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幸せを掴む勇気  作者: 宝月 蓮


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13/20

名誉回復、通じ合う想い

 アルセニーが立ち上げたユスポフ商会が取り扱う、タチアナが開発した薬用クリームが皇妃アデライーダの左腕の傷を綺麗に完治させたことにより、ユスポフ商会はロマノフ家御用達になった。

 また、この件はアシルス帝国中に知れ渡った。

 それによりユスポフ商会には有力貴族達からひっきりなしに注文書が届くようになり、アルセニー達は忙しくしていた。

 また年が明けて春になり、アシルス帝国の社交シーズンが始まる時には、アルセニーとタチアナは宮殿に呼ばれ皇帝エフゲニーから勲章を賜ることになっている。

 それは二人の名誉回復も意味する。

 お互い自身の名誉を回復したら想いを告げようとしているので、アルセニーもタチアナもどこかソワソワしていた。


 そして、ついに春になり、アシルス帝国の社交シーズンが始まった。

 ユスポフ子爵邸にて、ラウラに化粧を施してもらっている最中のタチアナは、どこか表情が硬い。

「タチアナ様、緊張なさっておいでですか?」

 ラウラからの問いに頷くタチアナ。

「ええ。今日、皇帝陛下から勲章をいただいたら、(わたくし)の名誉が回復する。アルセニー様にきちんと気持ちをお伝えしようと思うのだけれど……少し不安だわ」

 タチアナは力なく微笑んだ。

 その手には、アルセニーに渡す予定のヘーゼルカラーのスフェーンのカフスボタンが握られていた。


 アシルス帝国では、愛する気持ちを伝える為に自身と同じ目の色のアクセサリーをプレゼントする風習がある。

 タチアナは名誉回復したら、アルセニーに自身の気持ちを伝えることを決めていたのだ。


「タチアナ様、きっと大丈夫でございますよ」

 ラウラは優しく微笑んだ。


 一方、パーヴェルに身支度を手伝ってもらったアルセニーも緊張していた。

「アルセニー様、そんなに緊張なさらなくても、きっと大丈夫でございますよ」

 パーヴェルは表情が硬いアルセニーに対して穏やかな笑みを浮かべている。

「そうだと良いのだが……」

 アルセニーは少し気弱にフッと笑う。

「どちらも上手くいきますよ。社交界復帰も……タチアナ様のことも」

 意味ありげに微笑むパーヴェル。

 その言葉にアルセニーはマラカイトの目を見開く。

「パーヴェル、どうしてタチアナさんとのことを……!?」

「私はアルセニー様が幼い頃からずっとお仕えしておりましたから。アルセニー様がタチアナ様にどのような気持ちを抱いているのかも分かります。先日届いたマラカイトのブローチも、タチアナ様にお渡しになるのでしょう?」

