67 孤児院クエスト 一つ目の採取と納品
夕方から交代で休みを取り、明かりが花に当たらない様に注意を払いながら収穫のタイミングを待つ。
伸ばした指先もあやふやな闇の中、蛍の光の様にふわっふわっと薬草が光り始める。
鈴蘭の花の様に咲いていた小さな花弁が一枚、また一枚と散っていき百円玉位のリンゴの様な実がなった。
ひときわ眩しく輝くとまた蛍の様に点滅を始めた。
「成熟しました。急いで収穫してください。根ごと引き抜いて実に触らない様にお願いします」
デイジーの言葉に従い皆で引き抜いていく。泥は水球で丁寧に落とし、【アイテムボックス】に保管する。
実と葉をしっかり陽に当てて乾燥させなくてはならないので、今吊るさなくても問題無い。
収穫を終えると一休みして、明るくなったら簡易拠点を回収して山を降りる。
花を探しながら登った時とは違い、真っ直ぐに降るだけなので楽だと思っていたが、そうはいかなかった。
慣れない急勾配にひざがガクガク震える。
気を抜くと転がり落ちてしまいそうだ。
「気合いですよキリトさん!足を着く時にグッと気合いを入れて立つんです」
「お、おっけー……気合い、ね?」
コレは筋肉痛ルート一直線だな。
多少マシになったとはいえまだまだガクンガクン震える膝に、明日の痛みを覚悟した。
無事孤児院に到着した俺は、ひっくり返って大の字になった。
肺が酸素を求めて変な音を鳴らしている。
「ひゅー……ぜっ、はひゅーっ」
「相変わらず体力無いなー」
笑いながらオーランドが水を持ってきてくれた。
体を起こすのを手伝ってコップを口に押し当てる。
その動きがあまりに手慣れていた。
「ほーら水飲めー」
「ごくっごっごっ……ぷはっ!ありがとう生き返った〜」
山登りは探しながら休憩を挟んでゆっくり登ったから大丈夫だったのか、そこで体力を使い果たしてしまっていたのか判らないが、山を下って休憩無しで孤児院に着く頃には限界を通り越していた。
杖に縋りつきながら、足を引き摺り、門を通ったところで膝をついたら動けなくなったのだ。
エーミールさん達との移動はずっと馬車だったし、折角少し付いた体力も落ちてしまっているのかもしれない。
孤児院にいる間くらいは朝晩ちゃんと走り込みをしよう。
「さて、花……じゃなくて、薬草出してもらって良いか?」
「おっけー」
まだ息は整わないが、自力で座れる程度には回復したのを確認して、オーランドが手を伸ばす。
【アイテムボックス】から取り出した薬草の束を渡すと、そのまま建物の中に運んで行った。
多分院長先生に確認してもらうのだろう。
飛び出してきた院長先生に全力でお礼を言われたり、へばった姿に怪我を心配されたりした。
大変申し訳ないけど只の体力不足です。
回収した株をしっかり陽に当てて乾燥させる。
完璧に乾燥すると勝手に実が外れるのだそう。
デイジーは子供達が悪戯をしない様に、“おかあさん”(院長夫人)の病気を治す為のお薬の材料だと言い聞かせている。
真剣な表情で頷く子供達に、院長夫妻がどれだけ愛を掛けて育てているか良くわかる。
もう一つの花の蜜は満月なのでそれまではまた開拓と勉強の日々だ。
朝晩のランニングも忘れてはいけないな。
ま、今は回復に専念しなくては。
「で、キリトそろそろ“ぷりん”作れそうか?」
「へ?」
いつも俺不運読んでくださってありがとうございます。
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次回はプリンを作るだけの回です。




