迷い人
「今日はいい天気ね」
「ね!」
跳ねるように前を歩くケイティに(機嫌がいいなぁ)とドロシーは微笑む。
何種類か薬草を間違えなく採取できるようになったが森を一人で歩くのはまだ許可されていない。森歩きは一年二年で許可できるものではないそうだ。
同居している妖精たちとは仲良くなれたつもりだが、森の妖精はまだ顔見知り程度しか慣れていない。森の全貌も把握していないので正直助かる。なんだったら可愛い猫ちゃんと毎日散歩ができるという幸福を嚙みしめてすらいる。
最初に猫触りたいっていったから気を使ってくれたのかなお婆ちゃん。
ケイティに言われるまますれ違った妖精に挨拶したり、お菓子を分け与えたりしている途中で妙な話を聞いた。
「このこがいうにはあっちでにんげんがたおれているんですって」
「人間が?」
コクコクと頷く風の妖精にドロシーは目を丸くする。
魔女の噂を聞いて森に入り込む人間は少なくないそうだが、妖精がわざわざ教えに来てくれるというのはどういうことか?
大概は悪戯してそこらに森の外に放り投げるらしいが何か追い出せない事情でもあるのか。
「いたずらしちゃだめよ~ってしるしのついてるにんげんなんだって」
「しるし?」
「わたしたちだいすきなにんげんにしるしつけるの。あぶないめにあわないようにって」
「ふぅん。他の妖精さんのお友達だから悪戯したり、森の外へ追い出すのはちょっとって感じなのね」
「そうそう」
ドロシーは「う~ん」と顎に指をあてて考え込む。
マグノリアの部屋は危ないものが多いので寝かせられない。 かといって自分の部屋に知らない人を寝かせるのもちょっと躊躇われる。容体によるがソファーでなんとかなるだろうか。
「とりあえずどんな状態か見てからよね」
妖精たちとしてはそのままにしても誰も文句は言わないし、できたら森から追い出してくれたら嬉しいなという意味で報告したのだが見習いの魔女は救助の方に舵を切った。
自分たちの縄張りからいなくなってくれるんだからそれでいいかと妖精たちはドロシーを案内する。
そのやりとりを分かって見ていたケイティは(やれやれ、まだまだね)と嘆息した。
森歩きの及第点をくれてやる日は遠い。
「えっと………雑巾?」
「よくみなさい。ちゃんとにんげんよ。こきゅうしてるでしょ」
なんだか真っ黒いぼろぼろの布の塊みたいなのを見つけてドン引きするドロシーに呆れたケイティがツッコミを入れる。
近寄って耳を澄ますと「すぅ………すぅ………」と微かに寝息が聞こえてきた。
「え、この人こんな状態で寝てるの?」
「にんげんはねるものでしょ?」
「それはそうだけども。えぇ?家まで運べるかなぁ」
「かるくするくらいならこのこにてつだってもらえば?」
とケイティが風の妖精をつつく。
「手伝ってくれる?」とドロシーが聞くと風の妖精は「やれやれ」というように首を振った。
ケイティに言われるままクッキーをいつもより多めに渡して要救護者を背負う。妖精が要救護者の身体を中心に飛び回るとだんだん重みが軽くなっていく。
「これが電動アシストならぬ妖精アシスト」
「でんどーなに?」
「魔法みたいだけど魔法じゃないお貴族様な乗り物」
本体自体も高いがバッテリーも結構お金が掛かる。盗まれやすいし。
さくさく家に戻って要救護者をソファーに寝かせる。
手伝ってくれた妖精にお茶を出して休んでいくようにいった。
その間に要救護者の上着を脱がしたり、濡らした布で顔を拭く。
「ねえ、ケイティ。この人もしかして」
「うん」
『きぞくじゃない?』
声を揃えて推測を一致させる二人の前に長い睫毛を揺らして寝息を立てる美少年が横になっている。
ドロシーは更なる受難の予感に顔を覆った。