表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/229

グリーンフライフォックスを追って


 ヤンス氏の寝相で起こされたあまり爽やかではない朝。

 頭に乗った踵を退かして、ぼんやりする。

 自分が何処に居て、何をしていてこんな所に居るのかしばらくわからなかった。

 順番に思い出して、そうか、ここは異世界だ、と思ったらなんでだか急に泣けてきた。

 声を殺して涙を堪える。

 でも我慢すればする程に涙は止まらず、喉は震えた。




「なぁ、そろそろ起きてもい〜いか?」

「ッ!」


 我慢の甲斐なく溢れる涙と嗚咽をどうにか抑えようと頑張っている俺の背中に声が掛けられた。

 向こうを向いて寝ていると思っていたヤンスさんだった。

 寝転がったままニヤニヤしながらこちらを見ている。

 あまりに驚きすぎて涙は引っ込んだものの赤っ恥だ。


「いやさ、寝たふりしてたんだけどさ〜、キリトちゃんが中々泣き止まないから〜。ヤンスお兄さんはそろそろ起きてお仕事したい訳ですよ〜」


 ムクリと起き上がって胡座に肘をつくヤンスさん。

 ひいいぃぃっ!

 良い歳して泣いてるの見られた上に待ってもらって、更に……うひぃー!

 頭も目もぐるぐるする。

 恥ずかしさが天元突破だよ!

 何か言わなければ、と口をぱくぱくさせるものの、う、とか、あ、とか、意味のない音が口から漏れるだけだった。


「もうちょい落ち着いたら顔洗って出てきたら良いさね」


 ポンッと頭に手を乗せて天幕から出ていくヤンスさん。

 こう、なんていうか揶揄いつつも、フォローする姿が、兄貴ー!って感じだ。

 男性陣の中では小柄なはずなのに背中が大きく見える。

 大きく深呼吸して、頬を叩く。

 パチン、なかなかに良い音がした。

 クヨクヨしてもしょうがない。

 気持ちを切り替えていこう。

 俺は天幕から出ると魔法で水を出して顔を洗った。


 朝食はすでに出来ていて、昨日のキノコ鍋に堅パンを割り入れた煎餅汁みたいなお粥だった。

 絶品だった事をここに記しておく。

 できる事が少ない中、洗い物を責任持ってやらせていただいている間に、天幕やらなんやらをみんなが片付ける。

 皿洗いは『汚れが完璧に落ちる水球』をイメージして潜らせるだけの簡単なお仕事です。

 火の始末をしたらグリーンフライフォックス狩りに出発だ。


 この広場から少し山に入った所にある草原によく出現するそうだ。

 名前の通り緑色の毛が草原に紛れて見つけにくい上に素早く、フライとつく通り風魔法を使って宙を駆ける事もある。

 空を飛ぶ訳ではなく、空中に足場を作る魔法を使っているらしいが、詳しい所はわからないそうだ。

 かなり警戒心が強く、見つけたからといって、すぐに倒す訳にもいかない。

 毛皮を取らねばならないので、頭や首を狙うしかないのだ。

 そうすると自ずと攻撃は限られる。

 魔法で首を刈るか、弓で頭を射抜くか、そうでなければ近づいて首を刎ねるか。

 物騒極まりない。


 そうなると両手剣やアックスを使用するオーランドとジャックは不利だ。

 身長の高さを利用してどこかに潜んでいるグリーンフライフォックスを探し、エレオノーレさんとヤンスさんにハンドサインで知らせることしか出来ない。


 ちょっと『飛竜の庇護』にはメンバースキル的に合わないお仕事なんじゃないの?って聞くと馴染みの防具屋さんが、お貴族様に無理難題をふっかけられたのを助ける為らしい。

 お貴族様に「無理だ」と答えられたら良いけれど、それこそ無理で、言った瞬間首が飛ぶそうだ。

 くわばらくわばら。

 そしてギリギリなめしとか縫製とかが間に合う様に算出された採取期間が一週間だったとのこと。

 そういうわけで姿がよく見られるこの平原まで狩りに来ていたらしい。

 つまりはお人好しって事?

