アルセニーの怒り、その後のこと
非常に残酷な暴力描写があります。苦手な方はブラウザバックを推奨します。
倉庫にて。
(アルセニー様……)
ジノーヴィー、オクサナ、スヴェトラーナから暴行を受けているタチアナは意識が朦朧としていた。
(いいえ、私は死なないわ……)
そう思っても、意識は遠のいてしまう。
その時、勢い良く倉庫の扉が開く。
「ターニャ!」
アルセニーがタチアナを助けに来たのだ。
アルセニーはキセリョフ伯爵家の者達を突き飛ばし、タチアナの元へ駆け寄る。
「ターニャ、遅くなって済まない」
ボロボロのタチアナを見て悲痛そうな表情のアルセニー。
「アルーシャ……様……」
タチアナは弱々しいが柔らかく微笑む。
そして、アルセニーが来たことで安心したのか意識を手放すのであった。
「ターニャ! ターニャ!」
必死に呼び掛けるが反応がない。
まさかと思い首筋を確認すると、脈はきちんとあった。
それによりアルセニーはホッとする。
そしてアルセニーはキセリョフ伯爵家の三人を冷たく睨む。
「お前達……無抵抗のターニャをよくもここまで……!」
その声は絶対零度よりも低く、マラカイトの目は完全に怒りに染まっていた。
「俺は悪くない! 悪いのはタチアナ・ミローノヴナで」
「黙れ!」
アルセニーは言い訳をする途中のジノーヴィーを思いっ切り殴った。
それにより勢い良く倒れるジノーヴィー。
そしてアルセニーはジノーヴィーの急所ーー男の象徴たる部分を強く踏み付けた。
「ぐ……! あぁ……!」
ジノーヴィーは上手く呼吸が出来なくなり、体全身から汗が吹き出す。
それは死んだ方がマシかもしれないと思える程の、地獄のような痛みであった。
アルセニーは更に強くジノーヴィーの急所を踏み、ぐりぐりと地面に擦り付けているかのようだ。
「キセリョフ伯爵家にいた頃からターニャに暴行していたというのに、お前はこれで根を上げるのか」
ゴミを見るような目のアルセニー。
「や、やめて! お父様が死んでしまいます!」
顔を真っ青にして懇願するスヴェトラーナ。
「だったら何だ? それなら君が変わるか? ターニャを虐げていたのだから、このくらい当然の報いだろう。むしろ、女性である君達に手出ししていないことを感謝して欲しいくらいだ」
アルセニーは当たり前のようにそう言い放つ。
「あ……悪魔……」
オクサナは恐怖により、その場で崩れ落ちた。
アルセニーの怒りは凄まじいものだった。
しかし、警察などが来る前にジノーヴィー達への制裁を終えた。
そしてキセリョフ伯爵家三人も警察に拘束され、タチアナは無事に保護されて適切な処置を受けることが出来、無事であった。
ちなみに、ジノーヴィーの男の象徴たる部分はアルセニーが執拗に踏み潰したことにより、二度と使えなくなってしまったのである。
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(あら……? ここは……?)
ゆっくりとヘーゼルの目を開けたタチアナ。見慣れた天井が目に入る。
「ターニャ……良かった……」
アルセニーが心底安心した様子でタチアナを見つめている。
「アルーシャ様……」
タチアナはアルセニーを見ると、柔らかく表情を綻ばせる。
タチアナの手は、アルセニーに握られていた。
「私、どのくらい眠っていたのですか?」
ゆっくりと起き上がるタチアナ。
アルセニーはタチアナを支える。
「一晩だよ」
「ではもしかして、アルーシャ様は一晩中側にいらしてくれたのですか?」
「ああ」
アルセニーが頷くと、タチアナはほんの少し困ったように微笑む。
「ありがとうございます。ですが、一晩アルーシャ様にはご不便をお掛けしましたわね」
「私は好きで君の側にいたんだよ」
アルセニーはマラカイトの目を真っ直ぐタチアナに向ける。
するとタチアナは頬をほんのり赤らめて、アルセニーから目を逸らした。栗毛色の髪がハラリと顔に掛かる。
「喉が渇いているだろう? ラウラに水を持って来るよう頼んで来る。ラウラも無事だから安心してくれて構わない。それから、パーヴェルに消化に良い食事も頼もう」
アルセニーは優しく微笑み、顔に掛かったタチアナの栗毛色の髪をそっと戻した。
「ありがとうございます、アルーシャ様」
タチアナは再び顔を上げ、嬉しそうに表情を綻ばせた。
その後、タチアナはこの件の顛末についてアルセニーから聞いた。
まず、マトフェイは警察により拘束された後、投獄されている。
今後裁判で刑が確定する予定だ。
キセリョフ伯爵家の三人も同じく警察により拘束され、投獄されている。
こちらも今後裁判で刑が確定する予定である。
ちなみにアルセニーはジノーヴィーに惨たらしい私刑をしたことにより罰金刑になってしまったが、痛くも痒くもない額だったのでタチアナには言わないことにした。
そして、マトフェイはユスポフ公爵家の家督を失うことが確定し、アルセニーがユスポフ公爵家に戻る予定になる。それによりタチアナもユスポフ公爵夫人となるのだ。
また、キセリョフ伯爵家は今後一時的に取り潰しになる。キセリョフ伯爵領はアルセニー預かりとなり、アルセニーとタチアナに二人以上子供が生まれた場合に、ユスポフ公爵家を継がない子供がキセリョフ伯爵家を継ぐことになる。
「あらまあ……。私に公爵夫人が務まるでしょうか?」
タチアナはこの件の顛末に目を丸くし、少しだけ不安そうである。
「ターニャならきっと大丈夫だ。私も久々にユスポフ公爵家に戻るから、色々不安だが……ターニャが側にいてくれたらきっと大丈夫だと思えるんだ」
アルセニーはそっとタチアナを抱き締めた。
「アルーシャ様……」
タチアナは少し安心したように腕をアルセニーに回す。
「近々これらの件について、ターニャも私も皇帝陛下に話さなければならない。緊張するだろうが、共に頑張ろう」
「はい、アルーシャ様」
タチアナは穏やかに頷いた。
色々と困難はあったが、二人の未来は明るい予感がした。
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