家が建った
「え? どうしてこのサイズに?」
俺の目の前に広がるのは、見上げるほど大きな屋敷だった。
崩壊した土地、荒れ地だった場所に――基礎がしっかりとした、立派すぎる家が建っていたのだ。
「我が主の家ですからね。これくらい大きくなければ」
胸を張るのはドワーフの匠、エルリック・ドゥンゴラ。その言葉に、俺はただ呆然と頷くしかなかった。
家の基本構造は西洋のゴシック様式に似た凹字型。正面の大きな玄関をくぐると、広々としたホールが出迎えてくれる。
奥行きはざっと十メートル。横幅はその三倍。吹き抜けの天井は八メートルはあるだろう。そこにシャンデリアが吊るされ、石柱には細かい装飾が彫られている。
ウィンリーが目を輝かせてホールを走る。
「わあああっ! 本当にお家ですー! 屋根があって、壁もあって、ドアもあるですー!!」
「ここは、集会場としても使えるように設計しました」
エルリックはそう言って胸を張った。
ホール奥には二つの扉があり、左側を開けると青々とした芝生が敷き詰められた中庭が現れた。
左右にはそれぞれ個室や階段が配置されており、俺の私室は一階左側の一番奥。専用トイレ付きだ。
「……これでやっと外じゃなくてもいいんだな」
俺の部屋は、二階の部屋をまるまる一つにした広さ。
寝室に書斎、倉庫まで完備されていて、もはや貴族の部屋のようだった。
右側の扉を開けると、広い食堂とキッチンがあり、地下には食料庫も。
階段を上がれば、個室が六部屋並び、どの部屋にも大きな窓がつけられ、日当たりも良好。
外にはエルリック用の“鍛冶場”。
炉は森の魔石を応用して構築し、風の魔法を使って空気を送り込むことで高温を維持できる仕組み。
ふいごの代わりに、魔力の風が炉を赤々と燃やしていた。
――そして目玉は、一階の右奥の扉の先。
「これが……露天風呂か」
岩を丁寧に組み、十人は入れそうな広さがある風呂。
高級旅館のような仕上がりだ。
さらに、温泉の水を使って水車で電力を生み出しているみたいだ。
まさにエコ仕様だ。
「これ、地球でもなかなか見ないレベルのエコハウスだぞ……」
思わず呟いた。
「あとは一冬過ごしていただき、不満点を改善できればと」
エルリックは満足そうに言った。
というわけで、俺は完成した露天風呂に直行した。
「ふぅ……極楽だ……」
肩まで湯に浸かり、思わずため息が漏れる。
川での行水しか知らなかった俺にとって、この湯の心地よさは別世界の感覚だった。
空を見上げれば――
「……月が、二つ?」
一つは見慣れた白い月。もう一つは、赤く光る月。初めて見るその光景に、俺はしばらく目を奪われていた。
過去の日々が頭をよぎる。追放された日々、命を削るような狩り、仲間との出会い。
けれど、今は違う。
家がある。仲間がいる。温泉もある。
この世界でもなんとかやっていけるかな。
っとその時、
「お風呂なんですー! 入るんですー!」
元気な声が背後から響いた。
振り向くと、ウィンリーが満面の笑みで湯船に入ってくる。タオルも何も付けずに。
「お、おいウィンリー!? 前くらい隠せって……!」
「えっ? なんでですかー?」
この世界には“風呂”という文化がない。だから、こういうことになる。
目のやり場に困りながらも、俺は露天風呂を堪能しているとーーーイリーナが入ってきた。