プロローグ
『……大丈夫、大丈夫だ。オマエだけは……おれが絶対に守ってやるからな……』
舞い上がる火の粉と、むせ返るような煙で遠のく意識の中、ぼんやりと姿が見える。
頬に煤を付けて、迫り来る火の粉からわたしを庇うようにしっかりと抱きしめてくれる。
『だって、おれはオマエのにぃちゃんだから……』
その言葉が終わる前か、もしくは同時に炎に耐えられなくなった柱が崩れ落ちてくる。
それと同時に記憶は途絶えた。
♢ ♢ ♢
「……ん? ここは……?」
気怠い体を起こして周りを見渡してみて、硬直。置いてある家具はどこかのお城かと錯覚するくらいには高級そうなテーブルや椅子が置かれている。
寝台の横にあるサイドテーブルの上にはこれまた高そうなソーサーとカップが置かれており、このセットだけで半年は食事に困る事は無さそうだなと考えていたら、突然、扉が開いた。
「ラビル! 目が覚めたのか!」
突然の訪問者に驚き、声のした方に振り向くと瞳の色こそ違うものの、そこには見知った人が立っていた。
「……コウ、お兄ちゃーーわぶっ!?」
言葉が終わる前には既に兄の細身の割にしっかりと鍛錬の成果なのか、がっしりとした腕の中に囚われてしまう。
「良かった! オマエが無事で! 三日も目覚めないから心配したんだぞ!」
目前に広がる兄の姿は先ほどの夢の中とは少し異なるが、漆黒の髪と優しげな眼差しだけは変わらない。見知らぬ環境から、ようやく見知った人物が現れて安堵するも兄の抱きしめる力が強過ぎて、もはやまた気絶させられそうなのでなんとか距離を取ることにした。
「お、お兄ちゃん、心配は嬉しいけど、力強くて痛い痛い!」
「あ、あぁ! すまない、つい力が入ってしまった!」
ようやく普通の距離(?)になってくれた兄にふぅと一息つく。しかし、どうしても気になる事があった。
「あのさ、お兄ちゃん。……さっき、わたしのことをなんて呼んだ?」
もし、記憶違いでなければ兄は確かに口にした。
「ん? なんて呼ぶもなにも、おまえはラビルだろう?」
「そ、そうだよね! ごめん、変なこと聞いちゃって!」
なんとか理性をフル稼働させて表面上は普通に取り繕う。しかし、心の中で思うのはただ一つ。
『ラビルって……誰!?』