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薬師の仕事


 マグノリアから留守番を頼まれて数日。

 ドロシーは森へ薬草を取りに来ていた。


「えーと、葉先がトゲトゲしていて茎が赤いやつ。うん、これでいいの、よね」


 網目の細かい専用の背負い籠いっぱいに草を摘んで帰途に就く。

 大木の根本に建てられた赤い屋根のかわいい家。入る前に家を見上げるたびに口が緩むぐらい素敵だ。


 「ただいまー」というドロシーの声に「おかえりぃ」と甲高い返答が部屋の奥から聞こえる。

 マグノリアがドロシーの補佐役にと召喚した召喚獣の妖精猫のケイティだ。ドロシーはマグノリアが書いた薬草のレシピノートを元に魔女として勉強をしている。その指導役であるケイティを尊敬を込めて「先生」と呼ぶことにしている。不思議なものには敬意を払っておくべきという日本人精神によるものかもしれないが。


 手触りがざらざらしている布を広げ、その上に籠に放り込んだ草を広げる。


「では先生、お願いします」

「はいはい」


 ケイティは「これはしおれてる、これはむしくいすぎ、これはどくそう」と選り分けていく。


「また毒草」


 ドロシーは両手をついて落ち込む。


「どうして、ちゃんと確認してるのに。未だに薬草と毒草の違いがわからないなんて」

「ちゃんとせいちょうはしてるよ?」


 ケイティがぺろぺろとホッペを舐めて慰めてくれた。ケイティは猫としては長生きだが、妖精猫としては若者の部類らしい。


「どくそうをもってかえるのすくなくなった」

「それでも毒草と薬草を間違える魔女はいないんでしょ?」

「それはそう」


 顔を覆って落ち込むドロシーにケイティがはちのじに周囲をおろおろと歩き回る。そんなときにドンドンと扉を叩く音が響く。


「おーい、魔女子―!」


 まだ少年期を抜けていない子どもの呼び声に「はあい~」とドロシーはよろよろと立ち上がった。扉を開けると金の混じった茶髪の少年がニカッと笑って入ってきた。


「ほい、今月分。蝋燭は頼まれてたから多めに入れといた。あと、カミラさん家の乳牛が出産してさ。乳の出が良すぎてチーズが余ってるからこっちも多めに入れてあんよ」

「ありがとう、ジャック。いつものとこに置いといて」

 

 「あいよ~」と少年―――ジャックは大きめの木箱を軽々持ち上げて家の奥へ運んでいく。

 ジャックは魔女の家の近くにある村の住人で魔女が作る薬を村へ運ぶ代わりに生活用品を持ってきてくれる仕事を請け負ってくれている。

 元々は小さい頃から一緒に育った乳牛のハンナが乳を出さなくなったため母に売るよう言われて途方にくれていたところをマグノリアが口添えしてあげたことから交流が始まった。生活用品と薬を運ぶ仕事を与えられたことで兄妹のように溺愛していたハンナと離ればなれにならずに済んだとマグノリアへ恩を感じている。ドロシーに対してもマグノリアが不在の間に仕事をくれる相手として世話を焼いてくれていてドロシーにとって頭が上がらない相手の一人である。


「じゃあ、今回の薬をいうな。じいさんばあさんの湿布、手荒れそうのクリームそれから………」

「まってまってまって」


 そして彼の訪れはドロシーの実践授業の時間が開始される合図でもある。


「え~と。湿布は冷暗所のとこでクリームはその近くの右上あたり」


 マグノリアが作り置いた在庫が閉まってある在庫置き場をメモ帳頼りにさまようドロシーにジャックとケイティが『がんばれ~』とお茶を片手に声援を送った。


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