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58 不穏な孤児院

 ギルドに完了報告、報酬の受け取りに行き、その他諸々の処理(酒の引き渡し等)が終わると「そのうち遊びに来てくれよ」と名残惜しそうにエーミールさん達は去っていった。


 ペーターとライナーさんは涙まで流していた。

 ペーターの教育に悩んでいたライナーさんは競い合う俺のお陰でペーターが真面目に勉強に取り組む様になり、教育し易くなったらしい。


 ちなみに、今回の仕事で一番大きな収穫があったのは、恐らくペーターだろう。

 彼のステータスに【アイテムボックス】がある事に気づいたのだ。

 元々スキルはあったのだが、字が読めず、書けず、使用できずで不明のスキルだったらしい。

 こっそり【鑑定】した俺は、それとなく作文にその単語を入れてみた。

 案の定食い付き、ペーターが【アイテムボックス】を使用できる事が発覚した。


 普通はなんとなく使用方法がわかるのがスキルなのだそうだが、存在を認識していなかった為に上手く使えないらしい。

 それからは使い方の練習を有料で行い(交渉はヤンスさんだ)半月の道中にキッチリ使える様になった。


 その結果、今回運んできたお酒は帝都からはペーターの【アイテムボックス】で運ぶ事になった。

 次回からはペーターが最初から運ぶのだろう。

 まぁ、入れっぱなしで何日も、というのはまだまだ難しいらしく、夜休む時は取り出して他の商品と一緒に保管する事になるだろう。


 本来、スキルは成人の時に、神殿で喜捨をする事で確認されるらしいのだが、ペーターは実家が貧乏でお金が足りず確認されていなかった。

 お金払わないと確認してくれないとかケチ過ぎない?後で分割払いとかでも良いじゃないか。

 この世界の宗教団体はケチだな。

 ん?いや、神社とかでも玉串代とか色々言われるしどこも似た様なもんかな?

 なまじ強力な【身体強化】を持っていたが為に、【アイテムボックス】の様な、スペシャルスキルがあるとは思ってなかったんだそうだ。


「必ず顔を出してくれよ!必ずだからな!」


 ずびずびと鼻を啜りながら、手を振ってくるペーターに手を振り返す。


 護衛クエストは大変だ、割に合わない、と聞いていたけど、全然そんな事は無かった。

 確かに、マヨネーズの件では大変な思いをしたけれど、それを補って余りあるくらいには実りのある依頼だった。


 そりゃあ勿論、エーミールさん達の様な、良い依頼主ばかりじゃない事はわかっているけれど、それでも、とても有意義に過ごす事ができた気がする。

 じんわりと達成感と喪失感の様な、不思議な感情を噛み締めた。


「じゃあまずは拠点の候補地だな!んで、デイジーの孤児院に行く流れで良いか?」


 しんみりした空気を振り払って、オーランドが明るく言う。

 実に切替えがすばらしい。

 早速俺達は、今出たばかりのギルドに戻る。


 俺は要望書(欲望かもしれない)を取り出して、相談窓口に向かう。


 ハンターギルド内は買取・納品窓口、受注窓口、相談窓口の三つがある。

 読んで字の如くなんだけど、先の二つ以外の内容を受け持つのが相談窓口だ。


 今回の拠点もそうだし、パーティを探していたり、デイジーの様に事情があって抜けたり、お財布に優しい信用出来るお宿を教えてくれたりと様々だ。


「ありませんね」


 その相談窓口の受付嬢が笑顔でスッパリと切り捨てる。

 ただでさえ住民が溢れていて孤児院さえ街の外に作らざるを得ない様な状況だ。

 家賃が払えなくなった人達や、税が払えない人達は外壁にへばり付く様にほったて小屋を作り雨風を凌いでいるらしい。

 所謂スラム街だな。

 賃貸ならまだしもこの規模で買い取り物件等は無いそうだ。


 がっくりと肩を落とした三人組を引きずって孤児院に向かう。


 教会は北の門の近くにあるのだが、孤児院自体は門の外側にあるそうだ。

 元々は教会に併設されていたそうなのだが、教会の拡張の関係で門外に急遽作られたらしい。

 それが約三十年前の事だそうだ。

 今はだいぶガタがきていて雨漏りに壁、床は穴だらけだと言う。


 デイジーが北門を潜ると、壮年の兵士が駆け寄ってきた。

 刈り込んだ灰色の硬そうな髪と、ブルーグレーの瞳。

 日に焼けた肌には笑い皺が目立つ。

 なんとも人の良さそうなおじさんだ。


「デイジー!お前、デイジーだろ?!丘の上の孤児院の!」

「兵士のおじちゃん!?」


 デイジーも驚いてはいるがなんだか嬉しそうだ。

 人見知りの彼女とは思えない程、無警戒にパタパタと走り寄っていく。

 わしわしと乱暴に頭を撫でる姿は、子供好きな親戚の叔父さんの様だった。

 そして俺達は、この兵士からとんでもない話を聞いて、慌てて孤児院に向かうことになる。


 北門から出て普通に歩いて十分ほどの距離をデイジーに先導されながら走る。

 小高い丘の上に塀と尖塔が見えた。

 門は開きっぱなしだ。

 中から何か言い争う声が聞こえた。

 ーー嫌な、予感がする。

 いつも「俺不運」を読んでくださってありがとうございます。


 こちらが今年最後の投稿となります。

 約半年、長かったような短かった様な気が致します。

 ここまで読んでくださった皆さんには、大変お世話になりました。


 クリスマスの間話は驚くくらい読んでくださった方が多くて、とても嬉しかったです。

 次回はお正月に間話を投稿できたらな、と思っております。

 内容はまだまだ未定ですが、エレオノーレ視点での出会いの話になる予定です。


 それではどうか皆様良いお年をお過ごし下さい。

 来年もどうかよろしくお願い致します。


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― 新着の感想 ―
[一言] 凄く自分好みで面白すぎる。 読むのが追いつく前にどんどん更新されていかないかな。 わがままなのは分かっているけど、徹夜して読んでる。
[一言] 宗教も設備維持や食費とか色々と経費が掛かるからね。 現代でも一部税金が免除されていても、色々と大変みたいだしね。
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