異世界初日が無事?終わる
「出来た!」
「ちょっ!今……い、ま……何……っ!?」
ぺらぺらの皮と毛だけになった、正に毛皮を持ち上げて満足していると、エレオノーレさんがブルブル震えながらこちらを見ていた。
「肉とかだけ【アイテムボックス】に入れるとかしたら簡単に毛皮が剥げるかなって思いまして、実験してみました。思いの外うまくいったと思うんですけどどうですかこれ?」
「無詠唱で訳の分からない高位魔法を使用した上に【鑑定】だけじゃなくて【アイテムボックス】もですって?」
ぺらり、と毛皮を広げて見せると、眉間に皺を寄せて信じられない、という顔。
決して毛皮綺麗に出来てるね、すごーいって顔では無い。
あー……お察し。
「【アイテムボックス】ももしかしてもう無いスキルですか?」
「……無い、事はないわ。千人に一人くらいは持ってるもの。でもね、スペシャルスキルの二つ持ちはあり得ないわ」
まるで化け物でも見る様に俺を見るエレオノーレさん。
所謂レアスキルの様なとんでもない効果を発するスキルは一人につき一つまでだそうだ。
【剣技】や【格闘】などの努力をすれば獲得できるコモンスキルや、才能があれば使用できる人間の多いアンコモンスキルの【魔法】などと違い、【鑑定】や【アイテムボックス】などは天性のスキル、スペシャルスキルだ。
つまり、俺は異常だという事らしい。
おい、どういう事ですか、神様達。
ちなみに、鑑定できる人が減ってきた段階で、鑑定の魔術具が研究され始め、今では各街に一台取り扱いがあるそうだ。
とはいえ、かなり高価な魔術具で、よほどの物でなければ鑑定に使用できないそうだ。
無論、鑑定にもお金が掛かるらしい。
維持費もとんでもないらしいから、国からの貸し出し、という形の様だ。
「ま、まあ、神様候補からの謝罪の気持ちなので……」
「ないわ!」
タハハ、と笑うと鋭い視線と怒鳴り声が返ってきた。
俺は悪くないのに……美人、こわい。
ジャックがエレオノーレさんを宥め、俺に視線で謝ってくる。
まるで猛獣使いだ。
見た目は逆なのにな。
とりあえず、仕上がりに問題が無いことを確認してもらい、(念の為鑑定して)残りの全部を同じように毛皮剥ぎをしていく。
毛皮のなめし作業は依頼主がするとのことなので、その状態で一旦保留。
塩をたっぷり揉み込んで、夜風に当ててしっかり乾燥させるそうだ。
最初のダメにしちゃった皮以外で五匹。
移動で一日掛かるから残りはあと二日しか無いそうだ。
二日で十匹でしょ?
ちょっと時間やばくない?
「そうなんだよなぁ…なぁなぁ、キリトちゃんとこではどうやって動物捕まえてたのさ?」
「ちゃんって……まあ良いですけど、罠とかですかね?狐は害獣で、田舎の婆ちゃんがいっつもブチ切れながらカゴ罠仕掛けてましたね。こう、中の餌食べたらガチャンって閉まるやつ」
俺の肩に肘を掛け、底の見えない胡散臭い笑顔でちゃん付けで呼ぶヤンスさんに苦笑いしつつ木の枝で地面に図を書く。
カゴ罠と中に入って餌を食べたキツネと閉まったカゴ罠の三つ。
効果音でガチャンって書こうとしたら見慣れない文字列になった。
びっくりだ。
しかも読める。
これが【言語対応】の実力か。
「グリーンフライフォックスの習性が解れば罠も掛けられるんですけどね〜」
「それが分かれば苦労はないわよ」
「だなぁ」
みんなであーでもない、こーでもないと話し合う。
かなりの希少種で、中々見つけられないのだそう。
しかも素早く、生態や習性なんかもほとんど解っていないんだとか。
何を食べるのかすら不明らしい。
研究者は居ないのか?
そこでふと思った。
グリーンフライフォックス自体を【鑑定】してみたら分かったりしないかな?と。
まあ、やるにしても、少なくとも明日だ。
辺りはもう真っ暗だ。
天幕を一つ借りて寝る事にする。
身体のサイズの問題で、ヤンスさんと同じ天幕だ。
まぁ四分の一は見張りで居ないらしい。
俺は見張りはしなくて良いらしい。
ラッキーだ。
目を瞑ったらスコンと意識を失った。
どうやら意識していなかったけれど、かなり疲れていたみたいだ。