84 お宝お宝♪おた、か、ら……?
戦闘が終わった事にカクン、と膝から力が抜けて、座り込む。
今回、今までで一番キツい戦闘だったんじゃないか?
俺、めっちゃ狙われてたやん!今になって手足がガクガクブルブル震え始めた。
「まだ気を抜くなアホタレ」
頭をヤンスさんに打たれた。
デイジーが俺の手を引っ張って立つのを手伝ってくれる。
おおぅ、手も膝もプルプルしてら。
でも、そう、背後をこの二人が守っていてくれたからこそ、俺達はオオイワトカゲだけに集中出来たのだ。
この逃げ場のない部屋に入って、背後から襲われたりしたら……うひぃ〜、考えたくない。
これから部屋の中を調べなくてはならないのだけれど、どうにも身体がだるい。
俺がノロノロと動き出すのを見て、エレオノーレさんが部屋の中心で休む様に言う。
「キリトの魔力量から言えば、まだそこそこ余裕があると思うけど、戦闘でここまで使う事が今まで無かったもの、多分そこから来る精神疲労ね。ちょっと休めば回復すると思うわ。私も一緒に休むから、デイジー何かあったらお願いね」
そう言うが早いか部屋の中心に俺とデイジーを連れて行って背中合わせで座り込む。
デイジーは側に立って、俺達の護衛だそうだ。
「休みながらで良いから見える範囲でなんか探してくれよ、キリトちゃん。そして何か見つけたらすぐに報告」
「かしこまりましたー……」
探す、に含みを持たせるヤンスさんに返事をして、部屋中をゆっくりと見回す。
パッと見、何も無いみたいだが、ふと探索魔法の方に反応がある。
部屋に入って右側の壁、ジャックが探っている辺りに隠し扉がある様だ。
二畳位の狭い部屋が表示されていた。
慌てて部屋の隅や、壁の継ぎ目、天井なんかを確認してみるが、何処にも仕掛けらしいものは無い。
ダメ元で探索魔法の隠し部屋を【鑑定】してみると、ポンとウィンドウが浮かぶ。
隠し部屋
中には宝箱が一つ。魔物は居ない。
入り口の右手、地上から一メートル程の高さ
に開閉スイッチがあり、押し込む事で開く。
(MA⭐︎ZI⭐︎KA!)
見れちゃったよ……!
なんか攻略本読みながらゲームしてる気分だよ!
ちょっと【鑑定】さん良い仕事し過ぎじゃない?いきなりボイコットとかしないでね?
でもあんまり多用しないでおこう。
人としてなんかダメになりそうだし。
「ジャックのいる辺りの壁、なんか切れ目みたいなのが見える気がする。あと、こっちから見て入り口の左側に変な石がある様な?」
声が大きくなり過ぎない様に気を付けつつ、ジャックとヤンスさんに声を掛けた。
実際あると思って見てみると、確かになんかそこだけ変な気がする?ってぐらいの変化が見えるのが不思議だ。
それぞれがその場を探ると確かにあった。
隠し扉と、起動スイッチだ。
壁に埋もれてる様に見えるが、不自然に出っ張っている五百円玉位の石。
ヤンスさんが念の為罠チェックを行った上で、ボタンだと断定した。
ジャックの方は分かりやすく、よく見れば切れ目が入っている事がわかる。
ここで問題なのが宝箱か、隠し扉か問題だ。
どちらかを開いた時点でどちらかが消えてしまうかもしれない。
同時に開ければ防げるかもしれないが、下手すればどちらも無くなってしまいかねない。
そう言って皆でどちらから開けるべきか悩み出す。
──のだが、既存メンバー達から、チラリ、チラリと視線が飛んでくる。
わかりましたよ。
【鑑定】すれば良いんですね。
それぞれを、優先ギミック等がないか見たいと思いながら【鑑定】すれば、あら不思議、ウィンドウに『罠はありません。好きな方から開けるがよろし』(意訳)と書いてあるではないか。
「うーん、何も変な感じしないし、好きに開けちゃいましょうよ」
言外に優先ギミックとか無いよって伝えると、あからさまに皆が笑顔になる。
「じゃあ開けよう、なんかあったらキリトちゃんのせいだしね〜」等と鼻歌を歌いながらヤンスさんが宝箱まで歩いて行く。
それを見てデイジーが訝しんでいるのがわかる。
(だよな。そうなるよなー。そろそろ【鑑定】の事、伝えても良いんじゃないかな?)
