺れるタクシー。


 深夜の幹線道路を走るタイヤの音が、やけに耳につく。


 私は、一人きりになった後部座席で、深く、深ーく、ため息をついた。  


「……うう、私、何やってるの……」


 意識は、意外なほどはっきりしていた。


 確かにワインは飲んだけど、記憶が飛ばない程度には正気だ。


 正気だったからこそ、自分のしでかしたことが鮮明に再生される。


(……中山さんのこと……、わざと言った……)


 本部の新人・中山さん。

 正直、連絡先なんてどうでもよかった。


 でも、あそこで巧ちゃまに「友達できましたー!」なんて、あんなに楽しそうに言ってみせたのは、完全に私の「わざと」だ。


 だって、聞きたくなかった。


 松本さんがニヤニヤしながら言っていた、あの「アヤセ」とかいう元カノの話。


 社交的で、完璧で、受付嬢の鑑。


 (……いかにも「ハイスペック・エリート巧ちゃま」にお似合いそうな、解像度の高そうな人)


 私と勝手に比べて笑われているようで、たまらなく嫌だったのだ。


(そりゃあ、自称エリートイケメンの巧ちゃまなら、元カノの一人や二人いるでしょうよ……。でも、それを、わざわざ聞かされる身になってほしい)


 ムカムカした。


 だから、あの中山さんの連絡先をチラつかせて、巧ちゃまの完璧ぶってる顔が歪むのを見て、少しだけ「ざまあみろ」って思った。


(……でも、最後のは。……最後のは、完全にやらかした)


 バス停での、あの「ポスっ」。


 巧ちゃまの背中に抱きついた、あの瞬間の、上質なコートの感触。

 

 自分でも、なんであんなことしたのか分からない。


 ただ、あの広い背中を見ていたら、元カノの話でトゲトゲした私の心を、ぶつけてやりたい衝動に駆られてしまった。


「……はぁ。あのお化けみたいなポーズ、思い出すとまた死にたくなってくる……」 


 冤罪を恐れるサラリーマンみたいに両手を上げて固まっていた、巧ちゃま。


「巧くん……。」


 きっと普通の人なら、そう呼ぶ。

 その「アヤセ」さんとかなら。


 ふざけた「ちゃま」付けというバリアを外して、一歩踏み込んでしまったあの瞬間の熱。


 最後には一万円札を運転手さんに握らせて、私だけをタクシーに乗せたあの人。


 ドアが閉まる瞬間の、あのなんとも言えない、怒ってるのか呆れてるのか、それとも別の感情なのか、判別不能なあの人の顔。


「1万円、明日返さなきゃ……」

(でも、どんな顔して返せば……家まで5千円なのに、倍返しのインフレ決済になっちゃったじゃん)


 バッグの中のスマホは、さっき巧ちゃまに強制終了(電源オフ)されたままだ。


 真っ暗な画面を見つめながら、私は自分の熱い頬を冷たい手のひらで押さえた。


 巧ちゃまのバカ。

 ……そして、私のバカ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。