「……ああ。受け取ってくれると良いのだが」

 アルセニーは少し不安げな表情であった。

「アルセニー様、自信をお持ちください」

 パーヴェルは我が子を見守る親のような表情であった。


 アルセニーも、名誉を回復したらタチアナに気持ちを告げることを決めていた。


「お待たせいたしました」

 そこへ、タチアナがやって来る。

 準備が出来たようだ。

 アルセニーは目の前に現れたタチアナを見て、マラカイトの目を見開き頬を赤く染める。


 ラウラにより化粧を施されたタチアナは、いつもより少し大人びていた。栗毛色の髪もシニョンに結われ、黄色のAラインのドレスをまとっている。


「その……綺麗だ、タチアナさん。……良く似合っているよ」

「ありがとうございます。アルセニー様にそう仰っていただけて……嬉しいです。ラウラが手伝ってくれたのです」

 タチアナは嬉しそうに頬を赤く染めていた。

「そう……か」

 アルセニーはマラカイトの目を泳がせ、赤毛の髪をかき上げた。

 そして深呼吸をしてタチアナに手を差し出す。

「タチアナさん、行こうか。外に馬車を呼んである」

「はい。ありがとうございます」

 タチアナはアルセニーの手を取り、二人は馬車へと乗り込んだ。

 パーヴェルとラウラはそんな二人を見守っていた。






♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔






 豪華絢爛で煌びやかな宮殿。

 アルセニーとタチアナは皇帝エフゲニー・ゴルジェーヴィチ・ロマノフに呼ばれ、前へと出る。

「アルセニー・クジーミチ・ユスポフ、タチアナ・ミローノヴナ・ユスポヴァ。其方(そなた)達のお陰で我が妻アデライーダの腕の傷が完治した。よって、勲章を授ける!」

 エフゲニーが高らかに宣言すると、会場から拍手が湧き上がる。

 アルセニーとタチアナは勲章の証である金色の百合のブローチを受け取った。

「其方達には本当に感謝している。アルセニー、私はもう昔のことは気にしていない」

 エフゲニーはラピスラズリの目を満足そうに細めた。シャンデリアの光の影響で、月の光に染まったようなプラチナブロンドが輝く。

 昔、ユスポフ公爵領視察の際に怪我を負ったエフゲニー。アルセニーはエフゲニーが怪我を負った責任を取らされ、公爵家の家督を失い社交界からも追放されていた。

 しかし、勲章を受け取った今、アルセニーの名誉は回復したのだ。

「タチアナ、貴女のお陰で(わたくし)は明るい気持ちを取り戻しましたのよ」

 そう晴れやかな笑みを浮かべるのは、アデライーダ・フリストフォロヴナ・ロマノヴァ。星の光に染まったようなアッシュブロンドの髪にタンザナイトのような紫の目の、アシルス帝国皇妃である。

 腕の傷がすっかり綺麗に治った嬉しさを露わにしている。

「身に余る光栄でございます、皇妃殿下」

 タチアナは恐縮しながらも、淑女の笑みである。

「タチアナ、其方の名誉の回復もここに誓おう」

 エフゲニーはタチアナが自殺未遂をしたことも知っていた。

 しかし、彼の宣言により、タチアナの名誉も回復したのである。


 その後、アルセニーとタチアナは他の貴族達に囲まれて褒め称えられたり、あれこれ聞かれたりするなどして、疲れ果ててユスポフ子爵邸に戻って来た。

「アルセニー様、お疲れ様でございました」

「タチアナさんこそ、お疲れ様」

 二人はお互い疲れを労わっていた。

 そして、二人の間に沈黙が流れる。

 第三者から見ても、二人の緊張が伝わって来そうである。

「それと……」

 アルセニーは意を決して沈黙を破る。

「タチアナさん、君に渡したいものがあるんだ」

 アルセニーは緊張した面持ちで、綺麗にラッピングされた小箱を渡す。

「これを(わたくし)に?」

 緊張しながらも、きょとんとしているタチアナ。

「ああ。是非開けてみて欲しい」

 アルセニーにそう促され、タチアナは丁寧にラッピングを外す。

 小箱の中には、マラカイトのブローチが入っていた。

「これは……!」

 タチアナはヘーゼルの目を大きく見開き、ブローチとアルセニーの目を交互に見る。

 アルセニーと同じ目の色のブローチ。


 アシルス帝国では、自身と同じ目の色のアクセサリーを送ることは、愛を伝える行為でもある。


「最初は君とは白い結婚にしようと思っていた。君にとってその方が良いと思ったから。だけどタチアナさん、君と共に過ごすようになって……君を愛するようになった。タチアナさんさえ望むのなら、この先も私の妻でいて欲しい」

 アルセニーのマラカイトの目は、真っ直ぐタチアナのヘーゼルの目を見つめている。

 真剣さがひしひしと伝わって来る。

「アルセニー様……」

 タチアナは意を決したように、あるものを取り出す。

 丁寧にラッピングされた小さな袋である。

「タチアナさん?」

 アルセニーは少し不安そうに首を傾げる。

 そんなアルセニーに、タチアナはラッピングされた小さな袋を渡す。

(わたくし)の想いでございます。開けてみてください」

 タチアナに促されるがまま、アルセニーはゆっくりと袋を開ける。

 入っていたのはヘーゼルカラーのスフェーンのカフスボタン。

「タチアナさん……!」

 カフスボタンを見たアルセニーは、マラカイトの目を大きく見開いた。

(わたくし)も、同じ気持ちでございます。アルセニー様にとってはまだ子供かもしれませんが……(わたくし)はアルセニー様をお慕いしております。この先も是非、アルセニー様の妻でありたいと思っておりますわ」

 タチアナのヘーゼルの目は、アルセニーのマラカイトの目を真っ直ぐ見つめている。

 本心だということが分かる。

「良かった……。タチアナさん、君に受け入れてもらえて、本当に嬉しい……!」

 アルセニーはマラカイトの目を嬉しそうに細めた。

「ターニャとお呼びください。アルセニー様には、そう呼ばれたく存じますわ」

 タチアナは少し頬を染めながらそう言った。

「分かったよ……ターニャ。では私のことは……アルーシャと呼んでくれ」

 アルセニーは若干タチアナの愛称を呼ぶ際に頬を赤く染めた。

「承知いたしました。アルーシャ様」

 タチアナは嬉しそうにヘーゼルの目を細めた。


「アルセニー様……本当に良かったです……!」

「ええ。タチアナ様もあんなに嬉しそうで……!」

 アルセニーとタチアナのやり取りを陰で見守っていたパーヴェルとラウラ。

 二人は目に涙を浮かべて喜んでいた。


 こうして、二人は想いが通じ合った本物の夫婦となったのである。


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