66 クマさんが好きなあまーいあれ
さて、せっかくお高い甘味が目の前にあるのだ。
誰に遠慮があろうものか。
ナイフで傷を付けて、美味しい樹液をたっぷり採取する。
「キリトちゃん何してるのさ?」
この木の樹液を精製すると蜜になる事を説明すると、ヤンスさんよりも近くに居たエレオノーレさんとデイジーの方が食いついた。
甘味は金になる、と他のメンバーも集まってきた。
「採れるだけ採るわよ!」
「分かりました!」
「「「おう!」」」
「……」
皆の目の色が変わっていて少し怖い。
あちこちに傷を付けて人海戦術で樹液を採った。
記憶では樹液は滲み出る物だと思っていたが、異世界だからなのか、種類のせいなのか、切り付けると、すぐにとぷとぷ溢れてきた。
採取が終わるとまた設営に戻るが、ふと振り返るとボロボロのゾンマーホルンが悲しげに風に揺れていた。
その木肌は傷だらけで、あまりにも可哀想なので、元に戻る様にヒールを掛けておいた。
それを見たオーランドからは「ヒールの無駄打ちだ」と叱られた。
「でもさ、ゾンマーホルンは無駄に切り付けられて、樹液を抜き取られて、傷の手当てもしてもらえずに放置されたら枯れじゃうよ。そんなの可哀想だろう?」
「やめてくれ!蜜が食べ難くなる!」
耳を塞いで上げたオーランドの悲鳴に、女性陣が大いに頷いて、安易に擬人化して説明しない様に重ねて叱られてしまった。
理不尽だ。
「メープルシロップ何に使おうかなぁ」
「めーぷ、るし……?何のことですか?」
拠点周りの草を刈っていると、考えが口からこぼれ落ちていた様だ。
今度はちゃんと作業用手袋を着けている。
もう二度とあんな苦痛は味わいたくない。
枝を拾っていたデイジーが小首を傾げてこちらを見ていた。
「さっき採取した樹液を煮詰めて作ったシロップの事だよ。ハチミツくらい甘くなるからお菓子でも作れそうなんだよね」
「甘いお菓子ですか?!」
おおう、思ったより熱量がすごいな……。
顔が近い。
俺はデイジーが落とした枝を拾うふりをしながら少し距離をとる。
(可愛い顔が近いと落ち着かない……っ)
ドキドキと早鐘を打つ心臓を宥めながら、メープルシロップを使ったお菓子を考える。
「ホットケーキにクッキーだろ?あと電子レンジプリンとかなら俺でも作れるけどレンジなんかないしなぁ……蒸し器なんて使えないしどうしようか?」
「蒸し器なら孤児院にありますよ!蒸すだけならわたしがやりますから、是非『ぷりん』作って下さい!」
「私も食べたいわ!」
「オレもオレも!」
「食べたい」
「勿論ヤンスお兄さんの分も作ってくれるよな?」
デイジーが普段見せない積極性を出してきたと思ったら、どこで聞いていたのか、他のメンバーもわらわらと寄ってきた。
「シロップ作る所からなんで、失敗しても怒んないでくださいよ?」
「「「りょうかーい」」」
良い返事をして皆散らばっていった。
この後は草刈り鎌でちょっと指を切った事以外、問題なく夜は更けていった。
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