一話
長編初めてです。投稿頻度はかなり遅いです。
誤字多いと思いますので、指摘お願いします
あぁ、家帰りてぇなぁ――…
とても長くつらい戦争が終わった
この戦争――敵種族を抹殺する為の第十六次種族戦争は、敵種族の防衛拠点であった砦を落としたことで、交渉が行われ、こちらが優位な条約を結び休戦となった。
停戦になった後、上級騎士や貴族たちが帰り、敵国の軍も撤退した後の戦場では後処理が行われていた。
「人間の死体で、プレートを持っている物があったらこちらで回収する。一枚につき100ペン支払う。」
騎士が大きなテントの周りで呼びかけている。
一部の下級騎士は戦後の後処理をしなければならないからだ。
俺は戦場に出る前に渡された、個人を証明できる木製のプレートを、ここ三日拾い続けている。
三日目になって、やっと単独行動ができるようになり、うっとうしいほど巨木が生えた森や、地面が溶けて沼地になっているような場所など、他の人が探さないような場所を探し始めた。
そこが、仲間とともに戦った戦場だったからだ。
これまで集めたプレートは49枚だ。他の兵士より拾っている。
これを拾うと金になるし、戦争で亡くなった者たちの供養にもなる。
50枚目のプレートは、倒木の下に隠れるように死んでいた、10歳ほどの子供のプレートだった。
子供のプレートはこれで5枚目だ。特段珍しくはないが心が痛む。
自分と同じ少年兵という立場は戦場で最も死にやすいからだ。
ハエがたかって顔もよく見えないが、人間であることがわかる程度に原型をとどめている。
兵士がつけているはずのマスクは剥がされ落ちており、上半身の損傷が大きい。
死因は蛙による爆死だろう。
一人で辛かっただろう。バイア教の死者供養の儀式(胸の前で一本下から上に線を切る。)を行う。
その後、子供が着ている服の胸ポケットから、木製のプレートを取り出す。
そのプレートは血や土で汚れていたが、書かれている内容を読むことは出来た。
出身 ササイマ領
名前 ヘルマン
「えっ」
なんで、ヘルマンがここにいるんだ。
ただただ疑問だった。
だって、ヘルマンはもっと小さくて、可愛くて、戦争なんか行くような年齢じゃなかっただろ。
なんで、こんなところで寝てるんだよ。起きてくれよ、元気な顔見せてくれよ。
おかしいだろ。
俺の家族なのに、なんで俺は――
俺の弟ヘルマンは死んだ。
その事実が受け入れられない。
ヘルマンの顔を見る。
蛆が湧いているが、昔の面影がある。あの可愛かった頃の面影が。
「うっあぁぁ………」
視界が歪んでいく。
この三日間泣いてばっかりだ。
戦後処理いう名目で、俺は、ほかの戦士たちと死体が転がっている平原からプレートを取り出す作業を行った。
一緒に戦った戦友の腐敗臭がする中からプレートを取りだし、
一緒に生きてくと誓い合った親友の、血と泥で固まったプレートをベリベリと音を出しながら剥がした。
そのほかにも、たくさんのむごい死体を見てきた。
この三日で、戦った時間と同じぐらい疲れた。
体ではない、心が、精神が、動くことを拒否している。
休憩しよう――…
倒木に腰掛ける。
下を向く。
ヘルマンと目が合う……
虚構を映している目を見てしまう。
『アァ――――――――――――!!』
もう限界だった。
何で、戦争が終わったのに、殺し合いは終わったのに、どうして辛い目に遭わないといけないのだ。
こんな目に遭うのだったら、戦争で死ねば良かった。
何度も窮地に立たされた、死ぬと思った。ただ、俺の帰りを待つ人の為に立ち上がってきた。
立ち上がる為の心の支えがなくなっていく。
心が壊れていく。
自殺はだけは、できない。
