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22話


 ひんやりと冷たい何かが額に触れる。それが心地よくて、何故かずっと触れていて欲しいと願う。無意識に額にある其れを掴む。


 「え!? お、起きてたの!?」

 「……今、起きた」


 目を開けるといつの間にか自室のベッドに横になったビリアスの近くにはミラーナが居た。どうやらひんやりと冷たい何かの正体は彼女の額に手だった。

 手を掴まれたままアタフタする様子が面白く、あえてその状態を保っているとちらちらとミラーナが何か言いたげな視線を向けてくる。


 「俺は倒れたのか。……すまないな、驚かせただろう」

 「あ、ううん。それはいいの! ラビルちゃんじゃなくて、ビリアスが体調を崩していたのね。勘違いした上に具合が悪い中、お話してもらってごめんなさい……」


 眉を下げてしょんぼりとする姿にちくりと胸が痛む。


 「ミラーナは何も悪くない。体調管理を怠った俺の責任だ。それにうちの家門は外にあまり情報を出さないから、風の噂も俺じゃなくてラビルが体調不良と流れたのだろう。だから気にするな」

 「ビリアス……ふふ、ありがとう。あなたって優しいのね」

 「! 別に、普通だ!」


 ビリアスがミラーナの手を掴んだまま離さないからだが、近い距離で賛辞と満面の笑みを受けるとビリアスは顔が赤くなるのを感じて、慌てて手を離して顔を背けた。

 その瞬間、既視感を覚えた。


 (……前にも同じ事があったような……?)


 しかし、ビリアスとミラーナが直接会うのはさっきが初めてなはず。その疑問で頭が混乱しているビリアスに、ある呟きが耳に入る。


 「あれ? なんだか、前にもこんな事があったような……?」

 「! ミラーナもそう思うのか?」

 「も、って事はビリアスも?」

 「あぁ」


 同じように感じていたらしいミラーナの方に向き直ると、彼女もビリアスの方を向いて不思議そうに首を傾げる。偶然かもしれないが、その偶然が一緒な事が嬉しかった。


 「そういえば、体がかなり楽になった。ミラーナが治してくれたんだろ? 礼を言う」

 「ううん、こんなの礼を言われる事じゃないよ。もう辛いとこら無いかな?」

 「あぁ、もう大丈夫だ」


 その言葉に安堵したミラーナがよかったぁ~と笑みを浮かべる。

 ビリアスが目覚めてから感じていたのは、熱による倦怠感や頭痛などの症状が無くなっていた事だった。ミラーナの治癒術は家門の歴代の中でもトップクラスだと話題になっていたが、自分が経験した今ではそれも頷ける。

 本来、治癒術とはいっても治癒出来るのは怪我くらいのレベルだ。それくらいのものであれば稀に家問関係なく、使える人間は存在している。しかし大きな病はもちろん、ただの熱にまで効果が治癒術あるだなんて聞いた事がない。

 だからこそ王家はミラーナに目を付けて、成人した暁には王太子妃にすると耳にした事がある。

 ラビルはその事に憤慨していたが、その時は関心がなかった。だが、今は違う。

 例え王家相手だろうと、ミラーナを誰にも渡したくない。そう思ってしまったのだから。

 ビリアスは常に資金源を確保出来るようにとシュデリウス家の家門経営を安定させていたどころか、資金繰りに苦しむ王家を逆に支えていた程だ。更に王家の守護家門としての歴史もあるので、王家のみならず並大抵の貴族もビリアスには頭を下げる者が多かった。それも年下から年上までもだ。

 そうはいっても様々な壁はあるだろう。だが、ビリアスは覚悟を決してミラーナに問う。


 「ミラーナは王太子妃になりたいか?」

 「えっ?」


 突然の問い掛けに戸惑ったのは一瞬ですぐにミラーナは首を振る。


 「まさか! 王太子妃なんて絶対に私には無理よ!」

 「そうか。なら、俺に良い案がある」


 すぐに否定されたのに内心でホッと安堵したが、気付かれないように冷静を装ったままでビリアスは告げる。


 「俺の婚約者になればいい」


 その言葉にミラーナは瞳をまん丸にして、少しの沈黙の後、緩やかに頷く。


 「……よ、よろしくお願いします」

 「あぁ、こちらこそ」


 お互いにほんのりと頬を染めて握手を交わす。

 第三者から見たその姿は完全に想い合っている恋人同士のようだという事にも気付かずに。

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