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37話

 「えーと、本当にもう苦しくないの? 痛い場所もない?」

 「は、はい。なんなら、今までで一番、体が軽くて今なら何でも出来そうなくらいです」


 あの謎の眩い光から数分後、ラビルは信じられないといった眼差しで見つめるが、コルディニアは元気な事を示すように腕を上げて力こぶを見せてくる。細身な体だが、筋肉は意外としっかりついているのだなとつい感心してしまった。

 顔色も確かに言葉通り、何故か毒を口にする前よりも良くなっているから、医師ではなくとももう体に異常が無いのが分かる程だ。


 「でも、さっきの光なんだったんだろう……なんか王家パワーとか?」

 「いえ、あれは僕の力というより、ラビル様の力ではないかと」

 「へ!? わ、私!?」


 渾身のボケを真顔でスルーされただけではなく、まさかのわたしが原因説に衝撃を受ける。


 「で、でも! 私は術、何も使えないんだよ? 自分の家門の火だって使えないくらいだし……」


 そう。わたしは火の家門の人間でありながら、全くといっていいほど火の術が使えない。

 これはトーイにこの世界の話を聞いてから、試しに術を使おうとしたところ、火の術が使えないと発覚したのだ。自分の家門の術すら使えない人間が、治癒なんて更に使い手が少ない術を使えるものなのだろうか。しかも、死にかけていた人一人を救うだなんてミラーナと同等か、もしくはそれ以上の使い手な可能性だってある。

 そんなすごい治癒術をラビルは自分が使えるとは全く思えなかった。


 「うーん。でも、子どもの頃にも毒で死にそうだった時、あんな感じの強い光で治してもらった気がするんですよね」

 「こ、子どもの頃から大変だったんだね……」

 「まぁ、王族も一枚岩じゃないですからね」


 さらりと話す内容があまりに重くて驚くが、コルディニア曰くよくある事らしい。異母兄弟がたくさん居たが、七色の瞳を持って産まれたのがコルディニアだけだったので、産まれた瞬間から王太子殿下として大切に育てられた。コルディニアを産んだ母親は側妃達に裏でイジメられたのをきっかけに心労で病を患い亡くなってしまった。だから、コルディニアは母親との思い出がない。

 父親である皇帝陛下はただ七色の瞳だからと他の兄弟達を差し置いて、コルディニアを王太子殿下に選出した。その裏で母親同様に凄まじい嫌がらせがあるのに気付いていながらも、見ないフリをして。

 自分の身を守る為にそれなりに鍛える必要があるからと、鍛錬を幼い頃からしていたので王太子ではあるが武道にはそれなりに精通しているようだった。王族はボディーガードが常に護衛しているので細身の人が多い。

 しかし、コルディニアは細身ながらもしっかりと筋肉が付いていた。謎は一つ解けたが、複雑な気持ちだった。


 「あ! でも、一つ良い方法が思いつきましたよ!」

 「良い方法?」

 「はい! 僕とラビル様が婚約すれば解決ですよね!」

 「ああー、なるほ…………いや、どういう事!?」


 にこにこと笑顔で提案するコルディニアに釣られて頷き掛けたが、これは王太子だろうがなんだろうがツッコミを入れずにはいられない。


 「え? だって、あの治癒術を使ったのは確実にラビル様だし、解毒するなんてかなり高度な術ですから父上もラビル様なら許可が出るかなと思いまして」

 「い、いやいや、でもそれはちょっと」


 謎に押しが強いコルディニアを不思議に思いながら、名案かのように語られる話に首を縦に振らないでいると彼は困ったように笑って言う。


 「別に本当に結婚するんじゃないですよ。あくまで時間が稼げればいいんですから」

 「時間を稼ぐ?」

 「そうです。ミラーナさんはもう少しで18なのですぐ結婚しなくてはいけませんけど、ラビル様は年下ですし、まだ時間があります。その間に治癒術の優れた方を探したり、もしくは使えるようになる人が現れるかもしれません」


 コルディニアの説明は一理ある。確かに、ラビルがミラーナの代わりに婚約者となれば彼女はなんのしがらみもなく、兄と結ばれる事ができる。

 それにラビルはまだ15だ。国が結婚を認められる18になるまで3年間も猶予が発生する。それだけの時間があれば、コルディニアやトーイ、兄達も協力してくれるだろうから治癒術の優れた人物が現れる可能性が現段階よりもあるはずだ。

 兄が実力行使という考えるだけでも恐ろしくなるような方法をするくらいなら、こちらの方が安心安全だ。


 「……うん、そうだね。確かにコルディの方法が良さそう」

 「! じゃあ、僕の婚約者になってくれるんですか?」

 「うん。まぁ、一時的だけど……改めてよろしくね、コルディ」

 「はい! もちろんです!」


 無邪気に喜ぶコルディに釣られてラビルも頬が緩む。

 あんなに喜ぶなんて純粋な人だなぁと。

 

 ーーのちにこの選択が、大変な事態を巻き起こすとも知らずに。

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