森を蝕む闇の蔓
深緑に覆われた〈リュミエールの森〉の奥深く。
そこはかつて、澄んだ水と香る草が息づく聖域だったみたいだ。
だが今――
小川の水は黒く濁り、葉は斑点を浮かべ、やがて朽ちる。風は低いうめき声を運び、地面には太く黒い蔓が不気味に這っている。
――瘴気の根。
古代より幽閉されていた邪神の残滓。
大地の奥底からわき上がる邪毒を吸い上げ、小さな「瘴気の子根」を撒き散らしながら成長する。
寄生された植物は黒く染まり、やがて毒性の胞子を飛散。生態系を汚染し、一帯を死の荒野へと変えるという。
「……おかしい。水が黒いし、あの蔓は……」
小川の源流を探っていた俺たちは、突然上空を覆う羽音に振り返った。すると――
「ギャァァァ!」
鳥のように尾を振る瘴気の根の怪物
《マンティクル・モス》が、黒い粉を撒き散らしながら襲いかかってきた。
ウィンリーの攻撃が弾かれ、エルリックの大斧も毒胞子に侵される。
「逃げろ!」
と俺はマリアベルを庇い、包丁で蔓を切り裂いた。
「こ、このままでは森が……!」
傷を負ったマリアベルは必死に呪文を詠唱し、緑のオーラで蔓を押し返す。
「ここを浄化しなければ、森は完全に枯れてしまいます……!」
確かにそうだが。でもどうすればいいんだ?
マリアベルが土に手を触れ、かすかな精霊の声を拾う。
「浄化の儀式を行います」
「浄化の儀式?」
それは聖なる水と塩を混ぜ蒸気を生み出せば、瘴気を祓えるらしい。
「ミツボシ様、次のものを用意お願いします」
「わかった」
俺はマリアベルが持っていた「浄霊の鍋」に万能圧力鍋を使って次の順番で準備する。
1. 聖水の調合:清流の水に白銀塩をひとつまみ加え、火を灯す。
2. 鍋から立ち上る湯気:蒸気が瘴気に混じると、毒霧が白い光に変わり始める。
3. マリアベルの詠唱:彼女の歌声が風の精霊を呼び、土に浄化の力を注ぐ。
「マリアベル、準備できたぞ」
マリアベルは小さく頷き、杖を掲げ、精霊の歌を低く詠唱する。
「風よ、水よ、大地よ――この森を、命を取り戻させ給え!」
鍋から立ち上る湯気と、マリアベルの魔力が瘴気の根を包み込んだ瞬間――
ズボォォォン!
根の奥底で巨大な音がして、瘴気の泉が逆流するように消え去った。
⸻
やがて毒霧は晴れ、朽ちた木々には新緑が芽吹く。
小川は再び澄み渡り、枝には小鳥がさえずる。
「森が……戻ってきた!」
マリアベルは土を撫で、笑顔を見せた。その頬には、泥と涙と希望が混じっていた。
「ありがとうございます。ミツボシ様、みんな――この森を助けてくれて」
俺は微笑む。
「マリアベル、お前を仲間に迎えたい」
俺は差し出した手を、彼女は迷いなく握り返す。
「はい、これからは共に――森も庭も料理も、守り、育てましょう」