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ホムンクルスになった私

見切り発車ですがお付き合いいただければ………!


 気が付いたら私は透明な何かの中に閉じ込められていた。後から思うにおそらくコルクで(せん)がされた試験管の中。


「おや?迷い魂が宿るとは珍しい」

『え、なに?ここどこ?私どうなってんの?』


 雨の日の通勤ラッシュの時間帯、濡れて滑りやすくなっていた階段を踏み外し、気が付いて今。


「初めまして私は魔女のマグノリア。あんたは私が作った人工魂(エレメンタリー)に入り込んじまったどこぞの死んだ魂さ」

『死んだ………』


 確かにあちこちぶつけて体中痛かった覚えはあるけど。あんなあっけなく死んじゃったっていうの?


「さて、死者の国への道を案内してやらにゃあならんかなこれは。あんたどこの国の出身だい。魂に時も場所も関係ないからね。あんまり遠いとこの神様だと私も伝手がないから時間がかかるよ」

『………日本の東京です。宗教は仏教かな?神道でお葬式はしてないと思うんですけど』

 あまりに唐突な己の死を受け止めきれず聞かれるまま返答する。

 老婆は「ふむ、聞いたことないね」と後ろで緩く束ねた白髪を滑らせて首を傾げる。

『私も魔女はおとぎ話でしか聞いたことないです。魔法、使えるんですか?』

「魔法は修行すれば大概の奴が使えるもんだ。んん?ちょいとあんたの魂を見させてもらうよ」


 そういって老婆は私が入っているらしい入れ物をためすすがめつ眺め、「ありゃまあ」とため息を吐いた。


「異界の蓋でも緩んだんだかどこぞの神様が悪戯でもしたのか。あんた異世界からきた魂だね」

『い、異世界?』

「こりゃちょいと返すのも難しいかもしれんねぇ」

さてどうやって返したもんかねぇと悩む老婆に私は震える声で叫んだ。

『わ、私、まだ………死にたく、ない!』

「ん?」

『お母さんはよそに男作っていなくなって、お父さんは酒飲んでばっかで暴力を振るわれたことはないけど私のことなんかそこらへんの空き缶ぐらいにしか思ってない人だった。高校いかないで働こうと思ってたけど先生に説得されて高校出て就職して。やっと家を出ることができて。でも就職できた会社は上司は威圧的で仕事もろくにちゃんと教えてくれやしないし。でも最近やっとそれなりに仕事ができるようになって』


 言いたいことがぐちゃぐちゃで老婆は静かに聞いてくれた。


『幸せになりたい。別に金持ちになりたいとかそんなんじゃなくてそれなりに仕事してたまの休日に散歩して花がきれいだなとか猫を触ったりとかそういう小さい幸せでいい。生きててよかったってちょっとでも思えたら。それだけで、いいのに………』


 涙は出ない。

 魂というから体がないのだろう。

 こんなに悲しいのに泣くこともできない。

 死んでしまうってこんなに苦しいことなんだ。


『死にたくない。死にたくなよぉ』

「―――なら、契約だ」

『契約………』

「私はちょいと知り合いに会いにここを空けるんだ。だからホムンクルスっていう人工的に作った人間をここにおいて家を管理させようとしてたんさ。そのホムンクルスに入れる予定だった人工の魂にあんたが入っちまった」

『ご、ご迷惑をお掛けしました?』

「かまわんよ。別に故意でそうなるもんでもないし。だからあんたは私の作ったホムンクルスとして契約してここの管理をする。大丈夫、管理する知識はもう魂に入れてあるからね。どうだい?元の世界に返してやれんが新しい人生をここで始めんかね?」


『おねがいします』


 魔女との契約。物語ではそんなものろくなもんじゃないと相場は決まっている。でも少しだけでも生きられるのならこの人の道化にされたっていい。

 そんな無謀な覚悟で私は縋りつく手もなく老婆に懇願した。


 それが私ことホームメイドホムンクルス・ドロシーの始まりだった。


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