71 俺、頑張った
ヤンスさんが連れてきたその人は、ずんぐりむっくりした髭もじゃのお爺さんだった。
「はいっこちらは帝都で一番の建築家のドゥーリンさんです。拍手!」
「金に糸目を付けず自由な発想で面白いもんを作っとるっちゅうから来てやったゾイ」
言われるままに拍手をしながら迎える。
案の定と言うか何というか、やってきたのはドワーフだった。
百五十センチ程のがっしりした体格で、モジャモジャの髭、バイキングの様な両サイドにツノの生えたヘルムを被っている。
「独学なので判り辛いかとは思いますが……」
「むほほ、なんじゃこりゃ!何とも奇怪な!じゃが面白い!」
説明の為にイメージ資料を見せると、ガッツリ食い付いてきた。
舐める様に図面を見て、ここは何だ?この表記は?これは何だ?と質問責めにあった。
皆の希望リストと、図面と、完成イメージ図を見せつつ説明すると職人にありがちな頭っからの否定は無く、まるで新しいおもちゃを目の前にした子供のような目で説明を聞いていくドゥーリンさん。
建築の勉強をしているわけではないので、構造上無理がある箇所や水回り、魔術具で改善出来る箇所、などの軽い修正を掛けて、大体の料金の概算や建築費、期間など算出してもらった。
「変わったデザインじゃから、若いのの勉強に使わせてくれるっちゅうんなら安くしてやるゾイ」
ドゥーリンさんはそう言って、目をギラギラさせながら設計図を引いている。
流石本職といった感じで、迷いのない手の動きで、みるみるうちに仕上がっていった。
メインの居住区は増えたメンバーや、協働するパーティを収容できる様にかなり大きくなってしまった。
というか、デザイン的にコレは横に大きくしなくては美しくない、とドゥーリンさんがガッツリ大きくしてしまった。
厩は正門から直接向かって行ける様に建物全体をぐるりと道を作り、二重の生垣とレンガ道が敷地いっぱいを囲んでいる。
どうせなら、と各建物も全てレンガ道で繋ぎ、L字の店舗予定の建物と住居は小上がりの通路で繋いだ。
渡り廊下だ。
他にも訓練場へ行く道や、畑予定地なんかにもレンガ道が続いている。
意外と難航したのが渡り廊下の屋根だ。
「適当にお任せします」と言ったら烈火の如くお怒りになり、二十種類くらいデザイン案を描かされた。
色んな国の屋根のデザインを思い出しながらアレコレ描いていったら、中華風のデザインをいたく気に入られ、買い取らせてくれ、と金貨を押し付けられたりもした。
ウチのデザインには合わないから使わないが、何処かで使用したいのだろう。
翌朝他のメンバー達に設計図と完成図を見せながら説明する。
皆の希望が詰まっている最高の仕上がりになった。
五人とも目がキラキラと輝いていた。
俺の目は虚だったとだけ添えておこう。
施工費は材料費込みで、かなり割引いて小金貨二十枚となった。
約二千万円とか異常な値段に思えるかもしれないけど、人件費とか材料費だとかそこから賄うのでおかしくない。
いや、普通に日本で家建てたらこんくらいするか?
本来はこの規模ならこの三倍くらいするらしいよ。
俺が頑張って設計図を引いていた事と、珍しい建設様式だった事、切り拓いた木材を材料に使用する事、“若いの”達の勉強にする為人件費が大幅に減らせる事など割引に有利な点が多かったからだ。
細かい金額は出来上がってから追加で請求が来るそうだ。
ロヤマル金貨での支払いもオッケーとの事でそちらで一括お支払いさせて頂く。
ハンターギルドから振込申請すると生産ギルドを通してドゥーリンさんの手元に届くそうだ。
詳しい契約はヤンスさんが担当してくれたけれど、この後土地の使用許可や、所有証明、開拓証明、他諸々なんかがギルドに提出しなくてはいけないらしい。
聞いただけで面倒臭くてやりたくない。
この辺はオーランドがやってくれる(やらされる?)らしい。
ありがたや、ありがたや。
ドゥーリンさんは俺と二人で夜を徹して描き上げた設計図とデザイン画、細かい箇所の指示書の様なものまで全て丸ごと全部持って帰ってしまった。
大変良い笑顔だった。
俺はとにかく寝たい。
頭がクラクラするし、雲の上を歩いてるみたいにふわふわと覚束ない。
うう、朝日が目に滲みるよぅ……。




