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65 熊さん襲来

 虫刺され事件から程なく、無事、花が見つかった。

 山頂付近の崖の上、大きな木の手前に群生していた。


 アプフェルレックヒェン

  薬草の一種。月の光を浴びて育つ。

  新月の夜に実る実を干して粉末にして使用す

  る事で、筋肉に作用する薬の材料になる。

  筋肉増強剤、筋疲労、加齢による筋肉の衰え

  等の防止にも使用される。

  実って三時間の間に土から離さないと枯れ落

  ちて種になってしまう。

  葉は内臓の働きを助ける。葉の方は実をつけ

  ていなくても通年使用できる。

  乾燥させ、薬草茶の様にして服用する。


 名前も院長先生に聞いていた通りだ。

 大きな木は北側に生えているから日陰になる事もなく、崖下から噴き上げる風を防いでいた。

 あまり群生することはないと聞いていたけど、此処はよっぽど条件が良かったらしい。

 後は夜になるのを待つだけだ。


 防水布を敷いて、その上に街で見つけたざっくり織られた布を重ねる。

 太めの糸(凧糸をより太くした感じだ)で織られているので、重量感があり肌に張り付かない。

 大分暑くなってきている今の季節には便利だ。


 ジャックとオーランドが切り出してきた棒を四隅に立て、綾織の薄布を張る。

 エレオノーレさんとデイジーは拾った石で簡易竈門を作っている。


 これで簡易的な拠点の完成だ。


「やばいぞっブラウンワイルドベアがすげぇ勢いでこっちに向かってるっ!全員構えろ!」


 木の上から周囲の地形や魔物、狩りの獲物などを確認していたヤンスさんが叫びながら飛び降りてくる。

 森の方からガサガサと草の揺れる音と、ドトッドトッと重い駆足の音が聞こえる。

 最悪な方向からの襲撃だ。

 前衛から一番遠く、女性陣に一番近い。


「エレオノーレ!デイジーを庇いながら後ろに下がれ!野郎どもは前に出て二人を守れ!」

「わかったわ!」

「「「了解!」」」


 指示を出しながら既に走り出しているオーランドに反射的に返事をする。

 一番二人に近い場所に居たのは俺だ。

 杖を取り出しながら二人の下に向かう。


 女性二人とすれ違う様に入れ替わると、自分の前に氷の壁を作る。

 本当は岩壁とかの方が丈夫なんだけど、視認性の為防御力は最小限だ。

 オーランドが来てくれるまで保てばいい。


ーーードォンっ!


 氷の壁にブラウンワイルドベアがぶつかった。

 立ち上がると三メートル以上もあり、横幅も厚みもジャックの倍は大きく、針金の様な太い茶色の体毛が大きく逆立っている。

 ぶっとい手足には黒々とした太い爪が並び、毛皮の上からでもわかる筋肉の盛り上がり。


 ギリギリ、正に紙一重だった。

 ちょっとチビったかもしれない。

 壁には放射状に大きくヒビが入っている。

 次は防げないだろう。

 でも、それでいい。


「キリト良くやった!お前も下がれ、花を守ってくれ」


 間に合った。

 オーランドが前に出て構える。

 一つ頷いてバックステップで下がると、ジャックとすれ違う。


「ジャック気をつけてっ!」

「おう!」


 普段の優しいクマさんなジャックからは想像できないくらいにドスの利いた返事が返ってくる。

 機敏な動きでオーランドの邪魔にならない位置に立つと、バトルアックスを構える。


 後衛位置に逃げられた俺は、探索魔法を起動し、花を背にエレオノーレさんの隣に立つ。

 ガシャアァァンッ、氷の破れる音が響いた。


「よっしゃ来いよ熊公!」

「ぐがああぁぁぁぁぅっ!」


 オーランドの声に応える様に吼えると、ブラウンワイルドベアは一直線に()()()に向かって来る。


「なんでえぇぇっ!?」


 そこはオーランドに行くとこだろおおおおっ!?

