9話
トーイの話によると、わたし達はどうやら『恋の道導』という恋愛小説の世界に転生したらしい。
この世界の主人公はあみ姉ことミラーナで、兄ビリアスもメインヒーローの一人であるという話だった。
どうやら、この小説は主人公がどのメインヒーローを選ぶかは続きは読者の心の中で、と思わせぶりな結末だったようで兄ビリアスにも十分な勝ち目がある。
シュデリウス家以外はまだミラーナは何の接点も無いらしく、ビリアスと結ばせられる可能性はある。何より二人は前世で既に想い合っていたのだ。
出会わせるきっかけさえあれば、きっと恋に落ちるのも時間の問題に違いない。
「ね! 私達でお兄ちゃん達を出会わせるきっかけを作ろうよ!」
「……作ってどうするんだい?」
嬉々とした顔で提案するラビルに対して、トーイの顔は真顔のままで予想外の質問に言葉を詰まらせてしまう。
「ど、どうって……誰が見ても二人は前も両想いだったじゃない。だから、今も出会ったらきっと自然と恋に落ちると思うの。そしたら、ミラーナさんは王太子と結婚しなくて済むかなって」
「そうだね。ラビルちゃんの言う通りだ。シュデリウス家なら守護者の家門だから、王家の干渉も受けにくいだろうからね」
「じゃあ……!」
「でも、ごめん。俺はその作戦には協力出来ないよ」
真っ直ぐな目線で、ハッキリと断られてしまい、ラビルは完全に言葉に詰まってしまう。トーイだって姉はもちろん、兄とも仲が良くすぐに賛成して協力してくれると思っていた。
だからこそ、この反応に大きなショックを受けてしまった。
「もちろん紅輔……いや、ビリアスが嫌いだからとかじゃないよ。むしろ、ビリアスなら安心して姉を任せられると思ってる」
「それなら、どうして……」
「……前世で好きだったからといって、その縁は今世でも続くものかな。それは記憶があるからという、善意の押し付けじゃないかな?」
トーイの言葉にラビルは何の反論も出来なかった。なんの言葉も出てこなかった。