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93 報告

 ダンジョンを最短距離で駆け抜けて、丸一日掛けて地上に戻った。

 フロアボスは下から戻ってくる分には出てこないらしい。

 オオイワトカゲキングも、岩蠍も現れず、素通りできた、というより、階段を登り切ったらフロアボスの部屋の前だった。

 また戦わなくて良かったとは思うけど、謎すぎる。

 部屋の中の気配を探ると、中に何か居る気配がするそうだ。


 ダンジョンから戻ると、その足で真っ直ぐに農村へ。

 村長にだけ事情を説明して、一緒にヒメッセルトまで向かってもらった。

 ダンジョンの状況を聞いた村長は、悲鳴と喜びの声を上げ、慌てて旅装を整えていた。

 ダンジョン好景気は嬉しいが、身を守る術を持たない彼等は、ヒメッセルトで諸々の準備を整えなくてはならないのだそうだ。


 ヒメッセルトには半日程で到着した。

 寄り道せずにハンターギルドに向かい、受付へ。

 前にも言ったかもしれないが、ハンターギルド内は買取・納品窓口、受注窓口、相談窓口の三つがある。

 今回の場合は相談窓口だ。

 相談窓口は、用件の前にまず、話を聞く場所の確認をされる。

 基本的にはオープンスペースにパーテーションを置いてあるだけの場所を使用する。

 でも、政治的に重要な内容であったり、街に危険があり、情報が拡散されては困る様な場合は、個室を使用する。

 女性ばかりのパーティとかだと、拠点等の話にも使用されたりするらしい。

 そして、今回の俺達の報告は後者、つまり個室の方。


「すまないが、まずギルドマスターか、副ギルドマスターを呼んでくれないか?」


 防音室に案内され、席に着く間も無くオーランドが受付嬢に依頼する。

 「ダンジョンの異変についてだ」と低い声で一言付け加えると、顔を強張らせて足早に部屋を出ていった。

 全員席に着きはしたものの、まんじりともせず、無言でソワソワしていた。

 俺は説明に使用する為、書きかけの地図を少しでも早く仕上げようとテーブルを借りて作業をしているが、どうにも集中できない。

 手に入れた(誰も使っていない)解毒のマジックアイテムも、いくつか取り出してテーブルに積んである。


「キリトちゃん、地図(それ)隠して、メモだけ残しといて。上層部のは出しといてもダイジョブ」

「え?あ、はい」


 部屋に、誰か近付いてきている事を察したヤンスさんが耳打ちしてきた。

 よくわからないままに、ペンやインク、定規と下層の描きかけの地図を【アイテムボックス】に仕舞い、姿勢を正す。


ーーーコンコンコン。


「失礼します」


 ドアが開き、受付嬢とインテリヤクザが入ってきた。

 いや、本当にインテリヤクザだから。

 ぱっと見は細身で、短く整えた濃紺の髪とメガネを掛けて柔和な印象を受けるだろうが、良く見ればすぐに違うとわかる。

 シンプルなデザインに抑えられているが、明らかに布地からお高そうな服、きちんと切り揃えられた髪は整髪料でピシッと固められていて、アルカイックスマイルと呼ばれる微笑みも、メガネに隠されたオレンジ色の目はちっとも笑っていない。

 何より、全身から醸し出される覇気が一般人のそれではあり得ない。


「やあ、君達がダンジョンについて報告があると言った『飛竜の庇護』の方々かな?」

「ええ。オレ…いや、私がパーティリーダーのオーランドです」


 オーランドが立ち上がって挨拶するのに合わせて皆立ち上がったが、何も聞いてない俺は一拍遅れて、慌てて立ち上がる。

 なんだよ!立つなら教えてくれよ!