自殺をしてしまったら、あの場所で、あの時間を一緒に戦ってきた仲間を侮辱することになる。それだけはできない。
けど、生きていくにはこの場所は辛すぎる。
誰か、俺を殺してくれ――
俺が大声を出したからだろうか、弱っている獲物だと思ったのだろうか。
ペチャペチャ
遠くから敵が近づいてくる音がする。
まだ遠いがすぐにここに来るだろう。
きっと残兵が隠れていたのだろう。巨木が多いここは隠れるのにはぴったりな場所だ。
俺はここで、殺されるのだ。
ヘルマンと一緒の場所で死ねるのなら、もうそれはとっても良い死に方じゃないか。
そう、思った。
でも、俺はもう一度見てしまった。
ヘルマンの無念そうな目を。まだ死にたくなかった、もっと生きたかったとでも言いたげなその目を。
その目を見て、心が動いてしまっていた。奮い立ってしまった。
――――生きようと思ってしまった。
「そうだな、お兄ちゃんがかっこ悪い所見せるわけには行かないよな。」
俺は、倒木から腰をあげる。
ここを戦場にするわけにはいかない。
まだ、死ねない。
まだ、俺を待っている人が居るから――…
こちらに近づいてくる敵に俺は向かっていく。
いつもと変わらず、足音を立てずに敵に場所を察知されないように。
敵を発見した。
木の陰に隠れ、相手を観察する、敵は一匹だけだ。
小型の敵だ。しかし、俺がこれまで殺してきた敵とは何か違う、違和感がある。
敵は満身創痍で、体中傷だらけ。これが違和感なのか―――違う。
俺が感じている違和感はこれじゃない。
何かを、感じる。
強者のような気迫とも違う。
ただ、そこに居るだけで差を感じてしまう。
生物としての差を。
権能を持った強敵でも、ここまでの差を感じなかった。
使い慣れたナイフを握る手が汗ばむ。
『ボキ』
敵に集中しすぎて、足下がおろそかになってしまった。
敵がこちらを向く。
――気づかれた
俺は全速力で敵に向かっていく。
敵が玉を生成するより早く。敵が俺に攻撃するより早く。
敵の首に向かって全力で向かっていく。
死にたくない。その一心で。
もう少し、あと少しで首まで届く。
俺はナイフを振り下ろす。
相手の首をねじ切るように、相手が一撃で息絶えるように。
そこで、新たな違和感に気がついた。
敵が一切動いていないのだ。
ただ、目線のみを俺に向けて、手足は一切動いていない。
――誘い込まれた。
そう考えた。
振り下ろしたナイフはもう止められない。
――死
その存在がちらつく。
しかし、俺の考えとは裏腹に、ナイフは一切の抵抗なしに敵の首筋に刺された。
首筋に刺されたナイフを俺は思いきりねじる。
鮮血が飛び散る。
「ゲコ」
まだ何かある。
死体を無視し、
周りを観察する。
しかし、敵の増援も来なければ、わなが作動するわけでもない。
死体をもう一度見てみる。
しかし、屍となり、動く様子もない。
あっさり死んでしまった。
強い違和感があったにもかかわらずだ。
なにも起きないのであれば、敵の死体がある場所に長居する必要はない。
「戻るか。」
俺は、屍に刺さったナイフを抜き取り、ヘルマンの供養をするために戻ろうとした。
だが、足を踏み出そうとした瞬間ナニカが起こった。
一歩が踏み出せない。
あれ、なんで
――体が動かない
ものすごい寒気がする。
なのに、すごいドキドキしている。
息も荒くなってくる。
瞬間、俺の体にナニカが入り込んできた。
目や肌では感じないが、明確にナニカが体に入ってきたことを、体が、心が、精神が、俺に伝えてくる。
アツイ――…
体から火が出るような熱さだ。
至る所が壊れているようなそんな感じがする。
なのに、寒い。
体の中は熱いのに、体がとても寒い。
「タスッ…」
そこで、俺の意識は途絶えた。