89 試作第一号
なんやかんやあったけど、試作第一号がなんとか完成した。
魔石の研磨に関しては、結果から言うと、上手く出来た。
言葉で説明するのは難しいんだが、土魔法と水魔法と風魔法を使って、球体の台風みたいなのを作って表面を削り取る感じだ。
水風船を破らずに中の水を高速回転させる、某忍者の、あの技なイメージでやったら上手く出来た。
めっちゃ練習したけど。
完成するまでに何個も魔石を無駄にしたけど。
最後の二つは、トゥルントゥルンのぴっかぴかの真球になった。
それを水魔法でパカッと二つに切って、一旦終了。
微調整はオーランドが帰ってきてからだ。
研磨で時間を使っていた事もあって、オーランドはすぐに帰ってきた。
にっこにこと色んなドロップ品を抱えてきて、俺にドロップ品、エレオノーレさんに剣を渡していた。
エレオノーレさんは、嬉々として魔法の補充を行うと、しばらくニマニマと観察した後に、赤の魔石を外して俺に渡してくる。
直前まで笑ってたのに、急な無表情が怖い。
サイズはほんのちょっと縁を調節するだけで済んだ。
真球にするより、縁を削り取る方が千倍くらい簡単だった。
これで四つの魔石が準備できた事になる。
魔石の準備が整ったところで、魔法陣の仕上げに入り、最後の線を書き終わったエレオノーレさんが、抜けがないか確認する。
魔法陣も仕上がって、いざ実験開始だ。
絶対に私がやるの!と意気込むエレオノーレさんに魔石を渡す。
魔石を受け取ると、おもむろに広げた魔法陣にポイッと乗せ、属性を付けない魔力をドバッと振りかけた。
(えっ?!そんな雑で良いの?!)
なんか勝手なイメージだけど、置く位置に拘り、方角なんかにもこだわり、専用の魔道具とか使って、めちゃくちゃ長い呪文を唱えるのを想像してた。
俺の驚きを他所に、魔力に反応した魔法陣がメラメラと燃え上がり、魔石に焼きつく様にして封じ込まれていく。
時間にして約五分程、紙を燃やし尽くして試作第一号の魔石が完成した。
汎用簡易魔法シリーズ用魔石 茶 (レプリカ)
汎用簡易魔法シリーズ用魔石を模して作られ
た劣化品。
作り方、魔石、魔紙、インク、全ての質が低
い。なお、土属性だが発動ワードは「炎よ」
まだ魔法は封入されていないが、劣化品の為
使い捨て。
繰り返し使える様にする為には素材の品質を
上げ、発動ワードを属性に合わせた物にした
方が良い。
oh……。
失敗はしていないが、成功もしていない気がする。
おもっくそ、劣化品って書いてある。
あかーん!キラキラした目でコチラを見るエレオノーレさんになんて言おう。
「……ぁ〜……」
「その反応でわかったわ。失敗なのね」
視線が泳いで、言葉を探している間にバレてしまった。
「いやいやいや、完璧に失敗って訳でも無いんですよっ?」
ガックリと肩を落とすエレオノーレさんに、慌てて説明する。
アタッチメントで使用する事はできること、魔法を封じ込めることは出来る事、ただし、一度魔法を籠めると使い切りな事、土属性の魔石なのに発動ワードは「炎よ」なこと。
かくかくしかじか。
「わかったわ、やり方は間違ってなかったのね?素材の質を上げたり、詳しい研究は家ができてからにしましょう」
長い、長い、質疑応答の結果、エレオノーレさんがやっと折れてくれ、今日は休んで、明日からまた探索を継続することになった。
なんか、探索するより疲れたわ。
あ、試作第一号には、とりあえずストーンバレットを封入してみた。
「炎よ」って言うと石礫が飛ぶ、“対人であれば”意表を突ける、使い捨ての魔石が出来上がった。
ちなみに、使用限度回数は一回。
あまりのショボさに、さすが劣化品だと皆で大笑いしたよ。
明日からはまた、地図の作成や、探索のはじまりだ。
しっかり休まねば。




