3話
善は急げ、とばかりに早くお茶会を開くから招待状をお送りしてと急かすわたしに対して、本当によろしいのですかと控えめながらも数回アニモとやりとりをした。
どうしてそんなにも聞いてくるのかと疑問はあったものの、会えば何とかなるだろうと楽観視していたのだ。
そして当日、その事を少しばかり後悔するのは後の話。
♢ ♢ ♢
待ちに待ったそのお茶会当日、わたしは何とか作った笑顔を浮かべてはいた。しかし、頭の中はどうしたものかという焦りで一杯だった。
お茶会の準備が整って、お呼びした女性ことミラーナ=ルーレシアスが到着したという声を聞いて、出迎えに来て数秒固まった。
兄と同じように瞳を見れば、あみ姉かどうか分かるかもしれないと期待していたのだが現れたミラーナの瞳は見えない。
瞳どころか顔の全てが真っ白な仮面一面に覆われており、唯一分かるのは明るく艶のある金の髪という点だけだった。
もしかしたら、顔を隠しているのは今まで接点の無かったラビルから急にお茶会に誘われて警戒をされているのかもしれない。そう考え直して、ひとまず客席へと案内をする。
「ミラーナ様。我がシュデリウス家へようこそおいでくださいました。今日は特別な茶葉を取り寄せましたので、お口に合えば幸いです!」
なんとか見た目のインパクトによる動揺を隠して笑顔で告げたラビルにミラーナは紙を一枚見せる。
そこに書かれていたのは「ありがとうございます」の一文。
『……も、もしかして話す事すら警戒されてる!?』
予想外のミラーナの対応にショックを受けつつも、お茶会に招待したのはラビル自身だ。
例え、ミラーナがあみ姉ではなかったとしても招待した以上は落ち込んでばかりいられない。
ラビルが何の話題を振っても、ミラーナは「そうですか」「ありがとうございます」など、テンプレ化してある紙をラビルに見せるだけ。
仮面の下はどんな表情をしていて、どんな事を考えているのかは一切分からない。
話しても話しても返ってくるのは紙切れ一枚の反応にラビルは気疲れしだしていた。
しかし、あみ姉じゃ無いなら解散したいなど失礼過ぎる事は口が裂けても言えない。
かと言って今のこの状況は辛過ぎる……とラビルの状況を察したのか不意にアニモが告げる。
「こほん。ラビルお嬢様、そろそろ次のご予定のお時間でございます」
「へ?」
次の予定、なんてものは本来なら存在しない。ミラーナがあみ姉の可能性を考慮して家庭教師の時間は明日に繰り越し済みで、お茶会の後は何も予定は入れていなかった。
困りきったラビルに救いの手を出すアニモに心から感謝した。
「あ、あぁ! そういえば、そうだったわね。ごめんなさい、ミラーナ様。そろそろお時間みたい!」
アニモの案に乗る事にしたラビルは申し訳なさそうに謝罪すると、ミラーナが頷く。今までは紙を見せるだけだったミラーナが初めて違う行動をした事に驚くラビルはたまたま手元にあったカップを倒してしまった。
「あつっ!?」
「見せて!」
中にはまだ熱い紅茶が入っていたのか、ラビルは指を触ろうとするがそれより早く、細い指が伸びてきたのと同時に眩い白い光に包まれる。
どれも一瞬の出来事だった。
急に駆け出した衝撃でカシャン、と仮面の落ちる音、わたしの指に紅茶が掛かって熱いと思った矢先に細い指が触れて白い光に包まれたと思ったら、指のヒリヒリした痛みが無くなっていた事。
「大丈夫? 他に怪我はないかしら?」
「は、はい! ありがとうございます、ミラーナ様ーー」
色々な情報が重なって頭が混乱していたが、何やら火傷を治してもらえたのだろうと理解して礼を言おうと顔を上げて固まる。
海のように美しい青の瞳は色は違ったけれど、その瞳の奥にある穏やかで優しさに溢れている、その瞳はーー
間違いなく、あみ姉だった。