 流石オーランドのパーティだね。


 談笑しつつも辺りを警戒していたらしきオーランドがピクリと眉を動かす。

 パパパッとハンドサインを出してグリーンフライフォックスがいる方向に指を二本向けた。

 俺もそちらを見るものの、どんなに見回しても見つけられない。

 瞬間、空気を割く音がしたと思ったらケーンと高い声がした。

 エレオノーレさんがサクサクと草を踏み締めて歩いて行き、屈む。

 その手にはしっかりとグリーンフライフォックスが握られていた。


 その手のグリーンフライフォックスを注視すると【鑑定】が起動する。


 グリーンフライフォックス(二歳)の死骸

  毒キノコや、毒ネズミを好んで食べ、魔力を

  使い毒を中和する事で強い魔力を保有する。

  その為肉には毒が回っており食用には向かな

  い。

  その毛皮は柔らかく保温性に優れており、魔

  力を帯びている為、防寒具、魔術具作成の媒

  介に最適。牙も鏃に使用することが出来、痺

  れ、麻痺などの効果が見込める。年齢が高け

  れば高い程効果は高い。

  群れで生活する。日中は個々で狩りに出て、

  夕方巣に戻る。

  死因は目に刺さった弓矢。毛皮を取るには最

  良の状態。


 キタコレ!

 これは日中よりも夕方に(あと)をつけた方が効率良いじゃん!

 早速オーランドに説明して皆を招集。

 習性を説明して、夕方から後をつける事になった。

 毒キノコを好む、とあったのでいくつか採取して、置いておいてもいいかもしれない。

 その辺りを見張っておけば簡単に後をつけられそうだ。


 そうと決まれば、みんなで毒キノコ狩りだ。

 ついでに自分達の分のキノコや山菜、野鳥なども採取する。

 くれぐれも毒キノコを混ぜない様に気をつける。

 ヤンスさんと、エレオノーレさんは急にびっと矢を射ったかと思えばその度に野鳥を拾ってくる。

 どちらも首や羽根を射られていて一発必中って感じだった。

 オーランドの採取したキノコは安定のごちゃ混ぜで俺の【鑑定】さんが火を吹いた。


 そして夕方。


「来たぞ」


 いくつか毒キノコを盛っていた所に一匹のグリーンフライフォックスが現れた。

 ヒスヒスと匂いを嗅いでパクリと咥える。

 食べるのかと思いきや二、三個まとめて器用に咥えるとそのままトットットッと軽い足取りで移動し始めた。


 ここから先は俺とジャックは留守番だ。

 俺は気配を消せないし、ジャックは大き過ぎて目立ちすぎる。

 三人と頷き合って別れたら、広場に戻って天幕の設営と晩飯の作成だ。

 ジャックに教わりながら天幕を設営する。

 一度建てた天幕はヘニャヘニャで、比喩ではなくジャックの鼻息で倒壊した。

 改めてポイントポイントを注意されながら組み立てると、なんとか先程よりはマシには出来上がった。

 「要、練習」と言われながら建て直されたけどな。

 あのままだと寝ている時に倒壊して怪我する事もあるのだと言う。

 練習が出来るうちにしっかり覚えねば。

 きっちり縛るのが難しいんだよなぁ……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] そんな泣けるようなことか? 向こうで呪いにかかってなくて、恋人や沢山の友人、 家族、明るい会社の同僚なんかに囲まれた幸せな生活を送っていたならともかく、 そういった描写が一切なかったの…
[良い点] ここまで読んだ感じでは、作者さんは相当な分量の他作品を読んでますね。テンプレを使いながらもうまくアレンジして自分オリジナルのものに仕上げていて、文体も丁寧で文章の区切りもリズムが整っていて…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