王都の騎士
黒板を持って家に戻ると書き物机に向かい、引き出しからメッセージカードを取り出す。
「ケイティ、これ字間違ってない?」
「どれどれ?――うん、うん。『村の西口から北西へ』ね。だいじょうぶ、よめるよ」
「ありがとう」
ケイティから太鼓判を貰って丁寧にゆっくりとカードに書き写していく。
「にし、にぃしぃ、へ!………できた。マークさんどう?読める?」
念押しにとカードを今度はマークに見せる。
クッキーを美味しそうに頬張っていたマークが「どれ」と腰を上げてドロシーの手元を覗く。
「おうおう、上手に書けてるじゃねぇか。うちのカミさんより綺麗に書けてる」
マークの嫁であるメリーは糸目のおっとりとしたふくよかな女性だ。確かに書き物を苦手としているがマークがメリーに書類仕事を手伝ってもらっていることをドロシーは知っている。
「そういうことばっか言ってると愛想尽かされちゃうよ」
「そん時はお前さんに泣きつくから安心しろ」
「安心できませんけど⁉」
「たにんをまきこむことにためらないがなさすぎる」
半眼で見上げる一人と一匹の視線から顔を背けて口笛を吹く。
何も誤魔化せていない。
やれやれとドロシーはカードのインクが乾いたのを確認すると冷蔵庫で転寝していた氷の妖精に「ちょっとだけ冷やすの手伝ってくれる?」と声を掛けた。クッキーを一枚上げると早速齧りついて『いいよ!』と頷いてくれた。妖精をハンカチ越しに(手で直接触ると体温が彼らには熱いようだ)机へ運ぶ。カードを封筒に収めて開け口に蝋を垂らして妖精にゆっくり冷やしてもらいながらスタンプを押す。
生前クラスメイトが集めてたシールの中にシーリングスタンプ風のシールがあってずっと同じものが欲しかった。
だが、ここでは本物のシーリングスタンプが現役で使われているのでいつもこの瞬間はワクワクしてしまう。
上手にスタンプができたことを確認して「お待ちどうさま」とマークに手渡す。
「ありがとさん。これで素直で出てってくれりゃいいだがなぁ」
「やっかいそうなあいてなの?」
ケイティがそう問うということは頻繁に村と交流していない団体なのかと察せられた。
「いやあ、ガキどもは鎧とか馬みて嬉しそうにしているがな?いきなり押しかけてきたくせに水を用意してもらって当たり前。全員分の食事を何故すぐに出さないのかって偉そうな態度がどうも鼻についてなぁ」
「カッとなって争わないでくださいね」
「俺は大丈夫だがよぉ。村の馬鹿どもの仲裁に慣れてるし、やりとりしてる他所のお偉いさんにゃあ似たような奴がいくらかいるし。ただ、若い衆がやらかさなねぇか心配でよぉ」
マークは大きなため息をついて首裏を掻く。
「男衆の年嵩の奴らに見張っててもらってるが………」
「それは………待たせてしまって申し訳ありません。どうぞ急いであげてください」
「おう、悪いな。また来るよ」
そういってマークは村への道を引き返していった。
「騎士様ってみんなの憧れの職業だって思っていたんだけどそうでもないのね」
「けいらのきしはしっかりしてるんだけどねぇ。おうとではたらいてるおきぞくさまのきしはたいどがわるいのよ」
「そうなんだ」
「しょっちゅう?たまに?わたしたちみたいなのにたすけをもとめるくせにやくそくをやぶるの」
「あ~、それは。よろしくないね」
ケイティの感覚的にしょっちゅう、人間の感覚的には偶にあることらしい。
人外の者との約束を破るのは命を捨てるのと同義だ。うまく隠し通しても彼らの情報網でバレるのがオチだ。そうなったら自分が死ぬか相手が死ぬかの争いになる。
勿論人間以上の魔法の腕を持つ彼らが有利だ。
そんな大博打誰が進んでしたがるものか。
大体報復された人間の話は直ぐ噂になる。どんな報復をされたかまできっちり噂になって子どもに寝物語に教訓として語られるくらいだ。それでも手を出すということは余程追い詰められているか余程の知恵者か。
あるいは。
「貴族の騎士様はぼんくらしかいないってこと?」
「そこらのがきんちょたちよりおばかさんなのよ」
ケイティはかわいい見た目に反して意外と辛口である。