86 新しい魔法と魔法科学
「で?何を悩んでるんだよ」
翌朝、朝食を摂っていると、唐突にオーランドから問われた。
なんだろう、俺、そんなに分かりやすかったかな?
昨夜の内に、この世界に魔法科学の考え方はあるのかどうか【マナーブック】で調べてみたが、カケラもそんな情報は出てこなかった。
唯一出てきたのは、魔石に魔法を籠める考え方だ。
魔石に魔法を籠める方法はあるが、それを発動させる為には、それ専用の魔術具が必要。
つまり、間違っても『汎用』とか『簡易』とか作れる程の知識は書いていなかった。
そこまではわかった。
でも、このデータは300年前の内容なので、もしかしたら今なら出来るのかもしれない。
出来る事なら皆に相談したかったので、オーランドから声を掛けてくれたのはとても助かった。
「実は……」
俺は昨日出てきたアタッチメントや魔石について改めて説明した。
特にここの世界観と違いすぎる事、使用回数制限があり、既に使用されている事、もしかしたら何か異変が起きているかもしれない事、魔法科学の事。
話を進めれば進める程、皆の目が険しくなっていく。
魔法について詳しいエレオノーレさんと、常識人のデイジー、雑学や他国に詳しいヤンスさんの三人と、もう少し詳しく問題点を詰めていく事になった。
新しい魔法の可能性を知ったエレオノーレさんの興奮状態から、ちょっと時間が掛かりそうだという事で、今日は探索は休んで、色々話し合う事にした。
遠回しにエレオノーレさんの質問攻めを受けろ、と言われている気分だ。
因みに、ジャック、オーランドは魔法に関しては全く知識がないからと、簡易拠点作成に回ってくれた。
拠点作成が終わったら、近隣の探索に出るそうだ。
そして、あまり期待していなかったけれど、やっぱりこの世界に、汎用性のあるマジックアイテムという発想は無かった。
錬金術師のお店で、師匠が作成した物と同規格の物を作る事はあっても、“アタッチメント”“カセット”といった一つのマジックアイテムを分けて使用する様な物は無いとの事。
「そんな物発明してたら、絶対に情報が広がるはずだし、そこのアトリエは確実に有名で、大陸中に名前が轟いてるはずだわ。少なくとも私は絶対に知ってるはずよ」
そう、キッパリ言い切られてしまった。
ヤンスさんも他国でそういった情報は聞いたことが無いと教えてくれた。
つまりは、『異世界産では?』という疑惑に信憑性が加わっただけの結果になってしまった。
使用回数制限については、オーランドにも「あと七回だから無駄遣いしたらダメ」だとは伝えていたが、十回中の八回とは伝えていなかった。
それについては、「ダンジョンだから」と一蹴されてしまったが、本当にそう考えて大丈夫なんだろうか?
異変は既にこのダンジョンで起こっているから、それはもう専門の機関、つまりハンターギルドにお任せするしかないのだそう。
俺達に出来る事はここの詳しい情報をしっかりギルドに伝える事だけなのだとか。
そして、魔法科学の話になった途端エレオノーレさんがギュンッと身を乗り出してきた。
俺だってそんな詳しい訳じゃない。
なんとなーく、魔法は杖とか使って不思議な事を起こすヤツで、魔力と専門知識が無いと使えないし、本人の資質が問われるイメージ。
魔法科学は魔石とか魔物素材を利用して、誰でも使い方さえ間違えなければ使用できる様にした機械みたいな、家電みたいなイメージ、くらいのふわふわした知識しか無い。
家電を意識しながらざっくり説明すると、三人の目が皿の様に丸くなった。
「どんだけ便利な世の中だったんだ?」
「まるでお伽話の様です」
「魔石の耐久値が……で、それぞれに指定された命令系統を……、更に、そこに……で、……にアレを……」
ヤンスさんとデイジーは驚くだけだったが、エレオノーレさんはメモを取り出すとブツブツ何かを呟きながらものすごい勢いで何かをガリガリと書き付けていく。
時折、髪をかき混ぜながら、鬼気迫る勢いでガリガリとペンを動かすその姿は、少し怖い。
しばらく三人でエレオノーレさんを見ていたが、終わる様子が見られないので物のついでだと、四階層に入った時に話していたバフ・デバフについても説明した。
丁度医学書(回復の魔法書)もある事だし、図解を使用しながら説明する。
骨があって、筋肉があって、血管があって、内臓があって、神経があって、とほとんどは俺の知識と変わりはなかった。
唯一、魔法回路っていうのがあったけど、これが地球では退化した魔法を使う為の器官って奴なんだろう。
血管や神経と似ていて、全身に張り巡らされている。
人間やエルフは、所謂丹田と呼ばれる辺りに魔法回路の心臓に当たる部分があり、目や手等に回路が多く集まっているので、魔法の発動は指先や手のひらを中心に発動しやすいのだろう。
大雑把に体内器官の働きを説明して、どこにどういう風に働き掛ければ役立つのかを解説していく。
魔力で擬似筋力を作り、増加させて、スピードアップ、パワーアップ、身体の表面に薄い魔力装甲を貼る事での、防御力アップ、相手の筋肉へ熱を与える事で熱疲労によるスピードダウン、パワーダウン。
鼻や耳、目等の感覚器の感度を上げて探索能力を底上げする方法だとか、魔法の身体強化とか色々考えてみた。
解毒に麻痺解除はうまく説明できなかったけど、洗浄、浄化は二人も魔法書を読んで、習得した。
その中で、麻痺“解除”の説明をしていたはずなのに、ヤンスさんが“麻痺の魔法”を開発した事には驚いた。
何がどうしてそうなった?
最後に、医学書(回復の魔法書)を先に見ている事に途中で気付いたエレオノーレさんがブチ切れて、一から全て説明させられたことをここに記しておく。
お昼ご飯中もむちゃくちゃ質問責めで、また、食事の味がわからなかったよ。
うう、胃が痛い……
いつも『俺不運』を読んでくださってありがとうございます!
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魔法科学ってなんでしょうね。
なんかこう、浪漫の響きだけでやっちゃいましたが、多目に見てやってください。
なんとな〜くで書いているので、矛盾があれば是非教えて下さい。
エレオノーレさんの魔法狂いがどうにもうまく書けません。
これからどんどんもにょもにょになっていきますし、重たくなっていくのでスパパーンとすっ飛ばして日常パートに入りたい所です……。
早くダンジョンから抜け出て欲しいですが、まだまだ続きます。
……頑張ります。
もうダンジョン飽きちゃったよぅ(涙)




