76 旅立ちの決意
「いたたまれない!」
ベッドに座って頭を抱えたオーランドが叫ぶ。
他のメンバーも似た様なうんざりした顔でグッタリしている。
勿論俺もだ。
「顔を合わせるたびにお礼言われまくったら背中が痒くなる。サッサと適当なクエスト受注して、ここから離れようぜ」
「そうね、拠点が出来上がるまで長期のクエストに出ても良いんじゃないかしら?」
ベッドに後ろ手をついて天井を見上げるヤンスさんは苦虫を噛んだ様な顔をしている。
同意するエレオノーレさんも髪を乱暴に指で漉きながら投げやりに言い放つ。
俺も全面的に同意するよ。
弛緩病特効薬が完成してから三日が経った。
奥さんは大分回復したらしく、先程お礼を受けてきた。
「この様な姿でごめんなさいね、まだ起き上がるのは少し難しくて……」
「いや、気にしなくていい。楽にしていてくれ」
細っそりとやつれた、それでも上品な老女がベッドの上で上半身を起こし開口一番謝罪する。
オーランドが心配そうな顔で応えた。
デイジーがクッションの微調整をして肩に使い込まれたショールを掛けている。
院長先生の奥さんは白に近いプラチナブロンドの髪を緩い三つ編みにして、肩にかけていた。
ハチミツの様な柔らかい黄金色の瞳が潤んでいて、若い頃はもの凄い美人だったんだろうと思える雰囲気だ。
勿論今はしわくちゃのおばあちゃんだけどな。
薬を飲んだ奥さんは順調に回復している様で、現在はリハビリ中らしい。
孤児院に来たばかりの頃は、会える状態ではない、と顔を見たこともなかったが、今回はどうしても顔を見てお礼が言いたいと請われて部屋を訪れた。
「この度は薬の素材集めに尽力してくださったと伺いました。本当にありがとうございます」
ぺたり、と擬音が付きそうなほどに深く頭を下げる奥さん。
萎えた手足はまだ思う様には動かないそうだが、それでもかなり改善したのだという。
「オレ達は自分達の拠点を探しに来たついでにちょっと手伝っただけだ。だから顔を上げてくれ」
「そうよ。デイジーが居なかったら受けもしなかったわ。貴女達が真に感謝すべきはデイジーよ」
オーランドが慌てて身体を起こさせると、エレオノーレさんがフォローする。
その言葉にデイジーは首を横に振って恐縮していた。
「それでもなにかお礼がしたい」と言い募る奥さんに、拠点が出来たら家の清掃とか畑の世話とかそのうち何かを頼むと言ってごまかし、なんとかその場を後にしたのだ。
更に、院長先生は顔を合わせる度にありがとう、ありがとうと涙を浮かべて御礼を言ってくるし、この調子が続くと流石に居心地が悪くてちょっと困ってしまう。
そうして俺達は逃げ込んだ部屋で皆んなして頭を抱えているのだった。
拠点も基礎工事は終わり、住居の施工に入っている。
完成は半年後だと言う。
長期クエストも検討したいと短期クエスト派のエレオノーレさんが言っている。
で、あれば。
ずっと気になっていた“アレ”を消化してしまいたい。
「あの、じゃあダンジョン行きませんか?」
俺は遠慮がちに手を挙げて提案した。
「幸いお金は充分にあるし“仕事じゃない冒険”をしてみませんか?」
本当にマジックアイテムが出るか検証したり、なんだったらダンジョン踏破してみたりとかやりたい。
「「「「「!」」」」」
皆んながハッとした表情でこちらを見る。
答えは聞かなくてもわかった。
第一章 終
というわけで、一章が終了となりました。
思っていたよりも孤児院パートが長くなって、私本人が驚いています。
予告していました通り少しお休みをいただいてから二章に入りたいと思います。
ここまで俺不運を読んでくださって本当にありがとうございます。
次章からも不運とトラブルとご飯とやらかしにちょっぴり恋のスパイスに不運なダンジョン編がスタートとなります。
デイジーとの絡みやご飯パートが少なくなってしまっていたのでダンジョンでは頑張りたいと思います。
バトルも苦手ながら避けては通れませんので、温かい目で見てあげて下さい。
それでは少しお休みをいただいて、第二章頑張りたいと思います。
これからもどうぞ宜しくお願い致します。




