73 ベーラツィアン
あっという間に時は過ぎ、とうとう明後日は満月。
拠点の建設は順調で、基礎工事に入った。
途中、うっかり解除し忘れた押し固めた土に騒ぎになったりもしたけれど、順調である。
誰がなんと言おうが、順 調 で あ る。
明後日は満月なので、薬の材料の最後の一つである満月の夜に溜まる花の蜜を採りに行く。
行くのは前回向かった山とはまた別の山だ。
前回より結構遠く、丸二日掛けてなんとか目的地に着いた。
毎日の走り込みのおかげで、へばる事なく辿り着いたと心の日記帳に書き添えておく。
川縁の日当たりの良い場所に咲くとの事なので、山裾の川から、それに沿って山を登っていく。
滝ほどではないものの、段差になっている場所は、足場になる石や岩に苔が生えていて、水が掛かってよく滑る。
「滑りやすいから足元気をつけろよー?」
「うわっ!」
先頭を行くヤンスさんが声を掛けてきたタイミングでずるりと足が滑った。
後ろに居たジャックが支えてくれたおかげで転びはしなかったが、とても恥ずかしい。
「やると思った!」
「プククッ、やめてくれ、腹が痛ぇっ……」
「ウフフフフフッ」
ヤンスさんが指を指して笑い、オーランドは腹を抱えて笑う。
エレオノーレさんも涙を浮かべて笑っている。
いいよいいよ、笑いたきゃ笑えよ。
俺にはデイジーとジャックが居てくれるんだ!
そう思ってデイジーを見ると、申し訳無さそうな顔で「実は、わたしもちょっとだけ……ふふっ」と笑っていた。
デイジー、お前もか……っ!
あまりの衝撃に膝を突きたくなる。
期待を込めて振り返るとジャックも熊耳をペタンと倒してポツリと言った。
「……同じく」
なんとパーティの良心ジャックまでっ!
まあ、予測してないとあのスピードでキャッチはできないよな。
とはいえなんとも消化しづらい感情が渦を巻く。
良いよ良いよ、どうせ俺はツイてないんだ。
それからは、いつも以上に足元に気を使いながら進んだが、結局六回も転んでしまった。
途中、迂回しないと登れないくらいの崖があり、花はその上に群生していた。
ベーラツィアン
薬草として使用される薄い金色の花。
月の光を吸収して育ち、満月の夜に咲く。
その袋状になっている部分にティースプー
ン一杯程の蜜が溜まっている。
月の魔力を豊富に含むその蜜は調薬に使用し
ても、錬金に使用しても効力を発する。
そのまま食べても滋養強壮に良く、怪我や病
気の回復に効く。
今はまだ蕾で固く閉じているが、開くと竜胆を一回り大きくした様な花になるらしい。
茎の節々にぐるりと取り巻く様に葉っぱと蕾が連なっている。
花が開くと釣鐘をひっくり返した様な形になる。
その袋状になっている部分に蜜が溜まっているので、花粉が入らない様にハサミやナイフ、針などで穴を開け、少し傾けて蜜を集めるのだそう。
一つ一つは少なくとも、一本の茎に二十個近く花が付いているので、一本でもそこそこの量になる。
今回必要な量は大体二本分。
三本分有れば安心だろう。
まぁ、二、三本残して採れるだけ採ってしまおう、ということになっているけど。
魔物が現れることもなく、無事夜になり、月明かりに照らされながら花が開いてゆく。
ふっくらと丸い花弁にナイフを入れて皆で丁寧に蜜を集める。
デイジーは簡易拠点で、集まった蜜を端から処理していた。
濾紙を敷いた漏斗を使い、濾過しながら小瓶に詰め込んで、蓋をする。
蓋が開かない様に布で八の字を描く様に巻き付けて、紐でしっかりと締め上げて結んだら【アイテムボックス】に入れて終了だ。
朝を待って孤児院に帰る。
これで、材料は無事確保できた。
あとは調薬だけだ。
いつも俺不運読んでくださってありがとうございます。
ちょっと悲しい事が重なって心が折れ気味です。
霧斗は良くこんな状態で元気に過ごせているな、と思います。
ブックマーク、評価⭐︎ありがとうございます。
とても励みになります。
頑張ってメンタル立て直しますのでこれからも霧斗達をよろしくお願いします。




