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63 妖精さんの魔法

 朝が来て、朝食の時間になると子供達がわらわらと起き出してくる。

 井戸の周りは大渋滞だ。

 仕方がないので水球で顔を洗うと、近くの子供達も俺の水球を使い始めた。

 小さくて自分で水を汲めない子が優先だ。


「にぃたんせんせー、そのまほおも、おしえてくだしゃい」

「?!」


 くいくいと服の裾を引っ張られる。

 そちらに視線をやれば、昨日舌足らずながら素晴らしい修繕魔法を見せていた四歳くらいの女の子だ。

 向上心に満ちていて素晴らしい!のだが『にぃたんせんせー』?


「でいじーねぇねが まほおをおしえてくれるんだから せんせーってよびなしゃいって」


 イーリスと名乗った幼女は俺の疑問に律儀に答えると、もう一度魔法を教えてくれ、と懇願する。

 その真剣な瞳に、俺は膝をついて視線を合わせると彼女の手を取る。


「魔法は便利だけど、とっても危険なものでもあるんだ。イーリスはまだ小さいから一人でいる時は使わないって約束できるかな?」

「できる!いーりしゅ、ひとりだけでまほお つかわない」


 イーリスは真面目な顔で力強く頷き、ゆびきりげんまん、と小指を立てて絡ませてくる。

 この世界に指切りがある事に驚いたが、イーリスの真剣さにも驚いた。

 何がそこまで彼女にそうさせるのだろうか?

 朝食後に教える約束をして、手を繋いで食堂に向かう。

 食事中にデイジーとエレオノーレさんに事情を説明し、同席してもらう事にした。


「水球なんて高位魔法、子供に使えるわけないわ」

「わかりませんよ?子供の方が想像力が豊かな分魔法には向いているんじゃないかと」

「土魔法はあっという間でしたもんね」


 水魔法なので万が一を考えて、孤児院の裏手にある森の中で練習する事になった。

 午前中は勉強や掃除、昼食の用意がある為、子供達は昨日の夜程は多くない。

 まだ仕事のできない五歳以下の子供三人だけだ。

 一人ずつ手を繋いで水球の呪文を唱える。


「俺の中に居る水の妖精さん、きれいなお水を少し分けてね。この両手のひらに乗るくらいを目の前に」


 小さなイーリスの手を支えながら、ほんの少しだけ魔力を流してグレープフルーツ程の水球を作る。


「すごーい!ういてる!」

「なんでー?!」


 目を丸くしながらぐるぐる回って観察したり突いたりを繰り返す子供達。

 何故かと聞かれたらそういう魔法だからとしか言えないけど、多分これを納得しないと発動できない気がした。


「うーん……、妖精さんのお水だからかな?」

「どういうこと?」

「ほら、妖精さんは空を飛べるだろ?だからお水も浮かべる事が出来るんだ」

「(ちょっと!いくら何でも無理があるわよ!)」


 自分でも苦しい言い訳だな、と思いながら説明すると案の定エレオノーレさんからツッコミが小声で入った。

 だよねー。

 どうしようかなー?

 三人で悩んでいると、明るい幼い声が響いた。


「できたー!よおせえさんあいがとー」

「ぼくもできた!」

「あたしも!ありがとうようせいさん!」


 目の前には小さな水球を浮かべる三人の子供がいた。

 口々に居もしない妖精に感謝の言葉を述べる子供達。

 あまりにも尊い。

 まるで彼等自身が光り輝いている様だ。


「って本当に光ってないか?!」


 三人がキラキラピカピカ光っている。

 ピーターパンのお話にある、妖精の粉を掛けられたみたいだ。

 本人達は見た感じ苦しんだり、怯えたりはしていないが、光を不思議そうに眺めている。

 光は程なくして消えた。

 子供達に何かあっては大変だと慌てて【鑑定】すると、とんでもない事が起きていた。


 イーリスのステータス

  イーリス Lv.2 女 四歳

  ジョブ 孤児

      異世界からの転生者(無自覚)

  スキル 【家事】

      【忍耐】

      【妖精さんの魔法】NEW

  加護 アルマ女神の加護 NEW


 なんか変なスキルにこの世界の女神の加護まで付いてるんですけど?!

 それに『NEW』ってなにさ?!

 今付いたばっかりなわけ?!

 混乱した頭で見ていたら【鑑定】が発動して、“今獲得したばかりのステータス”だってさ!でしょうね!それ以外にないもんね!

 あと、見逃せないジョブもあるけどとりあえずは後回しだ。


 他の二人の子供達も確認したら、同じように【妖精さんの魔法】とアルマ女神の加護を取得していた。

 マジかー……コレ、最大級のやらかしじゃねぇかなー?

 いや、ワンチャン俺の責任じゃない気がしないでもない。

 あー……、エレオノーレさんに恐くて聞けないわー……


 とりあえず、子供達の不利になるような事は、一切無かったと心配する二人に伝えたところ、信じてもらえなかった様で、疑いのまなこで俺を見ている。


「言いたい事も聞きたい事も沢山あると思うけど、後でにしましょう。ちょっとここじゃまずそうです」


 近くで話を聞いている人は居ないものの、山菜や獣を狩りに来たと思しき人がチラチラ見える。

 下手な事を言うとこの子達が誘拐されかねない。

 辺りに視線を配ると、二人は小さく頷いて子供達に誘拐される恐れがあるので、人前で魔法を使わない様に約束させると、この場を解散させた。


「おとおさんたちにおしえてあげるのー」


 三人はデイジーの手を引きながら、孤児院まで転がる様に走っていく。

 それをエレオノーレさんと見送った。

 防音の為に、最大限に魔力を込めて真空の壁をつくると、勇気を出して尋ねてみた。


「エレオノーレさん、『アルマ女神の加護』持ってる人ってどれくらい居るか分かります?」

「女神の加護なんて貴方以外、おとぎ話の勇者くらいのものね……ってまさか?!」


 俺の質問に何気無く答えてぐるりとこちらを見る。

 こくりと頷いて、また子供達に視線を戻す。


「さっきのピカピカはそれだったみたいです。ついでに【妖精さんの魔法】ってスキル知ってたりしません?」

「〜〜〜っ!知るわきゃないでしょうが!何よそのふざけた名前のスキルは!」


 悲鳴の様な怒声をあげて、頭を掻きむしる。

 デスヨネー。

 結局普通は知りようがないよね、という事で俺たちは何も知らないことにした。


 妖精魔法ではなく“妖精さんの魔法”という響きが物凄く不穏なのだけれど、俺は関係ない。関係ないったらない。

 いつも俺不運を読んでくださってありがとうございます!

 なんと、皆さんのおかげで総合評価300ポイントを超えました!

 嬉しすぎて、信じられなくて、三度見しました。

 本当にありがとうございます!


 いいね、ブックマーク、評価めちゃくちゃやる気が出ます!

 ストック激ヤバですが頑張って続き書きますのでこれからもどうぞよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
逆に、キリトさんが元居た世界に、魔法の有る異世界からの転生者が生まれることも有るでしょうか。 そして、何かの拍子に、前世の記憶を魔法のスキル込みで思い出すのです。
[良い点] 転生したことの自覚がない人もいるのか…。イーリスちゃんみたく才能を発揮出来ないまま再び亡くなった転生者も結構いるんでしょうなぁ…世知辛い。
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