名誉料理人になる
ミレイユがバタリと倒れたあと、ギルド中が一気に騒然となった。
「おい、どうした!?」
「ミレイユが倒れたぞ!」
ギルド内の冒険者たちが集まってくる。
「おい、お前!! なに持ってきたんだ!?」
冒険者たちがのぞき込む。
「って、まさかフグ豚だと!?」
「いやいや! これって猛毒で扱いを間違えると一発でお陀仏のアレだろ!?」
ギルドの冒険者たちは、置かれた数匹の銀色に輝くフグ豚を見てざわめき始めた。
俺は倒れたお姉さん――ミレイユさんを支える。
「……大丈夫ですか、ミレイユさん」
ミレイユは目を開いた。
そして俺の顔を見るなり、いきなり両手を掴んで叫んだ。
「あなた……! 本当にこれ、あなたが……捕って、調理までしたんですか!?」
「あ、ああ。ちゃんと毒袋も取り除いた。危険な部分は全部除去してある」
「……あ、ありえない……。この国でフグ豚をさばける料理人なんて、五指もいないのに……」
ミレイユさんはぶつぶつと呟いた後、ふっと立ち上がり、ギルドのカウンターを叩いた。
「皆さん、静かにしてください!! あの伝説のフグ豚を捌ける人が現れました」
ドヤ顔でミレイユさんが言うと、周囲の冒険者たちは呆然としていたがすぐにどよめきが巻き起こる。
「なんだって!?」
「伝説級の魚を捌いたって!?」
「誰だよ、そいつ!?」
みんなが俺を注目してくる。
やめてくれ。人の視線は慣れてないんだ。
「ミツボシ様、すごいですー!」
「誇らしいですわ! ミツボシ様、私の料理人としてのマスターですわ!」
ウィンリー、イリーナが誇らしげに言うもんだから、恥ずかしくて仕方がない。
「お前らなぁ……」
照れているとギルドの裏口の奥から大柄で、刈り込んだ短髪や頬に大きな傷がある男が現れた。
「……ふむ、あの伝説のフグ豚を……しかも十匹もだと?」
「はい、ロッド様! 確かにミツボシ様が捌いたとの事です!」
頭には深い傷跡。
ミレイユが胸を張って答えると、ロッドという男は無言で俺を見つめる。
そして、俺に微笑んだ。
「名は?」
「月島光星です」
「……面白い。よかろう、我がギルドの名誉料理人として登録してやろう」
「えっ」
周囲から歓声が起こる。
なんかまた、話が大きくなってる……!
「俺はギルドマスターのロッド。よろしくな」
手を差し出され、俺は握手する。
ミレイユが興奮して言う。
「すごいです。ミツボシ様!ギルドマスターから直々に登録してもらえるなんて早々ないですよ」
「俺は特に欲しいとは思わないんだが………」
「なにをおっしゃってるんですか? 名誉料理人として登録されれれば世界の食材を捌けるようにあるんですよ」
なるほどな。
まぁ、どこかで役に立つかもしれないからな。貰えるものはもらっておくか。
「わかった。ありがたく頂くとしよう。あと、興奮しているとこ悪いが清算をすませたいんだが」
ミレイユは恥ずかしかったのか顔を赤め、軽く咳払いをする。
そして処理の手続きを始める。
「こちらがフグ豚の報酬、金貨百枚になります」
金貨百枚!!ってことは、地球円で百万円だ!!
急に金持ちになった気分だ。そして、大金を手に家に戻った。