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69 孤児院の日常

 さて、もう一つの素材は満月に採取する必要がある為、それまでは孤児院の仕事や拠点予定地の準備に、トレーニングなどをしながら過ごす。


 朝起きてベッドメイキングして、身だしなみを整えたらハンター希望の子供達と孤児院の外周をランニングする。

 息が上がってしっかり汗をかくくらいまで走ったら、ヤンスさんに習ったナイフの素振りをする。

 順手での突きと斬り下ろしに横なぎ、逆手に持っての切り上げと横なぎ。

 一つ一つの型をなぞる様にして振っていく。


 はじめはナイフをキープして構える事も出来なかった。

 意外と刃物って重いんだよ。


 あと、自分の腕も重い。

 信じられない人は、鏡の前などで両肘を畳んで肩の高さまで上げてみてほしい。

 その状態で十五分キープ出来るだろうか?

 気がつくと肘の位置が下がってきていないか?

 俺は十分持たなかった。


 その状態で、そこそこ重量のあるナイフをブレさせずに持つというのは無謀だった。

 最初の三日は何も持たずに腕をキープするトレーニングから始めたよ。

 子供達からはそれは盛大に不満が出た。


「お前達チビどもはキリトのついでだからな?嫌ならやらなくても良いぞ。その代わりその先は教えてやんねーから」


 ヤンスさんがそう冷たく言い放つと悔しそうにしながらも、大人しくなった。

 少しでも肘が下がると、ヤンスさんが良くしなる細い木の枝でピシピシ腕を叩いてくるから、俺も子供達も一日で腕が真っ赤になってしまった。

 その日の風呂はアホみたいに滲みた。


 それから考えると俺、成長した。


 ナイフの素振りが終わったら今度は杖術の練習だ。

 重心の位置が変わるだけで攻撃力や、取り回しが変わってしまうので、オリハルコンの杖を使って行う。

 オーランドに教えられた構え、突き、はらい、殴打、受けを確認しながら丁寧に行う。

 上段、中段、下段と動かしながら、ひとつひとつ動きの意味を意識しながらゆっくり動かしていく。


 スピードを出すのはまだまだ先らしい。

 今は「型」を憶えて、無意識で動ける様になるまで反復練習の時期だそうだ。


 ちなみに子供達の大半は木剣で素振りをしている。

 エレオノーレさんに弓を習っている子もいる。

 ロルフは斥候職希望な様で、ヤンスさんから個別で罠解除などを教えてもらっていた。

 “俺のついで”の割には全然違う内容を丁寧に教える優しい仲間達に胸が熱くなる。

 よし、今日も頑張ろう。


 終わったら水球とクリーン魔法で汗を流して、朝食を摂り、孤児院の掃除を手伝う。

 それが終わったら小さい子供達は勉強、料理当番以外の大きな子達は街のお手伝い、バイトに行く。

 本当にお小遣いレベルだが、ここで稼いだお金の半分は自分の物、半分は孤児院に入れて個人個人でお金を貯めていくらしい。

 最近は他の小さな子達や自分達の食費の為に全てを孤児院に入れている子達ばかりだったらしいが、これからはちゃんと貯められる様になるだろう。


 初めのうちは貯金を我慢できずに買い食いをしたりする子もいるらしいが、成長していくうちに“卒業”が見えて真剣に貯め始めるそうだ。

 街の人達も“卒業”前の子にはほんの少しだけ色を付けてお給料を出してくれることもあるらしい。


 俺は、日々の隙間時間に、皆が出す要望を取り入れた建物のデザインや設計図のイメージを描いていく。

 とは言ってもちゃんと学んだわけじゃないからニュアンスだけだ。

 アニメの設定資料集とかにある感じ。

 俯瞰図に見取図もどき、細かい場所はイメージイラストで注釈を入れる。


 モデルは昔、家族旅行で行った長崎のグラバー園だ。

 まぁ、色々いじっていったらほぼ別物になっちゃったけどね。


 まずはL字型の平屋。

 軒先を広く作って、柱で補強する。

 窓を大きめに取り、室内に光を多く取り込む様にした。

 渡り廊下で繋がった三階建ての居住スペース。

 三階が女性フロア、二階が男性フロア、一階がリビングやキッチンなどの共同生活空間だ。


 お風呂も男女別に作ったよ。

 一人でゆったり入れるユニットバスタイプと、大浴場をそれぞれ男湯・女湯に。

 俺の趣味で露天風呂も二階に作りました。

 半露天だけどね。

 湯船の上に屋根を掛けて、ベランダ部分には観葉植物とか、玉砂利とかを置いて中庭っぽくしてみた。


「そのお風呂は素敵ね!女湯には、姿見ってやつと鏡台もよろしくね?あと、魔法の研究室とかあると嬉しいわぁ」

「かしこまりました……」


 横から覗き込んだエレオノーレさんが注文を付けていく。

 前屈みで髪を耳に掛けながら悪戯っぽい笑顔は反則ですよエレオノーレさん……っ!

 俺は、描きかけていた地下の図面に、広さや必要な家具などを確認しながら研究室を追加する。


 その他に、デイジーの調合室、オーランド熱望の武器保管庫、ヤンスさんがどうしてもというので、念の為の牢屋を入れた。


 平屋の方は店舗にする予定だ。

 不定期になるけれど、素材屋さんを開けたらな、と思っている。

 孤児院の卒業生を一人二人雇って店番してもらってもいいかもしれない。


 ガリガリとA3くらいのサイズの紙に何枚も何枚も描いていく。

 描いている端からあーしろこーしろと口を出されて何度も描き直しをした。

 大きな紙と長い定規、コンパスや鉛筆を何度も買いに行った為、店のおっさんに顔を覚えられてしまったよ。



 いつも俺不運読んでくださってありがとうございます!

 いいね、ブックマーク、評価とても嬉しいです。


 誤字報告もめちゃくちゃ助かります。

 報告してくださった方本当にありがとうございました。

 なんで何度見直しても誤字は無くならないのか…

 自分が嫌になりますね。


 誤)ガリバー園→ 正)グラバー園


 やらかしました。

 恥ずかしいっ!

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― 新着の感想 ―
[良い点] うっかりなとこも結構あって仲間によく怒られてるけども充実した異世界生活をおくれていて良かった良かった♪ [気になる点] 拠点づくりで色々な要望が出てきて主人公は清潔好きな日本人だからお風呂…
[良い点] 面白い [気になる点] 本当に細かい所で申し訳ないんですが、長崎のはガリバー園じゃなくてグラバー園もしくはグラバー邸ではないでしょうか? [一言] 最後まで更新楽しみに待ってます(^^)
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