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10話

 ぼんやりと窓の外を見ては紅茶を一口飲んで、また窓の外を眺めるといった動作を繰り返すわたしを心配そうにアニモが見ていた。それは気付いていたが、上手い言い訳が思い浮かばないので申し訳ないけど気が付いてないフリをさせてもらった。


 トーイと再開してこの世界について教わった後、協力を断られてからはショックであまり記憶が無い。

 何やら申し訳無さそうにトーイが謝罪していたが、そんなに謝るくらいなら協力してくれれば良いのに……というのはさすがに内心に抑えておいた。


 (……でも、トーイ君の言ってる事も一理あるのかも。本人の気持ちが分からないんじゃ、余計なお世話かもしれないし……)


 うーん、うーんとひたすらに悩んでいたわたしは近づいて来る足音に気付いていなかった。


 「そんなに唸ってどうしたんだ? お腹でも痛いのか?」

 「え? わぁ!? お、お兄ちゃん!?」

 

 まさに今、悩みの中心に居る人物の一人であるビリアスの登場に声が裏返ってしまった。淑女にあるまじき叫び声に苦い笑みを浮かべて、自宅ではいいけど外では気をつけるんだぞとしっかり注意をされる。


 「それで、なにか悩みでもあるのか?」


 悩みの中心人物の片割れでもある兄に素直に話す訳にはいかず、かと言って気付いたら向かい側の椅子に腰掛けて心配そうにわたしを見つめている兄に何も言わないのも罪悪感がすごい。


 「ビリアス様。ラビルお嬢様ももう”そういう”年頃なんですよ」


 詮索をどう誤魔化すか悩んでいた矢先、兄のお茶の支度を整えてからわたしの隣に戻ってきたアニモのナイスアシストに乗る事にした。一部分、何やら意味深そうな言い方だったがまぁ、細かい部分はいいかと強く頷いて同意を示す。

 すると兄が表情には出ていなかったが、衝撃を受けているのが伝わってくる。なぜ分かるかというと、飲もうとして持ち上げたカップがこれでもかという程に激しく揺れているからだ。なんなら若干、溢れている。もったいない……。


 「そ、そうか……。そういう年頃なのか……そうか……」


 ぶるぶると震えた手は治まる事なく、一口お茶を飲んでからもそうか、そうかと壊れたロボットのように繰り返している。

 


 「あー、えーと、そういえばお兄ちゃんも気になる人とか居ないの?」

 「ぐふっ!!!」


 話題を逸らそうと出した話題だったが、兄には効果絶大だったようでお茶を飲んだのが変な場所に入ったのか、すごい勢いで咳き込んでしまった。


 「お、お兄ちゃん!? 大丈夫!?」

 「……大丈夫だ。なんの問題もない。本当になんでもない。お兄ちゃん”も”の部分が気になり過ぎるが、なんでもない」

 「う、うん?」


 早口過ぎて後半は聞き取れずにとりあえず頷くわたしに何故か少し項垂れる兄だったが、アニモの軽い咳払いで正気に戻ったのか背筋を正す。


 「気になる人、だったな。回答は居ない」

 「えぇ!? 一人も? 全く?」

 「一人も。全くだ」


 わたしの再確認にもすっかり、いつもの冷静さを取り戻したらしい兄は真顔で肯定されてしまう。

 ミラーナと兄はメインキャラ同士だし、何よりも前世でも特別な結び付きがある。だからこそ、既に惹かれ合うものだと思っていたが計算が外れてしまった。

 トーイの言っていた通りで、わたしの独りよがりなのだろうか。肩を落とすわたしの耳に小さな呟きが耳に入る。


 「……だが、」

 「だが?」


 いつも冷戦沈着で迷う事なく、誰に対しても怯む事なくハッキリとした物言いをする兄が珍しく悩んでいるようで言葉を濁す。

少しの間のあとに、口を開く。


 「明確な何かがある訳ではないんだが、なんとなく……誰かを探している気がするんだ」

 「え!?」


 ぽつりと呟かれたその言葉を聞いた途端、現金なわたしは下がりかけていた頭を一気にガバッと上げる。


 「そ、それってその人が好きってこと!?」

 「い、いや……好きかどうかはよく分からない。ただ……」


 口下手な兄は言葉選びに悩んでいるようで、またしばらくの間を開ける。わたしはじっと続きを待つ。時間にすれば数秒だったとは思うが、気になり過ぎて体感では数分だったと言っても過言じゃない。


 「……もう一度会いたい。手に触れたい、と思ったんだ」


 兄のその言葉で確信した。

 兄は今でもあみ姉を想っているのだと。

 転生してもなお、その想いを持ち続けていたのだ。


 「……大丈夫だよ。二人は絶対にわたしが幸せにしてみせるから」

 「ん? 今、なにか言ったか?」

 「ううん! なんでもない! ほら、お兄ちゃんせっかくの兄妹水入らずのお茶会なんだし、楽しもう!」

 「あぁ、そうだな」


 普段は仕事で多忙な兄はたまにこうしてわたしと過ごす時間を大事にしてくれている。不思議そうにしつつも、わたしがテーブルの上に並べられたお菓子を差し出せば受け取って微笑んでくれる。


 (よし! 今世ではわたしがお兄ちゃんを絶対に幸せにしてみせるんだから!)


 改めて決意を固めたラビルだった。

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