俺も皆に付いていきながらぼんやりと考えていた。
鍵が掛かっていなかった宝箱には、なんと洗浄、浄化、回復の魔法書が三冊も入っていた。
魔法書とは、読んで字の如く、魔法の仕組みと発動の呪文が記された物だ。
現在では中々手に入らない途轍もなく高価な代物らしい。
エレオノーレさんが早口で、どわーっと話してくれたが、ざっくりまとめるとそんな感じ。
しかもこの中の一冊、回復の魔法書は、デイジーの使う神聖魔法とは違う、医学的な物で、色んな種族の全身の骨格や、血管の流れ、臓器の位置、筋肉等細かく載っていて、とても分厚い。
まんま医学書。
しかも、全種族分だから。
俺の拳を縦に二つ重ねたぐらいある。
正直言って、読む気がしないが、エレオノーレさんは「世紀の大発見よ!」と胸に抱いてくるくる回って踊っていた。
お次は隠し扉。
入り口のボタンをジャックが押すと、ゴゴン……と重い音がして、隠し扉が奥に開いていく。
敵を警戒して武器を手にしたまま、扉が開き切るのを待った。
幸いアラームの罠も仕掛けられておらず、隠し部屋の中も宝箱がポツンとあるだけで、肩透かしだった。
宝箱には罠も鍵も掛かっていなかった。
かぱりと開いたその中には薄ぺったい木の箱が入っていた。
サイズ的にはボックスティッシュを半分にスライスした感じだ。
「「「箱!」」」
オーランド、ヤンスさん、エレオノーレさんの三人がすぐに反応する。
ここでは箱=マジックアイテムだったから期待が高まるのも無理はない。
わくわくと開くと、そこには金属製の丸い台座みたいな物と、台座に嵌めるであろう赤色透明な丸い石が並んでいた。
台座はプラモデルのパーツの様に上下に噛み合わせてあり、中々細かい彫り込みがしてあった。
汎用簡易魔法剣製造アタッチメント
通常の剣を、簡易的に魔法剣にする為のマジ
ックアイテム。
剣の鍔を挟む様に取り付け、専用のカットを
施した魔法を込めた魔石を嵌めることで、封
じ込まれた魔法を剣に纏わせる事ができる。
サイズは魔力を通す事で調整できる。
魔石を交換する事で、様々な属性の魔法を使
用する事ができ、剣が壊れた時は付け替える
事も可能。
「は?!」
思わず声が出てしまった。
コレ、下手な魔法剣が出るより凄くね?
万一剣が壊れても、新しい剣にこれ取り付ければ良いし、魔力でサイズ変更可能だし……
「どうしたキリト?」
専用のカットを施した魔石って、多分隣にあるこの赤い石だよね?
赤い石は宝石みたいに煌めいている訳ではなく、どちらかというとプラスチックみたいで、片面が平たく、反対側がドームの様に盛り上がっている。
「おーい」
汎用簡易魔法シリーズ用魔石 赤(8/10)
汎用簡易魔法シリーズで使用出来る様に特別
なカットを施した魔石。
魔石の色によって封じ込められる属性が変わ
る。
この中に封じ込められているのは『火炎』
魔石に触れて発動ワードを唱える事で魔力の
ない者でも使用できる。
いやいやいやいや、おかしいでしょ?
なんか世界観、違くない?
何?汎用簡易魔法シリーズって。
なんかこう、魔法科学って感じじゃん?
ーーーゆさゆさゆさ
いや、何?今ちょっと忙しいんだって。
どう考えても、この魔石色違いとか中の魔法違いとか今後出てくるよね?
「おーい、キリトちゃん戻ってこーい!」
しかも名前見る感じ魔剣だけじゃないでしょ?
『シリーズ』って書いてあるし。
ーーーガツンッ
唐突に激痛が走り、目がチカチカする。
殴られた頭を押さえて「痛いな!」と振り向くと、皆がこちらを見ていた。
「あ」
いつも『俺不運』を読んでいただきありがとうございます。
ブックマークほんとに嬉しいです、ありがとうございます!
お宝回です。
次回はお宝の仕分けです。