 インテリヤクザは、そんな俺にチラリと視線をよこし、そのあとデイジーをチラリと見て、もう一度オーランドに視線を戻した。


「ワタシが、此処、ヒメッセルトのギルドマスター、アダルブレヒトだ。挨拶はこれくらいにして本題に入らせてもらおうか」


 上座に据えられた、一人掛けのソファーに深く腰掛け、俺達にも席を勧める。

 それぞれ近くにあった椅子に腰掛け、報告を促す。

 なんていうか、昔チラッと立ち読みした『ブラックな話術』っていう本のテクニックだらけだ。

 相手の名前を呼ぶ事によって、「お前を特定している」とアピールして、椅子に深く座る事で余裕を見せている。

 更に、話の主導権を握る事で立場を示している。

 全部が全部、そういう意図がある訳じゃなさそうだけど、インテリヤクザと認識してしまったのでものすごく警戒してしまう。


 そんな俺の考えなど露知らず、オーランドはダンジョンの異変を報告していく。

 テーブルに積んでいたマジックアイテムや出してはいなかったが、一緒に出てきた宝石類を取り出す様に言われたりもした。

 静かに話を聞き、時折質問を投げたり、相槌を打つギルマス。


「マジックアイテムに、ダンジョンの拡張……。成程、これ等が本当にあのダンジョンから出てきたのであれば大事だ」


 全ての話が終わって、アダルブレヒトさんは重々しく、静かに頷いた。

 他にフロアボスの証明や地図などは無いかと訊かれ、今度はヤンスさんが俺のメモを利用してあれこれ説明を始める。

 説明の途中で岩蠍の尻尾の針や、オオイワトカゲの魔石等を出す様に言われたりもした。

 その中で五階層の調査の為に、詳しい情報を提供してほしいと言われ、ヤンスさんがニヤリと口を歪めた。


「このメモは『飛竜の庇護』の財産だからな、はいどうぞ、と無料(タダ)で渡す訳にはいかないな」


 今まで、惜しげもなく見せていたメモ(ソレ)を扇状に集め、ピラピラと振る。

 脚を組んで、ふんぞりかえっていて、とても偉そうだ。


「『飛竜の庇護(ウチ)』のマッパーは優秀だからな、きっちりと正確な地図を描ける」


 そう言うと、スッと一階層の地図を前に押し出した。

 その地図を見たアダルブレヒトさんの目が、大きく開かれる。


「四階層、五階層分は……」

「まだ無い」


 被せる様にヤンスさんが答えるが、それは正確ではない。

 五階層分は確かにまだ描いてないが、四階層は地図だけなら描き上がっている。

 出てくる魔物の種類と傾向、罠の有無や種類、宝箱の位置、等の細かい情報がまだ入っていないだけだ。

 此処に来る前に、しつこいくらいに余計なことは言うなと釘を刺されているので、沈黙を守る。


「三日後の夜までに用意することは可能か?」

「やってやれないことは無いだろうが、こっちもダンジョン帰りで疲れているんだよなぁ。なあ、キリトちゃん?」

「は、はいっ!……少し、厳しいかと……っ!」


 正直言って、四階層は今日中、五階層は明日一日掛ければ仕上がる。

 が、しかし、ヤンスさんの目が難しいと言え、と言っていた。

 慌ててこくこくと頷き、同調しておく。


「休ませずに期限を守ろうとするなら、しばらく使い物にならなくても生きていけるだけの、相応の報酬が必要だ」

「ふむ、ならばこれくらいで買い取ろう」

「だめだめ、そんな金額ならこのメモを写したものを半分くらいだな。椅子から立つのも覚束ない体力の無さなんだ」


 提示された額をチラリと見て、すぐに頭を横に振るヤンスさん。

 先程立つのが遅れた事を引き合いに出して交渉している。


(その為か?!その為だけに俺に立つ事教えなかったのか?!)


 喧々諤々と交渉を行うギルマスとヤンスさんに遠い目をしながら座っている。

 嗚呼、もうどーにでもなーれ⭐︎



 結果、ダンジョンの異常事態報告の報酬の規定額が支払われ、事実確認が取れ次第追加報酬がもらえる事に。

 ギルドにとって儲けに繋がる内容なので、信用できる別のパーティに調査に行かせて、確認が取れてから利益報告報酬が支払われる。

 程度によってはとんでもなく高価になるらしい。

 これは期待大ではなかろうか?

 調査に出た人達が帰ってくるまでこの街で待つ事になった。


 更に、情報の載っていないただの地図を三日後の夜までに渡す事で、小金貨三枚の報酬を約束させた。

 命を懸けて手に入れた貴重な情報が云々カンヌン、ひ弱で脆弱な俺がどうのこうの、探索には正確な情報が必要でナンタラカンタラ、と粘りに粘ってこの金額を引きずり出したヤンスさんは本当にすごい。

 でも部屋を出て行く時にギルマスが「嘘だった時は覚えていろよ」とボソっと呟いていたのが、メチャクチャに怖かった。


 村長はこの後、村の防衛と国への補助申請等山の様な仕事があるらしい。

 受付嬢が代筆しながら大量の申請書を書き上げていた。

 それを眺めながら、俺達はギルドが用意してくれた宿屋に向かった。

 お風呂付きの高級宿屋で、ひっろい部屋にはお高そうな家具が並んでいた。

 大きなリビングルームから繋がる個室が四つ。

 それぞれが普通の部屋の倍は広い。

 そこにキングサイズのベッドが一つ。

 書物机が一つ。

 クローゼットが一つ。

 こちらは男部屋だ。

 上の階には同じ形の部屋があり、そちらは女性陣が使用している。

 費用は、食事や色々なサービスも全てコミコミで、ギルド持ち。

 これもヤンスさんが盛り込んだ条件だ。

 本当に抜け目がない。


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