 涙目でエレオノーレさん達の前に出ると、今度は丈夫さ重視の石の壁を築く。


ーーーどおおぉんっ


 再び壁にぶつかり、ドサリとブラウンワイルドベアが倒れる音がする。

 すかさず、壁の左右から回り込んでエレオノーレさんとヤンスさんが矢を放った。


「があぁぁぁっ!!」


 倒れたブラウンワイルドベアの両目を二人の矢が貫いたが、すぐに起き上がり、エレオノーレさんに向かって走り出した。


「おいおい、無視とはつれねーな!」

「ふんっ!」


 しかし、すぐに追いついたオーランドの剣が背中を切って動きを止める。

 仰け反るブラウンワイルドベアの左肩に、ジャックの斧が叩き込まれた。


 悲痛な咆哮と共に、ドチャリと濡れた重たい物が落ちる音がする。


「ぐごるるるぉ……っ!ぐぶっガァッ!」


ーーーガリガリガリガリ


 地に伏してもまだ死んだわけでは無い様で、己の血で喉を鳴らしながら地面を掻いている音が聞こえる。


「エリーに手を出そうとしたお前が悪い」


 ジャックが一言呟くと、バトルアックスを振り下ろした。

 それきりワイルドブラウンベアの立てる音は聞こえなくなった。

 ……なんとか倒せた様だ。


 石の壁を解除してしまうと、切り離された首と、肩の付け根から鳩尾あたりまでざっくりと斧が食い込んだ跡がバッチリ見えてしまった。

 うう、グロい……。


 ジャックは気にする事なく、地面から斧を引き抜いた。

 首があった場所から血がどぱりと溢れ出て、あたりを赤く染める。


「っぅひ……っ」


 喉の奥から引き攣れた声が漏れてしまった。

 苦いものが湧きあがってくるのを気合いで抑え込む。


 とにかくあの赤い液体をどうにかしてしまえば大分マシになるだろう。

 視線を向けない様にしながらクリーン魔法で血を消し去る。


「慣れるしかねぇから頑張れ」

「ーーっ」


 ヤンスさんに肩を叩かれた。

 その思いがけない優しさにポロリと涙が転げていく。

 そのまま泣いてしまいたい気持ちをグッと堪えて、両頬を叩いて活を入れた。


 エレオノーレさんとヤンスさんは、あたりを警戒しながらブラウンワイルドベアの目から矢を引き抜いて、汚れを落とすと、緩みや破損がないかチェックを始める。

 オーランドとジャックも武器に付いた血糊を処理している。


 手の空いた俺とデイジーは、警戒と共に花に被害が出ていないか確認した。


「数本倒れてしまいましたけれど、無事で良かったです」

「そうだね本当に良かった」


 花を確認したデイジーがホッと胸を撫で下ろす。

 移動や風圧で数本茎がポッキリ逝ってしまっている。

 残った花だけでも必要な数は確保できるが、多すぎて困ることは無い。

 俺は思いついた事を試してみる事にした。


「ちょっと上手くいくかどうかわかんないけど、実験。ヒール」


 俺は未だ震える手で、折れた花の回復を祈ってヒールを掛ける。

 逆再生の様に花が元に戻っていくのはとても興味深いものだった。


「また、そういう事して……」


 デイジーに白い目で見られてしまったが、花は回復したので良しとする。


 その後、確認の為ブラウンワイルドベアを鑑定したら「“ゾンマーホルン”をナワバリの核としており、他の生き物が近付くのを激しく嫌う」とあった。

 もしや、と崖の縁に生えている木を鑑定すれば“ゾンマーホルン”と出た。


(やっぱりー)


 ゾンマーホルンは夏楓とも言われる、蜜の取れる樹木だ。

 楓の様に、木の幹に傷を入れると甘い香りの樹液が採れる。

 楓は冬しか取れないけれど、この木は今が旬。

 栄養満点で魔力をたっぷりと含んでいて、甘くて美味いらしい。


 熊さんから見れば、大切な宝物の木に人間(俺達)が群がっている様に見えたのだろう。

 ご馳走を守るために頑張った熊さんは、運悪くご臨終。

 ご冥福をお祈りします。

 毛皮や胆に高値が付くそうなので、ここで解体せずに丸ごと【アイテムボックス】に収納した。

 いつも俺不運を読んでくださってありがとうございます。


 相変わらずバトル表現が苦手です。

 上手く書けません。

 デイジー、働いて……。


 頑張ります。

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