82 いざ、四階層
岩蠍が消え、ドロップ品を回収すると、ヤンスさんを筆頭に部屋の探索だ。
不用意に宝箱に触ってはならないそうだ。
下手に触ってしまうと、仕掛けが起動して、強制的にこの部屋を追い出される恐れがあるとの事。
なので、壁や床、天井など全体的に確認してから宝箱に取り掛かる。
念の為あちこち【鑑定】してみたが、特におかしな所は無かった。
地図用に部屋のサイズや、岩蠍についてメモをとる。
実際に出てきたドロップ品なんかも記入しておいた。
ここに来た時から気になっていた篝火は、特に変な事は無く“入室したら入り口から奥に向かって火が灯る”ギミックがあるだけで、特に触ったり、消したりする事で隠し扉が開いたり、魔物が湧いて襲いかかってきたりする事はなかった。
そしていよいよ宝箱だ!
わくわくしながら宝箱を先に【鑑定】で確認すると、なんと毒針の罠が仕掛けられていた。
それも、鍵を開けようとすると丁度刺さる位置に細い針がごく僅か出ている。
毒は、少量でも血が壊れるらしく、五分以内に血清を打つか、解毒の上位魔法を掛けないと死に至るらしい。
こんなん知ってないと回避できないでしょ。
ほーんとダンジョンって性格悪い!
ヤンスさんにそっと耳打ちをすれば、一つ頷いて、鮮やかに罠解除を行った。
毒に侵される事もなく、かちゃりと軽い音を立てて鍵が開く。
ヤンスさんが焦らす様にゆっくり蓋を開けると、中には箱が三つと小さな宝石が数粒入っていた。
宝石は透明度の高い小粒のルビーとサファイアで、深い海の様な青と、光のあたり加減で燃えている様に見える赤だ。
これは、今まで俺達が掘ってきた物よりかなり価値が高そうだ。
ヤンスさんがすごい顔してる。
宝石と一緒に入っていた箱を開けると、中には水薬と指輪と革手袋が入っていた。
【鑑定】で確認すれば、三つとも状態異常耐性のアイテムだ。
水薬が睡眠防止(弱)のポーションで、シンプルなデザインの指輪が麻痺防止(弱)、無骨な革手袋が毒耐性(弱)。
皆で顔を見合わせる。
「「出たな」」
「出たわね」
「「出ましたね」」
もう、これは確定でいいのではないだろうか?
とはいえ、ここは四階層だけのダンジョンだ。
念の為四階層まで探索してから、きっちり攻略してしまってから、ギルドに報告すると話し合って決めている。
無言で頷きあって、宝箱の中身を【アイテムボックス】に手早く放り込んで、先へと進む。
四階層に降りる階段はそこそこに長い。
降りている途中で、ふとこの世界にバフ、デバフの考えはあるのか気になった。
「ばふって何の事ですか?」
「バフていうのは「キリトちゃん?気配が探れねんだけど?」」
「「は、はい、すみませんでした……」」
デイジーにきょとんとした顔で聞き返されたので、説明しようとしたらヤンスさんにとても冷たい瞳で睨まれてしまった。
二人で大人しく謝って、詳しくは四階層にあるはずの安全地帯に入ってから、と囁きあう。
階段を降りた先は、真っ暗だった。
今までは、薄らと壁に生えた苔が反射して、トーチの魔法二つだけでもある程度の視界を確保出来ていたのだが、ここにはその苔も無く岩肌も黒い為、なんとか手元が見えて、足元はかなり不安、というレベルだ。
オーランド以外の皆が、自前のランタンに火を灯し始めるのを見て、俺も慌てて取り出そうとしたが、ジャックの大きな手がそれを止める。
「出さなくて、良い」
「え?」
止められた理由が良く分からなくて、掴まれている手と、ジャックの顔を何度も見比べた。
「キリトはマッピングの為に手を空けておきなさいって言ってるのよ」
自分の分のランタンをつけ終わったエレオノーレさんが言う。
アタッカーとマッパーは職務を全うする事が求められる行動で、それを他のメンバーがフォローするのが正しいパーティの動きなんだそうだ。
デイジーもジャックもその通りだと頷く。
「周辺の気配察知は必ずやるとして、足元や手元はデイジーが一緒に照らしてあげてね」
「はい、わかりました」
エレオノーレさんの言葉に素直に頷くデイジー。
トーチは維持したまま前後に大きく分けて、各自ランタンで足元を照らす。
暗い所為で、ただでさえマッピングで遅い進行スピードがより遅くなる。
たった二十歩がめちゃくちゃ遠いし、メモを書くのも暗くて見辛いし書き辛い。
それでも安全地帯を探して、端から手当たり次第に進んでいく。
「うわっ!」
闇の中から蝙蝠がすごいスピードで飛んできた。
音もしないし、気配もさっぱりわからない。
でも俺の探索魔法には表示される。
接近スピードと、ヤンスさんがギリ気配を捉えられるレベル、に当てはまった時は必ずソイツだ。
ソイツ自体の攻撃力はそこまで無い。
相手に気付かれない様に近づいて、一噛みするだけで牙の毒で動けなくなるので、仕留めてからゆっくり吸血すれば良いらしい。
ヤンスさんが指差して、オーランドが目視出来てしまえば怖くない。
ヒュンッと風切り音が鳴るとポトポトと落ちて消えていく。
後には飛膜や牙が残された。
バックアタックで何度かヤバかった時もあったけど、エレオノーレさんの回し蹴りで事なきを得た。
美しく伸ばされた脚は、長く、白く暗いダンジョンに浮かび上がった。
翻った裾がふわりと広がったが、麗しのふとももがチラリと見える程度でまた脚を隠してしまった。
戦闘中だというのに、あまりの吸引力に思わず呆けてしまったが、首にチリリとヤバい何かを感じた。
視線を向けると、恐ろしい光を目に宿した熊さんが静かに俺を見ていた。
見てません。
見てませんよ。
だから睨まないでジャック。
ぶるる。
いつも『俺不運』読んでくださってありがとうございます!
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